ひとりぼっちダンジョン

碌星らせん

ダンジョン歴7日目-まえがき-

 この日記を読んでいる誰かは、ダンジョンというものをご存知だろうか。

 ……いや、知っているに決まっているな。馬鹿っぽい書き出しになってしまった。この国の人間なら、子供でも知ってる。でも、将来この日記は複写されて全国の貸本屋に並び、母親の子供への読み聞かせにも使われる予定なので、一応説明しておく。ダンジョンというのは太古の昔、誰か、或いは何かが作った巨大な地下の建物の総称だ。

 この国の地下には数百とも言われるダンジョンが眠っている。しかしその大半は、少なくとも表層までは人の手が入っている。古代の環境維持魔法は今も健在で、地下に街ができているところまである。

 しかし問題は、数百年、或いは数千年にわたって人の入っていないダンジョン、つまりは深層ディープダンジョンだ。ここでの深層ディープというのは、深さとは実はあまり関係がない。どれだけ潜る人間が少ないか、という話だ。

 深層ダンジョンは未知の領域だ。まず間違いなく魔物の住処になっているし、未知の動植物が居ることも珍しくない。記録では神代の怪物を見たとか、果ては異界に繋がっているなんて噂まである。だから、普通の人間にとっては、なるべく近寄らないのが賢明だろう。

 しかし同時に、についても知っておくべきだ。

 二十年前、ゴブリンの襲撃で3つの村が滅んだ。発生源は深層ダンジョンだった。八年前、スライムが大量発生し、始末にあたって火炎魔導士を駆り出して、山一つとエルフの集落一つを焼く羽目になった。そのスライムは、埋もれた深層ダンジョンの入り口から噴き出していた。三年前には、王都でクーデター未遂があった。どうも、反体制派は放棄されたダンジョンをアジト代わりに使っている、と噂になっている。

 深層ダンジョンは、潜らなければ安全なんて代物じゃない。放っておけば災厄が噴き出す箱でもある。

 だから、誰かが深層ダンジョンを踏破する必要があった。災厄の根元を断つためだけじゃない。手付かずのダンジョンの深層には、ダンジョンが作られた時代……つまり、今より遥かに力を持った神話の時代の魔法や遺物が眠っている可能性もある。

 どちらかといえば、後者の理由が大きい気もするが。今の国王は重い腰を上げて、深層ダンジョンを攻略することに決めた。そのために国中から腕に覚えのあるモグラ(ダンジョン探索者のことだ)をかき集め、深層ダンジョンに乗り込ませた。

 その一人が、俺というわけだ。

 いや……「その一人」と書いたが、正しくはない。何故なら、今は俺一人になってしまったからだ。

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