第4話 いってきまーす……大変だ!


 次の日、朝早く。

 


 顔を洗わせ、朝ご飯をパッパッとすませて、調査用の防具服を身に付けさせてる。  

 するとグッドタイミングで、護衛ギルドからお仕事を貰った人達二人がクルマで迎えに来た。 

 僕達にとって、いつもの二人だ。

 常連さんだな。

 


 コンコン……



 ノックの音がする。

 よし、行こう。



 「い━━━━━━━━」



 さてと……

 


 「よう、久しいな、綿モン」



 おい、いきなり綿モンはないだろ!

 僕は朝から怒った。



 「アハハハハ、よしよし、いい子いい子」



 いきなり僕の頭をなでなでする。

 あのねえ……

 ほらほら、エナちゃんがビックリ……ううん、きょとんとしている。

 彼女はソニアさんと言う。

 ショートヘアーの茶髪で、背はエナちゃんよりも高い。

 ソニアさんは生活指導員だ。

 


 生活指導員とは、森や山などに調査に出かける場合、未成年者もしくは初心者に付き添う人のことだ。

 案内人(ガイド)といっしょなんだ。

 自然の知識はもちろん、そこに住む植物や、動物や、魔物などの知識も必要だ。

 もちろん野宿になった場合の、知識も必要なのは当たり前だ。

 それからソニアさんには、もう一つ大切な仕事がある。

 彼女にクルマを、操縦して貰うことだ。

 


 「クルマ、いい! すごい!」



 そんなことを言いながら、ソニアさんはクルマに魅了された人だ。

 そのため操縦をすぐに、覚えてしまったらしい。 

 興味は大切なんだなあ。

 


 「おはよう、エナちゃん、お久しぶりです。ソニアだよ」



 ソニアさんが姿勢を正して、お辞儀をする。

 ショートヘアーのブラウンの髪に、クリクリとした目がエナちゃんに微笑みかけていた。

 エナちゃんは眉をひそめて、少し後ずさりしている。

 


 「私のこと、嫌いなのかな?」

 


 少しショック気味だ。

 ソニアさんはエナちゃんがお気に入り。

 エナちゃんは、可愛い顔をしているとみんなは言っている。

 なんだかあどけない表情が、いいんだとか。

 ソニアさん、エナちゃんのお嫁さんになってあげたら?

 


 「歳的に、私は上だし……それに……」



 ……ふうん。

 


 「エナちゃん、おはようございます」



 もう一人の人間があいさつする。

 こちらは男の人で、おじいちゃんだ。



 「こら、クマ!」



 おじいちゃんが、笑いながら怒る。



 「儂はアナンじゃよ」


 

 小さな体だけど、どこか力強さがあり、白い髪の毛には張りがある。

 シワだらけの顔は、やっぱりおじいちゃんだ。

 アナンおじいちゃんは長いから、僕はおじいちゃんと呼ぶ。



 「昔はもっと引き締まっていたし、髪も黒々していたんだ。おじいちゃんとはな」



 おじいちゃんが苦笑いしていた。

 アハハハハ……あっ、エナちゃんも少し笑っている。

 少しだけ、空気を読んだみたい。



 おじいちゃんは、昔軍隊にいた人だ。

 軍隊だから、戦争が始まったら、戦場に行って人を殺さないといけない。



 「……厳しいのう、クッキー」



 本当のことでしょ?

 だけどおじいちゃんは、戦場には行かなかった。

 平和だからだ。

 しかし平和でも、軍隊はある。

 


 「……」



 あっ、ごめんなさい、おじいちゃんを責めてるんじゃあないよ。

 だけど不思議なんだ。

 平和なら軍隊もいらないし、戦争を人間が何故するのか僕には理解できないんだよ。



 「クッキー、人間は複雑だからなんだ」



 ……複雑かあ。

 


 「あ━━━━━━━━━━━━━━」



 エナちゃんがクルマを、指差ししながら何か言っている。

 早く行こう。

 そんな感じかな?

 ソニアさんと、おじいちゃんは、アハハと笑っている。

 確かに、早く行かないとね。



 僕は二人に、今日一日のお願いをする。

 二人はエナちゃんに再びあいさつして、みんなで精霊馬(セイバ)に乗り込んだ。

 なんだか、いろいろありそうだけど、とにかく出発しよう。



 空は青い。

 なんだか、良い予感がする。

 するだけだけど……

 

  エナちゃんが創造した精霊馬(セイバ)は、土の道を走っている。

 ここらの道幅は、結構広い。

 その人の行き来のためもあるが、ガラリの街に物質を運ぶためでもある。

 そのためクルマも操縦しても、まだ道幅には余裕があった。

 エナちゃんは、二度寝している。



 精霊馬(セイバ)は半分以上、金属でできている。

 車輪はゴム、内装は木製だ。

 四人から六人は乗れそうなソレに、前はおじいちゃんとソニアさんがいる。

 操縦はソニアさんだ。

 おじいちゃんはその横で、くつろいでいた。

 エナちゃんと僕は、後ろのにいる。

 みんな木製の椅子に座り、柔らかいクッションが引かれていた。

 乗り心地は、思いのほか良いらしい。

 


 「どうやって、こんなの創ったんだ? なあクッキー」



 おじいちゃんが、聞いてきた。

 詳しくはエナちゃんに聞かないと、わからないよ。

 そう答えた。

 


 「確かに、そうじゃな。けどクッキー、エナちゃんにベッタリいるんだから、少しは知ってるだろ?」


 

 おじいちゃんが、また聞いてきた。

 わからないって!

