(シナリオ)金髪留学生はニンジャに憧れる

indo

初稿)金髪留学生はニンジャに憧れる(15分)

人 物

藤原アヤカ(17)高校生

ベルナルド・アロンゾ(17)留学生

藤原源之助(45)アヤカの父

ジュリア(21)


◯スーパー・内(夕)

 店内は主婦客たちで混雑している。

 客たちは一見、おだやかな表情をしているが、瞳の奥に獲物を狙う肉食獣のようなギラついた気配がある。

 客の一人が店内の掛け時計に目をやる。

 時計の長針がカチ、カチと一マスずつ進み、五時を指す。

店員の声「ただいまよりタイムセールです。タマゴ、お一人さま1パックで30円です」

 売り場に客の群れがドッとなだれ込み、怒声がとびかう。

 押し合い、商品の奪い合い。

 しばらくのち。

 人垣からにゅっとタマゴのパックを持った白い腕がつきでる。

 続けて頭。

 主婦客たちをかきわけて、制服姿の女子高生、藤原アヤカ(17)が現れる。

アヤカ「ふぅ」

 アヤカ、スーパーのチラシの束を取りだす。

 タマゴ1パック30円に赤マジックでマルをつけ、次のチラシをめくる。

アヤカ「次は隣町のスーパー、モヤシ1袋10円……」

 アヤカ、腕時計を見て、フッと笑み。

 腕時計は男子小学生がつけているような、黒くてゴツゴツした安っぽいもの。

アヤカ「……近道をすれば間に合うわね」

 アヤカ、唇をぺろっとなめる。

 靴紐をギュッと締め直す。アヤカの足下はくたびれた白のスニーカー。

 スポルディングのバッグを肩にかけて、走りだす。


◯道(夕)

 高級な外車が道路を走っている。


◯車内(夕)(※台詞はイタリア語で、日本語字幕)

 金髪の碧眼の青年が、窓の外の景色が流れていくのを優雅に眺めている。

 ベルナルド・アロンゾ(17)。

 傍らのエスプレッソを口にする。

ベルナルド「ジュリアの淹れてくれるエスプレッソは最高だね。ムリ言ってニホンについてきてもらった甲斐があったよ」

 側に控えているメイド服のジュリア(21)。

ジュリア「ベルナルド様……。ですが、やはり国に残してきた家族が心配です」

ベルナルド「すまない。ニンジャマスターを見つけるまでの辛抱だ。弟子入りさせてもらえたら、君たちは国に帰そうと思う」

ジュリア「どうしてそこまでして……お母様のためですか?」

 ベルナルドは、ペンダントのロケットを開いて、目を細める。

 線の細い金髪の女性の写真。

ベルナルド「ボクは強くならないといけない。そのためには……」

 運転手の視界に、アヤカが飛び込んでくる。

 車に急ブレーキがかかる。

 ドン、と車が何かにぶつかる音。

ベルナルド「なにが起こった!?」

運転手「女性が車の前に飛び出して……!」


◯道(夕)

 道路にぐったりと倒れているアヤカ。

 執事の制止を振り切って、車からベルナルドが出てきてアヤカに駆け寄る。

ベルナルド「ああ、神よ! このレディー、大怪我じゃないか! ニホンのレスキューの番号は……」

 とつぜん立ち上がるアヤカ。額からは血が流れている。

ベルナルド「what's!?」

アヤカ「ごめんなさい。近道しようと思って飛び出しちゃった」

 スカートの砂埃を軽く払い、散乱した荷物を拾うアヤカ。

アヤカ「お金持ちそうだし、車の修理代とかは勘弁してね。じゃ!」

 その場から駆け出すアヤカ。

ベルナルド「ウェイ! ……」

 道路にパスケースが落ちているのを、拾い上げるベルナルド。

 パスケースには手裏剣のストラップ。

ベルナルド「JAPANESE-NINJA-GIRL!?」


◯アヤカの家・玄関(夜)

