第3回 【カマクラ】ラジオ
カ)「ただいま戻ってきました。ついさっき穴を掘ってきたカナモリです」
ウ)「リスナーのみなさんお待たせしました。その穴を埋めたのがワタシ、うずらウツです」
カ)「うずらちゃん……ごめん。雪が積もる場所でラジオをするにあたって、雪遊びの嗜(たしな)みのお便りを集めたばかりに…」
ウ)「違う。あれは事故。それに油断していた塩くんが悪い」
カ)「うん、でも…」
ウ)「蒸し返さないでよ。取り返しはつかないんだからさ。切り替えよう」
カ)「……。そうだね。まだリスナーのお便りはまだ残っているし」
ウ)「すべて実行するまでラジオは続く。アクシデントが発生して一時停止したけど、再開しよう」
カ)「ちなみに餅を大きく膨らませるお便りが残っているけど」
ウ)「ごめんなさい。餅しばらく見たくありません」
カ)「そ、そうだよね。えっと、じゃあ次はカマクラの中で最も適しているボードゲームをしようか」
ウ)「わーい」
?)「ワーイ」
カ)「まって? 今、塩くんの声が聞こえなかった?」
ウ)「何言っているの? 塩くんはワタシが穴に埋めたじゃん」
カ)「うん、たしかにその瞬間を見ていたよ。でも……」
?)「うずらちゃーん」
ウ)「塩くん! どうして!」
?)「会いに来たよお。カマクラから出てきてよお」
ウ)「そうなんだ。今からゲームをするところなんだ。かまくらに入っておいでよ」
?)「うーん、でも、こっちは楽しいよお。出て来いよおおお」
カ)「んん? なんだか怪しいぞ?」
ウ)「よし、行くか」
カ)「うずらちゃん⁉︎」
【 『餅による窒息死』と『多産性雪だるま』の『カマクラ』ラジオ 】
カ)「待ってようずらちゃん。お便りの一通に“スノー・ゴーズト”に気をつけろって――うわあ⁉︎ なにこれ! ゴースト⁉︎」
ウ)「違う。この、カマクラを取り囲む約三十体の個体は雪だるまだ」
カ)「言われてみれば……。じゃあ塩くんは?」
雪)「ここだよー」
カ)「雪だるまだちが一斉にしゃべった!」
ウ)「まさか塩くん。雪だるまになったのか⁉︎ そんな、生まれ変わりにしては早すぎる」
雪)「リスナーのみなさんこんにちは。数分前に餅を喉に詰まらせて死んだ丹代(タシロ)塩です。死んだので雪だるまになりました」
カ)「ギャグとはいえ人を殺さない作品でいてほしかったな」
雪)「うずらちゃん。俺……雪だるまになったら伝えようと思っていたんだ」
ウ)「どうした? 急に声が真剣になったな」
雪)「うずらちゃん、好きだ。友達になってほしい」
ウ)「やめてください」
雪)「じゃあ今まで通り仲良くしよう」
ウ)「分かった」
雪)「わーい結果オーライだー! うずらちゃーん!」
ウ)「雪だるまが一斉に群がってきた。今度はワタシが窒息する」
カ)「うずらちゃんは馴れ馴れしい接近が苦手なんだ。止めて差し上げろ!」
雪)「いっせいに群がるのやめまーす」
ウ)「物わかりの良い雪だるまだ」
雪)「雪だるまじゃなくて、丹代塩だぞ。さてここでクイズだ。この雪だるまは全部俺だ。でもホンモノは一つだけ。見つけ出してくれ」
カ)「全部塩くんなのにホンモノが一つだけって……おかしくない?」
ウ)「おかしくはない。人間というやつは多様性な生き物だ。人によって態度を変え、機嫌がいいときと悪いときでは言っていることが変わる。複数の人格と仮面を備えている厄介な生き物だ」
カ)「ああ、『気まぐれ』はなんて恐ろしいんだろう」
雪)「でもここにいる俺は特殊だ。なぜならニセモノは他人から見た、うずらちゃんに接している時の俺。つ、ま、り、ホンモノはうずらちゃんに対する俺の本心です…エヘヘ」
ウ)「ワタシが好きな塩くんはこの指とーまれ」
雪)「ワー」
カ)「だから群がるな!」
ウ)「こいつらニセモノだ。ワタシの知っている塩くんは、一緒に居るとワタシの心が穏やかになって、なんだか癒されるようなヤツじゃない!」
雪)「『じゃない』⁉︎」
カ)「ヒドイようずらちゃん! あの子はいちおう君を心配してくれているんだよ」
雪)「なあ、なんで俺は自称うずらちゃんの友達と名乗っているか知っているか? お前らが認めてくれないからだよ……」
ウ)「ワタシを睨んでいる雪だるまがホンモノだ」
カ)「笑っているのに感情が読み取れない雪だるまがホンモノだと思う」
ウ)「しかし、そもそも顔がない」
雪)「俺は泣きそうだ……」
カ)「よく見てみると、雪だるまの印象がそれぞれ違うね。全員塩くんなのに」
