金髪留学生はニンジャに憧れる(2稿)



人物

藤原アヤカ(17)女子高生

ベルナルド・アロンゾ(17)留学生

藤原源之助(45)アヤカの父


執事


◯スーパー・内(夕)

 店内は主婦客たちで混雑している。

 客たちは一見、おだやかな表情をしているが、瞳の奥に獲物を狙う肉食獣のようなギラついた気配がある。

 時計の長針がカチ、カチと一マスずつ進み、五時を指す。

店員の声「ただいまよりタイムセールです。タマゴ、お一人さま1パックで30円です」

 売り場に客の群れがドッとなだれ込み、怒声がとびかう。

 押し合い、商品の奪い合い。

 主婦客たちをかきわけて、制服姿の女子高生、藤原アヤカ(17)がタマゴのパックを持って現れる。

アヤカ「ふぅ」

 アヤカ、スーパーのチラシの束を取りだす。

 タマゴ1パック30円に赤マジックでマルをつけ、新たなチラシをめくる。

 モヤシ1袋3円の文字。

 靴紐をギュッと締め直す。アヤカの足下はくたびれた白のスニーカー。



◯道(夕)

   高級な外車が道路を走っている。



◯車内(夕)(※台詞はイタリア語で、日本語字幕)

 金髪の碧眼の青年が、窓の外の景色が流れていくのを優雅に眺めている。

 ベルナルド・アロンゾ(17)。

 何やら電話をしている執事。執事の手に『忍者教室』のチラシ。

執事「……申し訳ありません。ベルナルド様、また断られました」

ベルナルド「金ならいくらでもだすと言ってやれ」

執事「いえ。お金の問題ではなく、弟子をとること自体やってないと……」

ベルナルド「まいったな。父上さえ騙せれば、それでいいのに」

 執事、渋い顔をする。

執事「坊ちゃま」

ベルナルド「ああ、すまない。分かってるさ。やるからにはボクもモノにしたいと思っている」

 執事、ため息。

 車に急ブレーキがかかる。

 ドン、と車が何かにぶつかる音。

ベルナルド「なんだ!?」

 運転手、青ざめる。

運転手「ウワ! なんてこった!」




◯道(夕)

 道路にぐったりと倒れているアヤカ。

 アヤカに駆け寄るベルナルド。

 道路上でスーパーの買い物袋が破れ、パックのタマゴが割れている。

 束ねられた安売りのチラシが散乱している。

 傷ましそうに顔をそむけるベルナルド。

ベルナルド「うちの運転手が、すまない……」

 アヤカ、むくりと立ち上がる。

ベルナルド「っ!」

アヤカ「あーっ! タマゴ割れてるー!」

ベルナルド「キミ、平気……なのかい?」

アヤカ「わっ高そうな車! 飛び出したのは私だけど、うちお金ないから弁償は勘弁してよ! じゃ!」

 アヤカ、買い物袋を回収し立ち去ろうとする。

ベルナルド「待つんだ!」

 ベルナルド、逃げだすアヤカの腕をつかもうとする。

 腕をつかまれたアヤカ、ニッと笑う。

 突風がふく。

 ベルナルドが顔をしかめると、次の瞬間にはアヤカは歩道橋の手すりの上に立っている。

ベルナルド「なんだって!?」

アヤカ「それ、あげるから弁償は勘弁してよ」

 アヤカ、歩道橋を駆け上っていき姿が見えなくなる。

 ベルナルド、アヤカをつかんでいたはずの手の拳をひらく。

 手裏剣がでてくる。

ベルナルド「マジック? いや……」

 手の中の手裏剣を見つめるベルナルド。

執事の声「坊ちゃま!」

 執事がでてくる。

ベルナルド「見つけたぞ! 本物だ! これなら父さんも文句あるまい」

執事「は?」



◯アヤカの家・外観(夜)

 古びた和風家屋。

 塀に『忍者教室・弟子募集中』の貼紙。

 食材のつまった買い物袋を下げて、アヤカが家の中へ。



◯同内・源之助の部屋(夜)