 僕は困りながら、言った。



 「エナちゃんは、言葉がないからね」



 ソニアさんは、ポツリと言った。

 その後少しの沈黙があった。

 まるで魔法を失ったように……



 精霊馬(セイバ)のことは、エミリア先生に聞いてみると僕はおじいちゃんに言った。

 


 「またエミリア先生かあ」


 

 おじいちゃんは、少し声を大きく言う。

 


 「私は少し知ってるよ。クルマは太陽の熱と、ビリビリくるヤツと、大地の臭水の三つの燃料から走っているんだろ」



 ソニアさんが丸いワッカがついた、棒を操縦しながら言った。

 へえー、そうなんだ。

 それだけでもすごい。

 本格的に、エミリア先生に聞いてみないと。

 僕も少し仕組みに興味が湧いたぞ。



 「期待しているぞ、クッキー」



 おじいちゃんが笑っている。

 エナちゃんは、まだ夢の中みたいだった。

 


 ガラリの街の東側は、草原地帯が続く。

 この草原地帯を、アルマ草原と呼んでいる。

 アルマは人の名前らしいけど、興味がない。

 これはみんなが、共通している。

 少し前までは草は枯れていて、土が見えている場所も多かった。

 冬から春先の、時季のことだ。

 今は草ボーボーだけどね。

 


 アルマ草原の道を進むと三方向の矢印があり、一番右側に「ウサギ湖」と書かれた標識がある。

 クルマが創造されるまでは、ガラリの街外れからでも一日はかかる道のりだ。

 エナちゃんのすごさが、よくわかる。



 エナちゃんは、すごいね!

 まだ夢の中の、天才に僕は声をかけた。



 「クッキー、確かにじゃ」



 おじいちゃんが、頷いた。

 でしょ! と僕は自慢気だ。

 だけどおじいちゃんの顔は、どこか厳しい。

 


 「クッキー、使い魔なら、変わり者の大天才を必ず守ってやれ」



 おじいちゃんが、厳しく言った。

 普段の優しいおじいちゃんではなかった。

 ソニアさんも、どこか硬い。

 そして無言でおじいちゃんに賛成している。



 守ってやれ……意味はわかる。

 だけど、軽く聞こえないのは何故か?



 「クッキー、精霊馬(セイバ)はすごいね」



 ソニアさんが、いきなり言った。

 僕はビックリして、ソニアさんを見る。



 「この精霊馬(セイバ)とか言う錬金術、すごい! すごすぎて……恐怖だ」



 えっ……恐怖?

 恐怖って?



 「んい━━━━━━━━」



 あっ、エナちゃんが起きる。

 


 「クッキー、早く起こしてやんな」



 ソニアさんが優しく言った。

 さっきまでの、厳しい声は消えている。

 


 クルマはウサギ湖の矢印に曲がり、後はしばらくの一本道になる。

 エナちゃんは、くずりながら起きた。

 


 僕が、エナちゃんを守る……

 よくわからない。

 よくわからないけど、今はウサギ湖を目指そう。


 アルマ草原を精霊馬(セイバ)が、走る走る。



 「草原にある道じゃ、走るのは」



 おじいちゃんがからかう。  

 知ってますよ、ふーん。

 


 「い━━━━━━━━」



 エナちゃんが、走る景色にご機嫌になる。

 窓に顔をひっつけて、流れる草原を見ている。

 草の緑色が綺麗だな。

 


 アルマ草原は肥えた土らしい。

 そして気候もよく、雨も結構降る。

 ここを畑だらけにして、穀倉地帯にいつでもできるらしい。

 だけどそれをやらないのは、必要がないからだ。

 ガラリの街が、必要としていない。

 詳しくはわからない。

 


 「相変わらずの、良い草じゃな」

 


 うんうん。

 


 「うあ━━━━━━━━━━」



 いきなりエナちゃんが、大きな奇声をあげて窓をバンバンと叩きだした。

 


 「きゃあ━━━━━━━━━━━━━」



 奇声はますます激しく、叩き方も尋常ではない。

 どうしたの?

 僕は声をかけた。

 だけど奇声が、どんどん激しくなる。

 すると……いきなりソニアさんを後ろから、襲った。


 

 「なっ、エナちゃん、やめて危ないでしょ!」



 ソニアさんの悲鳴が、クルマに響く。

 だけどエナちゃんは、ソニアさんを襲っている。  

 ……ん?

 エナちゃんが、ブレーキを指差してるような?

 僕はソニアさんに、ブレーキをかけてクルマを止めるように言った。


 

 「わっ、わかった」



 ソニアさんがクルマを止めると、エナちゃんがドアを開いてクルマから飛び出した。

 エナちゃんは、走り出す。

 どうしょう!



 「ん? クッキー、あそこ!」



 おじいちゃんが、エナちゃんの走る先を指差した。

 僕とソニアさんが、そこを見る。



 あっ!