 食材のつまった買い物袋を下げて、アヤカが入ってくる。

アヤカ「ただいまー」

 ベルナルドが玄関に立っている。

ベルナルド「チャオ」

 荷物をその場に落とすアヤカ。

 ベルナルド、アヤカの手をとり、手の甲にキス。

 アヤカ、ベルナルドにビンタ。

 ベルナルド、目を白黒させるが、やがて微笑む。

アヤカ「お父さん! お父さーん!」


◯同・藤原の部屋(夜)

 ふすまを勢いよくひらき、アヤカ。

アヤカ「ちょっと! お父さんどういうことなの!?」

 くたびれたコタツに、藤原源之助(45)。

 背中を向けて、大量のお札を手でめくりながら数えている。

 コタツの上には無造作にピン札の札束が置かれている。

藤原「おう、おかえり」

アヤカ「お父さん、説明して!」

藤原「そこにいるアロンゾ君が突然尋ねてきて、うちにホームステイしたいと言ってきたんだ」

 アヤカの背後にベルナルドが立っている。

ベルナルド「ボク、アヤカみたいなニンジャになりたいんデス!」

アヤカ「……ゴメン。全然意味わからない。わかるようにちゃんと説明して!」

 仁王立ちするアヤカの前で、正座をして肩を縮こまらせる藤原。


    *  *  *


アヤカ「お金に目が眩んで了承したの!? こんな怪しいガイジン!」

ベルナルド「HAHA。ひどい言われようデスね」

アヤカ「お金を返して今すぐ帰ってもらって!」

藤原「……それがな、できないんだ」

アヤカ「なんでよ!」

藤原「実はな、父さんおまえに内緒の借金があってな。それの返済にすでに三百万ほど使ってしまったんだ……」

アヤカ「馬鹿じゃないのーー!?」


◯学校・外観

 公立高校。


◯同・教室

 教卓に立っているベルナルド。

ベルナルド「ニホンの文化、学びにきました。よろしくお願いします」

 生徒たちが沸き上がって歓声が上がる。

 アヤカはげんなり。


◯教室(夕)

 チャイムの音。

 アヤカとベルナルドの二人だけが教室に残っている。

ベルナルド「アヤカ! 放課後デスよ。ニンジャの修行の時間デス」

アヤカ「ハア……」

アヤカM「なんでアタシがこんなことしなきゃ……」

(回想始まり)


◯アヤカの回想・アヤカの家・和室(夜)

 アヤカと藤原。

アヤカ「ベルナルドに忍者の修行を指導しろって~!? アタシが!?」

 湯飲みで茶を呑む藤原。

藤原「そうだ」

アヤカ「そりゃうちは忍者の末裔らしいけど……お父さんがやってよ」

藤原「忍者の子孫なのは、母さんの血筋だぞ?」

アヤカ「それはそうだけど……。そんな事情、あっちは知らないじゃん」

藤原「でも彼はアヤカに惚れ込んでうちに来たんだぞ? 一目惚れされたんじゃないか?」

アヤカ「やめてよ。そういう話。あんなキザな男、鳥肌たつ……」

 身震いするアヤカ。

藤原「なにも本格的な修行をやれっていうんじゃない。物好きなのガイジンの好奇心を満たすような、NINJAふうな修行をすればいいんだ」

アヤカ「う~ん……でもなぁ」

 悩むアヤカ。

アヤカ「そもそも、そんなことやってる時間ないって。明日だって、学校終わったらすぐにタイムセールでスーパーを回らなきゃ家計が……!」

 赤ペンでマルのつけられた安売りのチラシを藤原に突きつける。

藤原「もうそんなことする必要はないだろう」

 藤原、コタツの上の札束にぽんぽんと手を置く。

アヤカ「……!」

 アヤカの手からチラシが落ち、ひらりと舞って畳に着地する。

アヤカ「そっか、もう必要ないんだ……」

藤原「今まで苦労かけたな」

アヤカ「……それ、自分で稼いでから言ってくれない?」

藤原「ハッハッハ。アヤカは母さんに似て辛辣だなぁ」

(回想終わり)


