第8回 【商品宣伝実況】ラジオ

ウ)「なんだここは? 参道に沿って屋台が並んでる。でも祭りじゃない。周りには女の子しかいないし、屋台も女子ウケしそうなものばかり」



カ)「こんにちは。あの、うずらウツさんですよね」


ウ)「はい、ワタシがうずらウツよ」


カ)「はじめまして。案内をさせていだだきます、カナモリです」


ウ)「初めてきた場所だから、案内役は嬉しいわ」


カ)「これからうずらちゃんには疑似ショッピングをしてもらいます」


ウ)「疑似? 私はおつかいを頼まれて、ここに迷い込んででしまったのよ」



カ)「きっとお母さんもグルですね。通信販売をおこないます」


ウ)「つまり、あなたの紹介した商品を買うの?」



カ)「今回は女子にウケそうな商品を屋台に並べています。うずらちゃんは興味があるものを買ってください。お金はこちらが払います」



ウ)「女子。だからワタシが選ばれたのね。それで、そのカメラは?」



カ)「うずらちゃんの行動を撮らせてもらいます。行動を監視するのではなく、この動画をネットにあげて、商品を紹介するためです」


ウ)「ワタシの買い物の姿を試聴してもらうことで、視聴者にも買わせるのね。面白い試みね」





  【 うずらウツと『カナモリ』の『商品宣伝実況』ラジオ  】



カ)「百を超える屋台を巡回するのは大変でしょうから、目星をつけましょう。うずらちゃんの買いたいものは何でしょう?」



ウ)「そんなこと突然言われても、欲しいものなんて……。あ、イカの刺身を食べたい」


カ)「ダメです」


ウ)「え」


カ)「女子はもっとこう……カワイイものを食べないと」


ウ)「する女子を演じたら、私が損をするわ」



カ)「ごめんなさい、今の発言は偏見です。しかし困ったな。女子というのはキラキラして、カワイくて、お洒落なものが好きだと思ったので、うずらちゃんの趣味に合うものがあるのか不安になってきました」



ウ)「あなたの対象にしている女子はワタシの苦手なタイプの女子だということが分かったわ。おや、あれは?」




造)「はなーはなー 花はいりませんかー」


ウ)「こんにちは」


造)「こんにちは。花を買いませんか」


ウ)「ごめんなさい。ワタシは花ではなく、あなたに興味があったので話しかけました」


造)「そっかー。じゃあ花を買う気はないんだねー」


ウ)「はい。あの、これは造花ですよね」


造)「そうだよ。よく分かったね」


ウ)「夜の花園であなたに会ったことがありますので」


造)「え? そうだったっけー? ところで造花いらない?」


ウ)「ごめんなさい」


造)「そっかー。やっぱり、生花のほうがいいのかな?」


ウ)「そんなことはありませんよ。ワタシの知り合いが造花の方がいいと言っていました。べた褒めしてました」


造)「フフ。嬉しいね。でも、花好きの過半数は生花がいいんだってさ」


ウ)「そうですか」


造)「あこを見てごらん」


ウ)「うわーお客さんがたくさん群がっていますね」


造)「ライバルの花屋だよ。あんなに差があると悔しいねー」





塩)「頑張っているかい造花職人。同情で買ってもらう気じゃないだろうね?」


カ)「こら塩くん! 他の店の邪魔は違反だよ」


造)「でたな花染め職人の丹代(タシロ)塩! 花を女子が好きそうな色に染めるなんてずるいぞ!」


塩)「素晴らしい戦略だと言ってほしいね! 君も本物に忠実な花を造るのではなく、アレンジを加えるべきだ! フハハハハハハ!」



ウ)「むむ、喧嘩だ喧嘩だ」


カ)「同じ花を売っているので、対立はやむをえないのです」


ウ)「本物を模倣して作られた花と好感を得ようと染められた花、なんだか似ているわ」


カ)「二人とも! 人がいるところで堂々と喧嘩をしないで! 女子の皆様がいっそう寄らなくなっちゃうよ!」


塩)「ふん、君はせいぜい足掻くといい。俺は君が見えるところから嗤ってやるから」


造)「お、おにょれー」


カ)「あ、ヤバイ! 造花職人さんは頭に血がのぼると爆発する!」


ウ)「ええええ!?」


カ)「に、逃げろぉぉ!」


ウ)「うわああああ!」










ウ)「ゼーハー、ゼーハー……ギリギリセーフね」


モ)「大丈夫ですか?」


ウ)「大丈夫よ。爆発源の造花職人から離れたところなの」


モ)「ば、爆発? 巻き込まれなくてよかったね」


ウ)「でも造花は燃えたわ……もったいない。買っておけばよかったかしら」


モ)「造花はいいものです。花とは違って、枯らさなくて済むから」

 