 人間と獣が、戦っている。 

 エナちゃんはそれに気づいたんだ。



 おじいちゃんは護身用のナイフを手に持ち、ソニアさんもナイフを手に持つ。

 そしてエナちゃんの後を追う。

 精霊馬(セイバ)は置き去りする。

 草原に精霊馬(セイバ)を走らせることができないからだ。

 走らせるに、たくさんのパワー……って、説明してる場合ではない。

 速く急がないと!



 アルマ草原の草は、大人の腰くらいから胸くらいな高さまである。

 要はかなり深い。

 なかなか移動しにくい、そして足下が見えづらい。

 エナちゃんはそこを走っている。

 だけど走りにくいためか、何回か転がるように倒してしまう。

 ソニアさんはエナちゃんに追いつく、少し遅れておじいちゃんも追いついた。

 その後に、僕が追いつく。



 「きゃ━━━━━━━━━━」



 エナちゃんが激しく奇声をあげる。

 僕はエナちゃんのチャックを開き、ソニアさんとおじいちゃんの絵、笑顔の絵、お辞儀の絵を選んでいる……あれ? なかなか出てこない!



 「クッキーくん、早くだ」

 「クッキー、使い魔じゃろ!」



 わかってます!

 やってる!

 クソー!

 ……よし、取れた!


 

 エナちゃん、大丈夫、おじいちゃんとソニアさんに、お任せしようね。

 エナちゃんは、大好きな、おじいちゃんとソニアさんを、信じます!

 絵カードを見せながら、エナちゃんに言い聞かせた。

 暴れているエナちゃんが、絵カードを見て少しずつ落ち着いてきた。

 どうやら理解したようだ。



 「エナちゃん、私達に、おまかせ、ください」

 


 ソニアさんが笑顔で、言う。

 おじいちゃんも、コクコク頷く。

 エナちゃんの奇声は消えた。

 ニコッと笑う。

 決まったようだ。

 おまかせした。

 そんな感じだ。



 「ありがとー、行くよ! アナンさん」

 「さてと……」



 二人が走り出した。

 エナちゃんはゆっくり歩き始め、僕はエナちゃんと同じ目線を飛んでいる。

 一体何があったんだ?

 落ち着いて見てみる。

 どうやら翼を持った鳥のような獣に、若そうな三人が襲われているみたいだ。

 一人は戦士のようで、二人は冒険者初心者みたいだ。

 戦士もどこか、おぼつかない。

 戦いの経験は無いに等しいみたいだ。

 うーん、それ以外はよくわからない。

 これは近づいてみないと!

 よし行ってみよう。

 行こうかエナちゃ……



 「い━━━━━━━━」



 こら、先に行かないの!

 


 エナちゃんと僕が、戦闘中の場所に近づいてきた。

 足元は悪い。

 最悪だ。


 

 「あんたら、逃げな!」



 ソニアさんの叫び声が、耳をつんざく。

 二人の前に、壁のように立つ。

 叫ばれたのは、若いと言うか、エナちゃんと同い年と言うか……ん?

 まさか!



 「ライフ速く、火の玉を使って!」

 「バカ、草原たぞ!」

 「すぐに水の玉を使うから!」



 おそらくあの二人は、レイとライフだ。

 二人がリュックから何かを取り出そうとしている。



 「お前たち、バカか!」



 ソニアさんが、二人を一喝する。

 二人がソニアさんを、見た。

 少し冷静さを取り戻したみたいだ。



 「おい、お前は軍の養成学校のモノか?」



 おじいちゃんが鋭く一人の若い男子に言っている。

 どうやら二人が雇った護衛みたいだ。

 だけど、彼しかいない。

 これはルール違反だぞ! 

 


 「すみません、助けて下さい」



 若い男子が言った。

 おじいちゃんと若い男子が向き合っている獣は、鳥だった。

 それもかなり大きい。

 一定の高さで飛び、急降下しながら襲ってくる。

 それもかなり大きな鳥で、緑色の羽が印象的だ。

 そして鋭いカギ爪に、同じく緑色の鋭い嘴が目に付いた。

 僕の体が、黒い光を放つ。

 コレは身に害が及ぶ信号だ。

 左の耳から発するモノで、僕に力をくれる。

 つまり僕も、戦闘態勢に入ったことになった。



 「う━━━━━━━━━━」



 エナちゃんが、何か言っている。

 だけど、今は相手していられない。

 僕はソニアさんに、鳥のことを聞いた。



 「これは……グリンだ。見た目のとおり、緑色の羽と毛が綺麗な大鳥だ。爪と嘴は鋭い……が」



 ソニアさんはそこまで言うと、首を傾げた。

 僕がどうしたの? と聞いた。


 

 「グリンは普段は、人を襲わない。何故、襲った? お前たち心あたりあるのか?」



 ソニアさんが二人に、鋭い視線を放つ。

 二人の視線が、俯き加減になった。



 「う━━━━━━━」



 エナちゃんが、いきなり走り出した。

 そしてあの二人の所に来た。

 二人に接触すると、女の子の方を襲った!

 え! なっ!

 


 「きゃ! な、なに!」

 「おい、お前」



 二人がエナちゃんに襲われている。

 どうしたの? エナちゃん! 

 ……ん?

 なんだ?  

 女の子の……確かレイと思われる女の子の、リュックを襲っているような?



