ダンジョン歴7日目Ⅱ

 少し落ち着いてきた。状況は、思ったほど悪くないかもしれない。深層ダンジョンは未知の領域だが、『戻る』ぶんには、既に一度通った道だ。モグラは探索中に迷わないよう、目印を残していく。それを首尾よく探し当て、数時間辿って歩けば、昨日寝泊まりしたキャンプに戻れる筈だ。

 問題は、他のモグラ連中がどこへ行ったのかだ。地上へ引き上げたのか、それとも更に深層へ進んだのか。まずは、良い方から考えよう。戦利品をどこかに隠して、深層へ進んでいた場合。多分、浅い階層のキャンプに留まれば、そのうち向こうから戻って来る。俺は「途中ではぐれた間抜け」と「自力で合流した猛者」の中間、つまり「迷惑かけやがって」という生暖かい視線を受けながら、無事に帰路につけるだろう。戦利品はナシだが、仕方ない。命あっての物種だ。

 次に、少し悪い場合。他の奴らが深層ダンジョンのどこかで哀れにも息絶えていた場合だ。一見最悪に見えるかもしれないが、そこまで悪くない。何故なら、今回の深層ダンジョン探索は王命だ。だから、モグラの群れの中には当然、お目付け役の貴族と騎士様が混じっている。

 彼等は探索が順調だったときは正直言って足手まといだったし邪魔だったが(モグラ達が見つけた品物をくすねないようにするのが騎士様の主な仕事だからだ)、全滅したなら話は別だ。貴族が行方不明となれば、捜索隊が出るだろう。だから、少し時間はかかるかもしれないが、俺はそいつらに拾って貰えるはずだ。

 最後に……最悪の場合。それは、俺以外の全員が無事のまま、地上へ引き上げていた時だ。この場合、いつまで待っても誰も戻っては来ない。仮に次の探索が出るとしても、同じルートを通らない可能性が高い。俺は一人でダンジョンの入口まで辿り着かなければならないことになる。

 そして、困ったことに。この最悪の場合の可能性が一番高い。俺達はこの階層までは難なく辿り着けたし、モグラどもは戦利品を沢山抱えていた。付け加えれば、お目付け役の貴族様はダンジョンの環境が肌に合わず、かなり帰りたがっていた。こんな状況で犠牲者(つまりは俺だ)が出れば、何が起こるかなんてことは火を見るよりも明らかだ。

 俺は間抜けなモグラの一人として忘れ去られ、それでおしましだ。


 ……想像が悪い方向に働きはじめている。多分、目が覚めてから何も食べてないせいだ。食料も溶けてしまったが、まだダンジョンの植物に手を付ける気にはなれない。

 俺のすべきことは決まっている。まずはキャンプを目指すことだ。考え事をするのはそれからだ。運が良ければ、物資の残りかす程度はあるかもしれないし、一晩寝ればきっと、何かいい手を思いつくだろう。

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