雪)「そりゃあ様々な人の、俺に抱いているイメージだから。本心以外は
ウ)「本心がホンモノだなんて、難しいな」
雪)「それじゃあヒント! 俺はねーうずらちゃんと友達になりたいと思っているよ」
ウ)「リスナーの好感を得たくても、ワタシを利用する嘘はいやだ……あ?」
カ)「うずらちゃんがすくった雪だるまが溶けたよ?」
雪)「はずれをすくったら溶けるようにプログラムしておいた。よく見たら、外見の判別がつかないから簡単にアタリを見つける方法を作ったよ。さーさーうずらちゃん!早く俺を抱きしめて――」
ウ)「よし。こいつを新塩くんにする」
カ)「うずらちゃんが独断で決めちゃったね。ちなみに決め手は?」
ウ)「ガラの悪い面相が生前の彼らしい」
雪)「どれも似たような顔でしょ! あと俺は悪人面じゃないから」
ウ)「テストだ。新塩くん。塩くんの好きな食べ物は?」
塩)「ゆっきー」
カ)「おお……」
雪)「いや『おお……』じゃないから。ニセモノじゃん」
ウ)「合格だ」
塩)「ゆっきー」
雪)「なんで⁉︎」
ウ)「ゆっきーとしか言わないところがいい」
雪)「お喋りできないぞ?」
ウ)「ワタシを騙し、陥れるのは言葉だ」
雪)「あー、やっぱり? いまだに俺も信用できないか」
ウ)「うん、ごめんね塩くん。だからワタシはこれから新塩くんと親睦を深めるよ」
雪)「ガーン!」
カ)「さらば、ホンモノの塩くん」
雪)「なんかおかしくない!?」
ウ)「ゆっくりでいいからカマクラにおいで。一緒にゲームをしよう」
雪)「うずらちゃんの接し方が俺より優しい」
ウ)「今度こそ、友達を作るんだ」
雪)「どうして俺じゃダメなんだよー」
カ)「うずらちゃん。大丈夫? 他の塩くんたちもカマクラに入ったから、窒息していない?」
ウ)「新塩くん以外はカマクラに融合したから窮屈ではない。いつの間にか入口がふさがっているから壁になったのだろう……ん? 君は壁にならないの?」
雪)「うずらちゃん……ぐす……俺のこと嫌い?」
ウ)「嫌いじゃないよ。塩くんはいつもそばにいてくれた。優しい人だって知っている。だからワタシは新塩くんと友達になりたいんだ」
雪)「旧塩氏は捨てるのか?」
ウ)「本心と向き合うほどの勇気はないから」
雪)「……ぐす、ひっく……」
カ)「カマクラの中で悲しいやり取りが聞こえてくるよ。雪だるまになれば友達になれるなんて、どこのホラ吹きが言ったのやら」
ウ)「ここは良い場所だね。入口がないから誰も入ってこないここに居るのは友達の新塩くんだけ。死ぬまでここにいよう」
雪)「食べ物がないから死んじゃうよー! お願いだよ、うずらちゃん! 家に帰ろうよ!」
カ)「……でも、うずらちゃんはやっと心を開く友達ができたんだ。よかった筈なのに、塩くんの気持ちを考えると複雑だな」
雪)「あれ? なんだか暑いな……」
カ)「え? 急に空が晴れてきた! まるで夏の日差しのようだ、みるみるうちに雪が溶けていく……あ、カマクラが!」
雪)「なんだ、なんだ⁉︎ 急に体が溶けて、く……」
ウ)「うわああ! 新塩くんが! いなくなっていく! ぐ、ぐわああああああ! 太陽が、居場所を、友達を奪っていく! そんな、どうして晴れてきたんだ!」
カ)「……雪だるまが溶けるのは当たり前。きっとあの太陽は正しさなんだ。うずらちゃんが間違った友達を作ろうとしたから正しさが成敗してくれた。でも、そのせいでうずらちゃんは独りになってしまった」
ウ)「正しさを基準にどこへワタシを追いやるつもりだ! い、痛い! 陽の光が痛い! 明るい景色はワタシには眩し過ぎる!」
カ)「大変だ! さあうずらちゃん、背中にのって! 移動しよう」
ウ)「早く、室内に入りたい…。せめて日光を隔ててくれるところまで行きたい」
カ)「目をつぶってて。……くそう、幸せを掴んだ瞬間にこんなバッドエンドを迎えるなんて可哀想だ」
ウ)「怖い…………今から太陽はワタシの敵だ」
カ)「うずらちゃん……うん、そうだね、太陽の届かないところへ行こう。逃げてもいいんだよ。逃げることだって、かなり勇気がいるんだよ。逃げる事は悪じゃない」
ウ)「………」
カ)「うずらちゃん? ……よかった、寝てるだけか。次に目を覚ました時に絶望を感じないように、急いで室内に運ばないと」
※ 続く
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