 「まさか、お前ら!」



 え? 今度は二人を守っていたソニアさんが、エナちゃんと同じことをしている。

 どうして?

 あっ、おじいちゃん大丈夫?

 僕はおじいちゃんを見る。

 すると、息を切らしていた。



 「ダメじゃ、相手はかなり強い」



 おじいちゃんが、グリンと戦っている。

 だけどヤバそうだ。

 若い護衛も手伝ってはいるが、不利な状況だ。

 


 「何を!」

 「それは!」

 「うるさい! やっぱり!」


 

 僕はソニアさんの声に、体を向ける。

 ソニアさん手には……あっ卵! 赤い鮮やかな大きな卵だ。

 そうか、あの二人、なるほどだ。

 あれを錬金術の素材にしようとしたんだな。

 しかしそれなら、二つ目の違反だ!

 


 「コレをグリンに返せ」



 ソニアさんの怒り声が、二人に放たれる。

 


 「でも、グリンの卵は……」

 「お前ら!」



 男の子が、何かを言おうとした。

 しかしソニアさんは、噛みつきそうな勢いだ。



 僕はさっきから、見ているだけ。

 無力だ。

 どうすることも、できない。

 ちくしょー!



 「……ソニア、止めよう。これは若者たちのことだ。言うこと聞かずに都合の良いことしか言わん」



 おじいちゃんがナイフを、鞘に収めながら言った。

 え?

 僕はおじいちゃんを見た。 

 みんなが、おじいちゃんを見ている。

 あっ、違う。

 エナちゃんは相変わらず、卵を指差している。 



 「グリンは危険な大鳥じゃ、しかし気は優しい。つまりは、お前らがなんとかするんじゃ。命が亡くなってもじゃ」

 「アナンさん……そうですね。わかりました」



 えっ、今度はソニアさんが、二人から離れた。

 それを見た二人が、真っ青になりながらソニアさんに縋る。

 だけどソニアさんは、振り切って二人から距離を置いた。



 「い━━━━━━━━━━━━━━」



 エナちゃんはまだ卵を指差している。

 


 「……わかりました。卵を返します」

 「ライフ!」

 「レイ、このままだと俺もお前も、大鳥に殺される! 諦めよう」


 

 二人が叫んでいる。

 僕は二人に少し、カチンときた。

 諦めよう……と言ったけど、ここは……



 謝ろう



 この言葉が、正しいと思っている。

 何故なら揉め事を起こしたのは、あの二人だからだ。

 だけど……わかってない。

 レイが大鳥(グレン)に、卵を見せる。

 すると、グリンが卵に急降下した。

 右足で卵を取る。

 けど、左足がレイの肩に蹄を食い込ませてきた!

 グリンが羽ばたくと、レイの体が宙に浮き始める。



 「なっ!」



 これには、みんなが驚いた。

 返せば、許してくれる。

 そう思ったからだ。

 けれどグリンは、許してないようだ。

 物凄い力で、レイを持ち上げようとしていた。

 おじいちゃんとソニアさん若い護衛、それに僕もレイが持ち上げられないようにしっかり掴む。

 ……すごい力だ。

 


 「い、いたいー、いたい! 死にたくないー!」



 レイが大声を上げて、泣き始めた。

 大変だ。

 どうしよう。

 僕は、あたふた、あたふた、している。

 本当に、どうしよう!


  「ぎ━━━━━━━━━━━━━━」



 え? え?

 エナちゃんがチャックを開けてる。

 チャックの奥に手を突っ込んで……



 「だだだだだ━━━━━━━━━」



 何かを取り出した。

 青白い火?

 取り出した何かが、グリンに向かっていく。

 何だろあれ?

 ……ん、あれ、まさか! グリンの目の前に、青白い火がユラユラと揺れている。



 「あれ?」



 ソニアさんが驚いている。

 


 「ん?」



 おじいちゃんもだ。

 すると、グリンの爪がレイから外された。

 グリンが草原に降り立つと、大鳥の顔の近くで青白い火がユラユラしている。

 あの火は……



 「おい、レイ、あれは精霊か?」

 「……うん、確か……」



 僕は若い二人の会話を拾う。

 精霊? せ・い・れ・い?

 …………あっ!

 僕はエナちゃんを、見た。

 ニコニコと、笑っている。

 おそらくエナちゃんは、鉄の精霊を連れてきたんだ。

 それをチャックに、しまっていたのか!



 「うそ!」

 「精霊!」



 二人がビックリして、エナちゃんを見ている。

 目が完全に丸くなり、ポカンと口が開いていた。



 「精霊を連れてきたのか」

 「その前に、この精霊はどこからじゃ?」



 ソニアさんとおじいちゃんも、ビックリしている。

 これは二日前に、エナちゃんが助けたんだよ。

 僕がそう言う。

 ソニアさんとおじいちゃん、そしてライバルの二人が、エナちゃんを見ていた。



 エナちゃんは、グリンに目を向ける。

 


 「いっいっいっ!」



 相変わらずの奇声だ、

 だけど鉄の精霊と会話? をしていたグリンが、エナちゃんに視線を向けた。

 ソニアさんが警戒したけど、グリンの瞳が優しかったことがわかると警戒が驚きに変わった。

 エナちゃんがチャックから、何かを取り出した。

 


 「お、おい、あれ! コイツは」

 「ダメよ、今は、ヘンテコを刺激しちゃ!」



 ライフとレイが、なんか言ってる。

 エナちゃんに助けて貰ったのに!



