勝利の鐘は青空に響く

夜野さくら

第1話 フィールドの記憶

 熱気を含んだ風が爽やかに吹き抜けた。

 眼前には緑の海原、身を包んだオレンジ色のユニフォーム、全身を揺らす割れんばかりの観客の声援。高鳴る鼓動は一向に治まる気配はない。

 目の前の階段を上れば、そこにはもうピッチが広がっている。両チームの選手たちは、入場を今か今かと待ちわびている様子だった。


 俺はゆっくりと目を閉じ、胸に手を当てた。そうだ、これから俺は――


 目を閉じ真っ暗な視界には、これまでの人生が色鮮やかに映し出されていた。これまで、本当に色々なことがあった。楽しいことも辛いことも、本当にたくさん。


 ――この景色が、見えているか? この声が、聞こえているか?


 俺は誰かに語りかけるように、心の中で呟いた。呟きながら、12年間のサッカー人生に想いを馳せていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る