◯学校・教室(夕)

 アヤカは手にもった開いたノートを目にやる。

 几帳面そうな字で修行メニューが書かれている。

アヤカ「それじゃ、忍者の修行を始めます」

ベルナルド「オーケイ。カモン!」

 アヤカ、折り紙の束を取り出す。

アヤカ「折り紙をやります」

ベルナルド「ORIGAMI!? 知ってマス。知ってマスが、オリガミ、忍者と関係ありマスか?」

アヤカ「忍者はね、折り紙を暗号に使っていたの。折り紙は忍者の初歩よ」

ベルナルド「ワオ!」

アヤカM「……ウソだけど」

 一羽鶴を折ってみせるアヤカ。

アヤカ「こうやって折るの。覚えた?」

ベルナルド「オーケイ」 

 いかにも不器用そうに鶴を折り始めるベルナルド。

ベルナルド「できマシた!」

 折り目がぐしゃぐしゃの鶴が完成する。

 アヤカはそれを容赦なくゴミ箱に捨てる。

アヤカ「……ダメ。やり直し」

 ベルナルド、一瞬悲しそうな表情をするが、すぐに次の鶴に取り掛かる。

 ゴミ箱のなかに捨てられた鶴が増えていく。

 黙々と鶴を折るベルナルド。

 ぼんやりとした表情で、スーパーの安売りチラシを見るアヤカ。

 十七時からタイムセールと書かれている。

 アヤカ壁の時計を見る。五時すぎ。 

アヤカM「もう必要ないんだもんね……」

 退屈そうにあくびをするアヤカ。

 窓から差し込んでくる夕陽が落ちてくる。

アヤカ「うん、これは合格」

ベルナルド「ヤッタ!」

アヤカ「今日はこんなところね。ご苦労様」

 ベルナルド、ホッとして一息つく。

アヤカ「……じゃあ、これをあと九百九十九羽ね」

ベルナルド「ワッツ!?」

アヤカ「千羽鶴つって、千羽折るのよ。千。サウザンド」

 ベルナルド、指で数字を数えながら、

ベルナルド「イチ、ニイー……サウザン!?」

アヤカ「忍者の修行に手先の器用さは不可欠なの。折り終えるまでは次のステップには進めないわ」

ベルナルド「オウ、ノウ……」

 明らかに気落ちするベルナルド。

アヤカ「千羽折れたら教えてね」

 ニコリと口答えを許さない笑顔でアヤカ。

アヤカM「さっさと諦めて帰っちまえ、このガイジン!」


〇アヤカの家・アヤカの部屋(夜)

 ぺたんこの飾り気のない布団で寝るアヤカ。


〇同・客間(深夜)

 畳の和室。

 "正"の字が大量にかかれた紙が壁に貼られている。

 薄暗い部屋でベルナルドが黙々と鶴を折っている。

 ベルナルドの背後にはすでに完成した鶴の山。


〇同・キッチン(朝)

 フライパンで料理をしている音。

 アヤカがエプロン姿で台所で料理をつくっている。

アヤカ「(遠くに呼びかけるように)お父さーん。ベルナルド起こしてきてー」

 ベルナルドが部屋に入ってくる。目の下に大きなクマ。

 料理中のアヤカに折り鶴一羽見せ、

ベルナルド「アヤカ! できマシた!」

アヤカ「あーはいはい、二羽目ね。朝食できるから座ってて」

ベルナルド「千羽目デス!」

アヤカ「ハア? ああ、ジョークってやつ?」

 藤原が大量の折り鶴を抱えて駆け込んでくる。

藤原「大変だ! ベルナルド君の部屋が折り鶴で埋め尽くされて……」

 山盛りになった折り鶴に目を見開くアヤカ。

アヤカ「嘘でしょ……」


/つづく

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