 「い━━━━━━━━」



 エナちゃんがチャックから、白い塊を取り出した。

 あっ、肉擬き!

 チャックにそれを入れていたのか! 


 

 「肉擬き?」



 ソニアさんが頭を捻る。

 大豆から創造する食べ物で、栄養は肉以上で味もなかなかなエサだ。

 エナちゃん、何故か持っていた。

 


 グリンが、肉擬きを啄む。

 すると、きゃ! きゃ! 鳴き出した。

 エナちゃんがまた肉擬きを、チャックから取り出しグリンにあげている。

 その間、鉄の精霊が優雅に踊るように、揺らめいていた。



 「うん、うん、うん、」



 エナちゃんがグリンに何かを言ってる。

 グリンはキエーキエーと、大声を発しながら飛び立つ。

 卵を大切に、爪にしまい込みながら……

 僕達がグリンを見送る。

 いつしか僕の黒い光は、消えていた。



 グリンが飛び立つ。

 飛び立ったと思ったらしばらくして草原に降りた。

 けっこう近い場所に巣があったんだ。

 グリンは草原に巣穴を創造する。

 だから、こんなトラブルを起こされた。

 しかし悪いのは、グリンじゃあない。

 


 「お前達、二つ違反してるぞ」

 


 ソニアさんが、二人に怒っている。

 おじいちゃんも、怖い顔をしていた。

 その横にいる、若い護衛が俯いる。

 


 「きゃ━━━━━━━━━━━」

 


 エナちゃんは鉄の精霊と、なんかしてる。

 


 「スミマセン」

 「ごめんなさい」



 二人が謝っている。  

 少なくとも顔は、落ち込んでいた。

 確かに二人は、約束違反を二つしている。



 「素材休暇の内容を、一度ギルドに確認せねばな、今回はアカデミーは知らぬ存ぜぬじゃろう、おそらくは!」



 おじいちゃんが、厳しく言った。

 落ち込んでいる二人の顔が、驚きに変わる。

 驚きは、心を顔に表しているようだ。



 「ふうー」



 ソニアさんが、ため息を吐いた。

 二人の心を見たことへの、やるせなさからだろう。

 


 ソニアさんとおじいちゃんが、二人……ううん、護衛を入れて三人に厳しい言葉を投げかけていた。

 しばらくは、お説教が続くだろう。

 


 その間を利用して、素材休暇を説明しよう。

 カナエの丘で、エミリア先生と話していた時のをここでする。

 錬金術学校……アカデミーは主に錬金術の勉強をしている。

 錬金術はこの地上にある石、草、水、それらを加工することによって、便利の品を創造するんだ。

 創造する知識は当然必要だけど、それらを発見する知識も必要とされている。

 アカデミーにある素材には限度があり、それだけでは創造できないと判断した場合、ある一定の条件で休暇が出せる。



 これが素材休暇なんだ。



 素材休暇は一人でも行けるし、パーティーでもいける。

 パーティー……つまり複数の生徒達だ。

 複数の生徒にも人数制限はある、確か……ごめん忘れた。

 教えて貰ってなかたった。

 その代わりに、一定の条件の説明をさせてね。

 いい?

 ではいきなりだけど、素材休暇ができない条件を言うよ。

 いい、で・き・な・い だよ!



 一つ目、テスト期間中

 コレは当然だ。

 すっぽかしたらどうなるかは、想像できるでしょ!



 二つ目、テスト成績赤点

 それに伴う、追試験者

 コレも説明不要かな。



 三つ目、健康診断不良

 体力がかなり必要になる

 休暇を申し出た場合、アカデミーが行きなさいと薦めるお医者さんで、健康かどうかのチェックをしてもらう。

 不良と診断されたら、ダメ!

 病気になったら元も子もないし、病気中なら以ての外だ。

 

 

 条件はこんなものかな?

 細かくは書かないけどもう少し補足すると、五月、七月、十月、十二月、二月の中旬から下旬は素材休暇はない。

 理由は一つ目だ。

 その期間にテストがある。

 テスト、テスト、テストだけど、基本は机での勉強らしい。

 だから机で結果を出さない生徒は、ダメなんだ。

 そして健康も必ずなのは、コレに限らずだ。



 さて素材休暇がアカデミーから「いいよ」の、サインが必要になると次は、「護衛契約」を結ぶ必要がある。

 


 護衛契約



 コレもそのおとりだ。

 素材を探しに行くのに、狂暴な獣、魔獣、魔物、盗賊、山賊、海賊、つまり身を守らなければならない。

 こちらが素材休暇で敵対心は無くても、相手はそうとは思わない。

 


 コレにアカデミーは、神経を尖らせる。

 生徒を預かりながら、危険な行為をおこなうからだ。



 だ・か・ら・!