 アヤカ、部屋に入ってくる。

アヤカ「ただいまー」

 藤原源之助(45)、背中をビクッとさせ何かをコタツの中に隠す。

藤原「おかえり」

アヤカ「……今なにか隠したでしょ?」

藤原「何の話だ?」

 アヤカ、コタツに広げられているカタログに目をやる。

 リフォームの見積もりカタログ。

アヤカ「……?」

 アヤカ、コタツに手をつっこみ無造作に漁る。

藤原「あっ、コラ!」

 分厚い札束がでてきて、ギョッとするアヤカ。

 お札を一枚抜いて、すかしを確認する。

アヤカ「……なにこれ?」

藤原「それは一万円紙幣と言って、日本銀行券の1つだ」

アヤカ「どうやって手に入れたかって聞いてるのよ!」

ベルナルドの声「着替え終わりました」

 忍者装束姿のベルナルドが部屋に入ってくる。

アヤカ「げっ!? なんでアンタがここに……」

ベルナルド「やあ」

 アヤカを押しのけて前にでる藤原。

藤原「いやあ。よくお似合いです! 衣装はレンタル料が別途かかりまして……2万円です」

 電卓を叩いてベルナルドに見せる。

ベルナルド「なんだい。先ほどの代金には含まれてないのか」

アヤカ「!!」

藤原「よろしければ、撮影オプションもありますが……」

ベルナルド「そうだな。父さんへの証明になる。もらおうか」

藤原「おい、アヤカ。撮影の準備だ、準備!」

 藤原に急かされ、しぶしぶと言ったていで従うアヤカ。



◯同・藤原の部屋(夜)

 部屋にはアヤカと藤原。

アヤカ「あんな外人を鍛えろって言うの?」

 湯飲みで茶を飲む藤原。

藤原「街で見かけたおまえの忍術に惚れ込んだんだと」

アヤカ「迷惑かけたお詫びのつもりだったけど、やらなきゃよかった」

藤原「そう言うな。アロンゾ君は羽振りがいい。おかげで家計が助かるだろ? 彼は父親に認めてもらうため、忍者の修行をしに 日本に来たそうだ。頼むよ」

アヤカ「……」


◯アヤカの家裏・竹林(朝)

 まだ薄暗い中、朝の陽射しが竹林に差し込んでいる。

 ジャージ姿のアヤカ。その足下に古びたラジカセ。

 忍者装束姿のベルナルドが、あくびを押し殺しながら歩いてくる。

ベルナルド「なにもこんな朝早くからやらなくてもいいんじゃないか?」

アヤカ「文句いわない。私には学校があるの」

ベルナルド「さあ、ボクに何を教えてくれるんだい? 手裏剣の投げ方かい? それともブンシン・ジツ?」

アヤカ「ラジオ体操よ」

ベルナルド「なんだい、それは?」

 アヤカがラジカセのスイッチを入れると、ラジオ体操が流れ始める。

アヤカ「私の動きを真似して」

 アヤカが堂々とラジオ体操を始める。

見よう見まねでベルナルドも行う。

 離れたところから藤原が二人の様子を見ている。

ベルナルド「これが忍者の体操なんだね?」

アヤカ「ちがうわよ。ただの準備運動。次は走り込みね。竹林を一〇周」

 ベルナルド不満そう。

ベルナルド「待ってくれ。アヤカはボクを陸上の選手にするつもりかい。忍者の修行を伝授してくれないか?」

アヤカ「忍者修行の第一歩は体力よ」

ベルナルド「走り込みならイタリアでもできる。日本でしかできないことをやりたいんだ」

アヤカ「私を抜けたら考えてあげる」

 走りだすアヤカ。

ベルナルド「……」

 追いかけるベルナルド。

ベルナルド「ヘイ、アヤカ。ペースが遅いん じゃないか? ボクは母国のスクールではリレーの選手だったんだ。さっきの約束は守ってもらうよ」

 ペースをあげてアヤカを抜かそうとするベルナルド。

 一向にアヤカとの距離は縮まらない。

ベルナルド「……!」

 ベルナルド、足を止めて呼吸を整える。

アヤカ「ちゃんとペースを考えなて走らなきゃダメよ」

ベルナルド「……それも忍者のジツかい?」

アヤカ「ただの体力の差よ」


◯アヤカの家・食卓(朝)