ウ)「あなたは造花派なの?」


モ)「今はね、今は。ねえ、女子は気まぐれなんですよ。花染めに食いついているのは一時的なもの」


ウ)「流行りが終わったあと、何人残ってくれるのかしら」


モ)「花染めが人気な今でも、造花を買ってくれる人はいます。それって、本当に造花が好きなんですよ。でも、は数にこだわって気づいていません」


カ)「ここは商売の戦場。たくさん売れてこそ功績が認められるのです」


ウ)「そうね。じゃあ、ワタシ達が協力しましょうか。カナモリさん」


カ)「はい。カメラは回っています」


モ)「え?」


ウ)「ワタシ達の行動は商品の宣伝として配信されるの」


カ)「うずらちゃんは造花を宣伝するのですね」


ウ)「だからお願い。今日だけ付き合って」


モ)「え? 私?」








女子)「ねえねえ、このチラシ見た?」


女子)「青の花冠(造花)をかぶった人に合言葉を唱えると、一つだけ罪が許されるんだって」


女子)「合言葉ってなんだろう?」


女子)「違うと造花の冠をもらったよ。これかわいくなーい?」


女子)「レース? 精巧じゃーん」



塩)「……。(たぶん、造花をアピールするための戦略だ。本気で救われたい人を怒らせてしまうが……様子見だな)」


造)「な、なんだこれ!」


塩)「あんたの作戦じゃないのかよ!」







モ)「私はモリミ・リモ。ひょんなことから青い花冠をかぶらされた。すると次から次へと女子から声をかけられる羽目に」


女子)「合言葉は……白菜」


モ)「ご、ごめんなさい。お詫びにこの花冠をどうぞ。(合言葉って何? とりあえず、うずらさんから冠を渡すように頼まれたけど……)」


カ)「白菜はナシですよ。当てずっぽうならなおさら女子っぽいワードにしないと」


ウ)「あなたのその『でなければならない』ってなに? 強制しなくでくださる?」


カ)「ところでこの作戦、ゴールは冠をすべて配ることですか? 合言葉なんて本当はなくて、冠をあげることこそが目的……」


ウ)「モリミさんには、花束をプレゼントされるまで冠を配り続けてと言っておいたわ」


カ)「花束? 誰が彼女に贈るの?」


ウ)「察しがよければね」


カ)「造花の花束を持って誰かきましたよ」











造)「も、森見さん」


モ)「名前、覚えててくれたの? 意外」


造)「忘れるものか。僕のせいで花を枯らせてしまったんだ」


モ)「ええそうね。もしかして造花を作るようになったのって……」


造)「僕は人気の造花職人になりたいわけじゃない。森見さんに似合う花束を、森見さんに渡したかっただけなんだ」


モ)「………」


造)「森見さん、ごめんなさい」


モ)「…………そんな昔のこと、気にしなくていいのよ」





カ)「はい。ばっちり撮りました」


ウ)「もし動画を見る人がいなくても、ワタシ達の行動は無意味じゃなかったのよね。よかった」


カ)「なるほど。一つの罪が許されると言うのは、このことでしたか」


ウ)「ワタシたちは用済みだから買い物に戻りましょう。ねえカナモリさん」


カ)「はい、何でしょう」


ウ)「イカの刺身がだめなら、たこ焼きは良いでしょう?」


カ)「ちょうど近くにたこ焼き屋がありますね」


ウ)「やった。案内してちょうだい」


カ)「あの、うずらちゃん」


ウ)「はい」


カ)「イメージに合わないからといってあれこれ否定することは、間違っていました。ごめんなさい」


ウ)「わかってくれたのなら、謝る必要はないわ。ほら、行きましょう」

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