 護衛契約を結ぶ。

 アカデミーは護衛ギルドと仲がいい……らしい。

 つまりまずギルドに、護衛請求を出す。

 ギルドがそれを確認したら、次は……確か国軍が絡む。

 ここは仕組みが難しいから、説明しないね。

 だけどある程度は、理解できるでしょ。

 後日ギルドから許可証が来たら、それで成立だ。



 ……成立なんだけど、実はここに一つカラクリがある。



 護衛契約には、僕達がやった方法の「委任」と、契約者が独自で選択する「一任」がある。

 「委任」はアカデミーが素材休暇による、護衛契約の費用をアカデミーが負担する。

 費用で困ることはないが、アカデミーに雁字搦めにされて融通が利かない。

 ことによっては、アカデミーの指示で素材休暇を中止にされる。

 


 「一任」の場合は、全額が生徒負担になる。

 お金は高いが、融通はかなり利く。

 ある程度の家に財産がある家は使える方法だと思う。

 全ては自分達の責任となり、アカデミーに「誰が護衛契約者」かを……


 

 報告する義務がない!  



 しかし責任はつきまとう。

 この場合は……

 アカデミーはギルドに全て責任を投げている。

 つまりギルドから護衛契約書がアカデミーに来た時点で、「一任」と文面があった場合……



 責任はギルドが全部持つ、アカデミーは知らない!



 そうなるのだ。

 だから非常事態になったら、アカデミーは……



 ギルドに全責任を被せてしまう。



 そこまで、アカデミーも優しくはない。

 手順を踏まない生徒には、冷たいんだ。

 


 いずれは……なくす。



 そう言われ続けて、今まで来たらしい。  

 しかしなくなってはいない。

 


 「お前たちの違反、一つ目は、嘘の護衛者リストをギルドに提出だ。真意は確かめればわかる」

 「二つ目は、生物素材の認可じゃな。するとアカデミーも黙っておらんぞ」



 ソニアさんと、おじいちゃんが、二人に言い積めよる。

 ……補足説明が多くなるな。

 やれやれ……あれ?



 エナちゃんがいない!

 ソニアさんと、おじいちゃんも、僕の言葉に反応した。

 二人が驚き、周りを見渡している。



 あれ? あれ?

 どこに行ったの!

 

 

 「エナちゃん、エナちゃん、どこー?」



 ソニアさんが叫ぶ。

 それも大きな声で、叫ぶ。

 だけど何も返事はない。

 奇声もない。

 


 「まさか、おい、クッキー! ちゃんと見とらんか!」



 おじいちゃんに怒られた。

 ごめんなさい! 僕はウロウロと、している。



 「チャンスだよ、今のうちに……」

 「うん」



 レイ、ライフが何かを言っている。

 逃げようとしているようだ。

 


 「ダメだ! これ以上は退学になる」



 若い護衛が、二人の壁になる。



 「スレイ、お前!」

 「いずれバレる俺達は! 今は少しでも軽い処分にしよう。ここを逃げ切れても、違反の罰は逃げ切れない」



 スレイ……どうやら若い護衛の名前のようだ。



 「お前ら、逃げるなよ!」

 「別ににげてもよいぞ」

 「ア、アナンさん!」

 「逃げたら、証拠を突き出すまでじゃ、退学は免れん」



 二人が真っ青になり、動きが止まる。

 


 退学……が、効いたみたいだ。


 

 なんて考えてる場合ではないぞ!

 一体どこに言っちゃたの?

 鉄の精霊が、あちらあちらみたいに揺れていてもだ!



 …………ん?



 僕は鉄の精霊を見た。

 なんだか誘われている気がする。



 「おい、クッキーくん!」



 ソニアさんに、鉄の精霊の後を追うと僕は言う。

 だってよく考えたら、コイツもさっきいなかった。

 


 「なるほど、クッキーくんに付いていく」

 「よし、ワシもじゃ」



 決まってしまった。

 


 「すいません、僕達三人もいいですか?」



 兵士の見習い、確かスレイだったかな? 彼がそう言うと、後の二人がスレイを見た。 

 


 「穏便にいこう。アナンさんに嫌われたくない」



 ……アナンさん?

 親しいの? おじいちゃん!



 「昔の杵柄だ、それよりエナちゃんじゃ」



 おじいちゃんが、言った。

 確かにだ。

 僕は鉄の精霊に、エナちゃんはどこ? と、話し掛ける。

 すると鉄の精霊が、大きく揺れ移動し始めた。

 ゆったりと僕達を誘うようにだ。



 鉄の精霊の後を付いていくと、さっきのグリンの巣で何かをしていた。

 なんだここだったのか。

 ここはかなり背の高い、草になっていて緑が濃い。

 そしてエナちゃんが、しゃがんでいる。

 これは見えないはずだよ。

 さっきのグリンが、巣で体を丸めていた。

 静かに目を閉じている。

 


 ん?



 エナちゃんの近くに、紫色の火と、みどり色の火が、揺らめいている。

 あれは確か……



 「ねえ、あれ!」

 「うん、教科書にあった……草木の精霊と、薬の精霊!」



 二人がびっくりしている。

 精霊って、凄いんだ。

 僕がエナちゃんのチャックを見る。

 おそらく、あそこ居たんだな。

 


 エナちゃんはうずくまりながら、何かをしていた。

 何をしているのかな?