 ベルナルド、食卓に入ってくる。

 アヤカがエプロン姿で白飯を茶碗によそっている。

食卓にはおかずに味噌汁。

ベルナルド「なんだ、昨日と同じじゃないか」

アヤカ「あなたが来るの急だったから、仕方ないでしょ」

ベルナルド「……忍者メシはないのかい?」

アヤカ「そんなものないわよ」

 藤原が朱塗りのお盆に、巾着をのせて持ってくる。

藤原「そう言うと思って、特別なご食事を用意させていただきました」

ベルナルド「なんだいこれは!?」

 ベルナルドが巾着をほどくと、乾燥した米粒が出てくる。

藤原「干し飯と言って、忍者の携帯食糧です」

アヤカ「ちょっと! 父さん、勝手なことしないでよ」

ベルナルド「……これを、このまま食べるのかい?」

 頷く藤原。

おそるおそる口にふくむベルナルド。

ベルナルド「マズイ……。なんてストイックな! これこそが忍者だ……」

 アヤカ、あきれ顔で深くため息。

アヤカ「それだけじゃお腹減るでしょ」

藤原「(小声で)いいじゃないか、彼が喜んでいるんだから」

アヤカ「……」



◯学校・外観

   公立高校。



◯同・教室

 教卓に立っているベルナルド。

ベルナルド「忍者の修行にきました。よろしく」

 生徒たちが沸き上がって歓声が上がる。

 アヤカはげんなり。


    *  *  *


 チャイムの音。

時計の針は一〇時前を指している。

 ベルナルド、自分の席で生徒たちに囲まれて質問攻めされている。

 ベルナルドは顔色わるく、表情もつらそう。机の下でお腹を押さえている。

 その様子を見てアヤカ、ため息。

アヤカ「ちょっとこっち来て」

ベルナルドの腕を引き、教室から出て行くアヤカ。


◯同・屋上

 アヤカ、ベルナルドにアルミホイルの包みを手渡す。

 ベルナルドがひらくと、中からおにぎりがでてくる。

アヤカ「お腹へってるんでしょ」

ベルナルド「これは忍者の……?」

アヤカ「(ため息)普通のおにぎり」

 ベルナルド、片目をつぶり口をすぼめ、

ベルナルド「オウ! この味は忍者の……!?」

アヤカ「ただの梅干しだから」

 ベルナルド、残念そうな表情で、もそもそおにぎりを食べ始める。

ベルナルド「どれくらい修行すれば、アヤカみたいになれるんだい?」

アヤカ「本人の努力次第だと思うけど……頑張れば五年くらい?」

ベルナルド「五年!? ジョークかい?」

アヤカ「……」

 ベルナルド、アヤカに壁ドンする。

ベルナルド「アヤカの修行は地味すぎる。ボクはひと月で父に修行の成果を見せたいんだ。修行内容の改善を要求する」

アヤカ「それは……ムリよ」

ベルナルド「わかった。アヤカ、きみはボクが外国人だから忍者の修行を教えたくないんじゃないのかい?」

アヤカ「そんなつもりじゃ……! 本格的な修行をしようと思ったら、先に体を鍛えなきゃ危険だから……」

ベルナルド「もういい! 修行は源之助に教わる。金に目がない彼なら、手裏剣の投げ方を教えてくれるだろうからね!」

 怒ってベルナルドを寂しそうな目で見送るアヤカ。



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2稿です

大幅に変えました。


2018/1/18indo

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(シナリオ)金髪留学生はニンジャに憧れる indo @nido1211

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