ダンジョン歴7日目

 といっても、「俺を残して全滅した」とかそういうわけじゃない。むしろ逆だ。

 俺たちは6日かけて、第五層まで辿り着いた。はっきり言って驚異的なペースだった。伊達に王国中から腕っこきのモグラを搔き集めてない。三層までに巣食っていたゴブリンを退治し、その下の植物モンスターの根城もあらかた抜けたところで、犠牲者はほぼゼロだった。

 だからみんな浮かれていたし、背負い袋の中はもう戦利品(ゴブリンから剥ぎ取った装備や、希少な薬草なんかだ)で満杯だった。そろそろ一度、地上に引き上げようか。そんなことが頭を過っていた頃だ。

 俺は、罠に引っ掛かった。注意を怠っていたせいで、巨大なウツボカズラみたいなモンスターに頭からパックリ飲まれた。そしてそのまま気を失った。多分、瘴気が中に溜まっていたか、途中で頭でもぶつけたんだろう。

 モグラは一緒に潜る仲間を大事にはするが、見失った人間については驚くほど冷淡だ。それは探そうとすれば、次に犠牲になるのは自分だからだ。俺もそうだ。だから、見捨てられたことに文句はない。だが計算外だったのは、俺が自力でモンスターから脱出した時、丸一日が経っていて。仲間は既に立ち去った後だったということだ。

 俺の背負い袋は粗方溶かされ、戦利品も台無しになっていた。俺自身が溶かされなかったのは、多分比較的早めに目が覚めたのと、虫除けに装備をよく燻しておいたからだろう。あとは恐らくこれが一番大きいと思うんだが、単に幸運だったからだ。

 兎に角俺は、モンスターの腹の奥で(腹と言っていいのか疑問だが)グズグズの肉塊になる運命からは逃れたものの、補給品も無しでこの深層ダンジョンに取り残されたということだ。

 無事だったのはダガーと、懐にしまっておいてたこの日記帳くらいのものなので、俺は今、自分を落ち着けるために必死で日記を書いている。だから字が震えているのは、どうか勘弁してほしい。

 地上の日付はわからないので、今日をダンジョン歴7日ということにして、毎日日記をつけていくことにする。もしも明日も、俺が生き延びていられればだが。

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