 そこには、卵? だけど、さっきのとは違うような。

 なんかおかしいぞ。

 第一、色が黒ずんでいるような……



 「お前らのさっきの卵か?」



 ソニアさんが聞いた。



 「違います。これは死にかけの卵です」



 ライフが、答える。

 レイもうなずいていた。



 「死にかけ?」

 「はい、卵は二つありました。一つは健康な卵、もう一つがコレでした。その時はグリンが居なかったので、健康な卵を盗りました。そしたら、近くにグリンがいて……ああなりました」



 ライフが、説明する。

 ソニアさんとおじいちゃんは、納得していた。



 「い━━━━━━」


 

 エナちゃんが草の中から、少し形の違う草に何かをしている。

 その草は葉が大きく、背が低い。

 色は薄黄色だ。

 あっ、別のもう一つの草がある。

 こちらは細々した小さな草で、なんだか弱々しい。

 色は白いみどり色? みたいな感じだ。

  


 「……まさか」



 アナンさんが驚いていた。

 どうしたの?



 「これは、千住草、活草だ。どこにあったんだ?」



 ソニアさんが言った。

 答えは簡単、草原にあったんだろう。



 「そんなのわかっている! どうやって、草をみつけたかだ」



 わっ、ソニアさん怒鳴らないの。

 おそらくだけど、草の精霊が教えてくれたんだよ。

 「全う」するためにね。



 「全(まっと)う? なんだそれ?」



 ソニアの不思議な顔に、僕は見ていようよと言う。

 今はエナちゃんに、任せてみようと……



 エナちゃんが二つの草をよく見ると、自分の近くに浮いているチャックを開いた。



 「あれ、なんなんですか?」



 スレイが、おじいちゃんに聞いている。

 本当に不思議そうだ。

 


 「スレイだったな。少し顔を貸してはくれんか?」


   

 おじいちゃんと、スレイが少し場所を離れる。

 何か二人で話をするようだ。

 エナちゃんはチャックから、白い磁器製すり鉢と、擂り粉木、それに透明なガラス瓶に入った液体を取り出した。

 液体には、「じょりゅすい」と書いてある。

 これは蒸留水だな。



 「蒸留水、アニロの滝か?」



 ライフが小さな声で、レイに聞いている。

 


 「知らないよ。だけど、じょりゅすい、なんて」



 レイがバカにしていた。

 ふん! 助けてもらったのに!


 


 エナちゃんが二つの草を、細かく千切り、乳鉢に入れていく。

 次に蒸留水を少し垂らす。

 そして丁寧にかき混ぜる。

 しばらくかき混ぜると、二つの草がしんなりしてきた。

 見ても柔らかそうだ。

 さっきまでの、芯のある柔らかさではない。

 するとまたチャックを開けて、何かを探している。

 取り出したのは、白く目の細かいガーゼだった。

 そのガーゼに、それらを入れて力いっぱいに絞っている。

 すると乳鉢に二つの草の絞った汁が、溜まり始めた。

 またまたチャックから、スポイトと呼ばれる吸引器を取り出し、その汁を吸い取り始めた。

 


 

 プルプル……

 プルプル……



 精霊達が騒ぎだす。

 スポイトの中の液体に、どうやら反応したようだ。

 成功したんだな。

 精霊達がスポイトの小さな口から、入っていき液体に混じり始めた。

 


 「これは?」



 ソニアさんが目を丸くしている。

 「全う」が始まっている。

 


 「全う!」



 ソニアさんが再びなんだそれ? みたいな顔だ。

 精霊は生きている。

 そして自然と一つになることを、望んでいる。

 一つになるための条件、それは……



 品物として使われて、天寿を全うすること!



 コレを略して、「全う」と呼ぶんだ。

 


 「つまり、人間で言うと……」



 スライを連れて、おじいちゃんが帰ってきた。

 今の話を、聞いていたみたいだ。



 「つまり? 何ですか?」

 


 ソニアさんが、聞く。



 「死に場所を選ぶんじゃよ」



 おじいちゃんが言い切る。

 死に場所……その言葉に、ソニアさんの顔が曇る。

 


 「精霊の死……つまり全うは、生き物の死とは別物なんじゃろう」



 おじいちゃんが、ポツリと呟くように口にした。

 ソニアさんの顔から、少し曇りは晴れたようだ。

 だけどどこかやるせない、そんな感じだ。

 


 エナちゃんがまたまたチャックから、小さなハンマーと小さなノミ、アルコールランプ、マッチ、試験管を取り出した。

 スポイトの液体を試験管に入れ、マッチを擦り、アルコールランプに火を灯す。

 


 「ここは草原だ、火が付きやすわ!」



 レイが怒り気味に言う。



 「あれくらいなら、時間次第だ。少しの時間なら大丈夫じゃ」



 おじいちゃんが言った。

 火を灯すと、試験管の液体を煮詰める。

 試験管から煙が出ていた。

 時間にして何秒の作業で、試験管を火から離すとランプに蓋をして火を消し、チャックから未使用の違うスポイトを取り出した。

 そしてそれを慎重に、スポイトに収めていく。

 


 収めたら、チャックから絵カードを取り出た。

 エナちゃんがソニアさんに、絵カードを渡す。

 絵カードには、鍵と箱を持つ人が微笑んでいた。

 


 ソニアさんが、不思議がる。

 仕方ない、これは僕しかわからないな。

 これは、預かって! の意味だよ。

 ソニアさんに伝えると、大きく頷いた。

 それを見たエナちゃんは、スポイトをソニアさんに渡した。

 絵カードは、僕が持ってあげた。



 エナちゃんが卵を持つと、グリンを見た。



 「だ━━━━━━━━━━━」



 グリンに奇声を発すると、大鳥が目を開けて巣から飛び立つ。

 両手で大切そうに、もう一つの卵をつかみながら……



 エナちゃんが巣に足を入れた。

 足がしっかりと巣に着いている。

 頑丈な造りみたいだ。

 エナがそこで、座った。

 大きな巣はエナちゃんが座っても、かなりスペースがある。

 


 エナちゃんがソニアさんを見た。

 


 「だだだだだ」



 エナちゃんが何か言ってる。

 なんだ?

 ……ん?

 それにつられて、鉄の精霊がエナちゃんとソニアさんの間を行き来している。

 これはおそらく……ソニアさんを巣に誘っているな! そう僕は感じた。



 「なるほど、わかった。エナちゃんいくよ」



 そう言うと、ソニアさんが巣に入って行った。

 おじいちゃん、あの三人はそのままで、様子をうかがっている。

 僕は一応入って見た。

 エナちゃんは、同じく笑っている。

 いいみたいだ。



 「うわ、結構しっかりとしている」



 ソニアさんが驚いていた。

 僕は相変わらず、浮いている。

 エナちゃんがニコッと笑うと、作業を再開する。

 空にはグリンが、巣の周りを羽ばたいている。

 エナちゃんを見ているようだ。

 


 エナちゃんが卵を巣に置く。

 卵は楕円形をしている。

 楕円形の上の部分にさっきの小さなノミをあて、小さなハンマーで叩く。

 


 「まさか!」



 ソニアさんが大きな声を出す。

 だけど僕は、静かに! 気が散るからと言うと、ソニアさんは口を閉ざした。



 エナちゃんが慎重に、卵を叩く。

 いや違う……割っている。

 少しずつ、そして速やかに、当たり前のように正確に……

 


 「凄い!」



 ソニアさんが、エナちゃんの手つきに驚いている。

 全く想像つかない手際の良さに、エナちゃんに対する考え方が変わったみたいに映る。

 


 エナちゃんが殻を綺麗に割ると、中には動かないグリンの子供がいた。

 どこか覇気がなく、ぐったりとしている。

 


 「おそらくコレは、ダメだな」



 ソニアさんが目を伏せながら言った。

 ダメ……つまり生きることができない。

 


 「い、い、い、い」



 エナちゃんがソニアさんに預けたスポイトを、指差しする。

 ソニアさんが、それに気づきソレを渡した。

 


 なるほど!



 僕はようやくわかった。

 そしてグリンが、三人を許した理由も想像ができる。



 まずエナちゃんは、鉄の精霊を介してに謝ったんだ。

 そしてエナちゃんとお話するように、鉄の精霊にお願いをした。

 グリンがお願いを聞いてくれたから、肉擬きをあげた。

 そしておそらくだけど、グリンからこんなことを言われた。



 この子は、大切な宝物! 私は一つの卵を、健康に産めなかった……だから、この子は私の宝物!   



 その時、エナちゃんはグリンに何かを言った。

 何かとは……



 僕に見せて! 治せるかも知れない!

 


 そうグリンに言ったとしたら……つじつまが合う。

 しかしそれには、疑問もある。

 


 疑問とは……みんなも気が付いたと思う!

 それは……



 エナちゃんはグリンと、話ができた! 



 これしかない!  

 そう言えばエナちゃんは、野菜しか食べない…… 

 これはつまり……



 「エナちゃんが、雛に液体を……おそらくクスリを飲ますぞ」



 ソニアさんが、小さな声で言った。

 グリンの子の嘴に、スポイトをあてて少しずつクスリを飲ませていく。

 クスリを飲ませ終えると、少し様子を見る。



 ………………あっ!



 「雛が動いた!」



 ソニアさんが、驚いていた。

 そして僕も驚いている。

 


 生きる……



 生きるを見せてくれた。

 エナちゃんが上を向くと、グリンを見た。


 

 「い━━━━━━━━━」



 グリンに奇声……ううん、言葉をかけるとグリンが巣に降りてきた。

 エナちゃんが巣から出ると、僕とソニアさんも巣から出る。

 巣にグリンが帰ると、エナちゃんが子供を見せる。




 きゃ━━━━━━━━━━



 大きな鳴き声と共に、エナちゃんに感謝をしているみたいだ。

 再びグリンが、巣を離れる。

 するとエナちゃんがもう一度巣に入り、子供を卵の横に置く。

 


 ……ん?



 「あっ、もう一つの卵が!」



 あっ、卵にヒビが……産まれるんだ。

 生きるために!

 グリンが再び巣に帰る。

 エナちゃんはそれをみると、チャックを開けて鉄の精霊と器具の後片付けをしている。

 それが済むと、僕とソニアさんを見て、おじいちゃん達を指差して、その後にクルマがある方向を指差した。

 


 行こうよ



 そんな感じだった。

 

 

 

 




 

 

 

 

 



 

 


 


 



 


 




 

 

 

 


 





 

 


 


 

 


 

 







 

 





 



 




  

 



 


 

 

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