第2回 【筆箱】ラジオ


ウ)「塩くん! 伏せて!」



 チュイーン……ッドーン!

 (光線銃からビームが放たれる音

  やがて爆発音)



塩)「ありがとう、うずらちゃん。助かったよ」


ウ)「気を付けよ。塩くんはすずらん柄のボールペンのだ。塩くんがやられたら、ボールペンが敵に奪われてしまう」


塩)「うん。気を付けるよ」


ウ)「お願いね。……ちっ、もう次の敵がきやがった」


塩)「逃げよう。いちいち倒してもきりがない」


ウ)「そうだね……。くそう。なぜみんな、ボールペンを狙っているんだ?」







 普通より劣っていればバカにされる

 集団より秀でていれば妬まれる

 いじめられる側に原因があるのなら

 中の中になれ

 でなければ

 ずっと心の中で泣くことになるぞ



  【うずらうつと『ボールペン』の『筆箱』ラジオ】



【ナレーション】

 私の名前はうずらウツ。

 ワタシが所持している筆箱の中の空間責任者だ。


 教室にいると友達に「これいいな、ちょうだい」と文房具をとられるので休み時間は筆箱に閉じこもって自分のものを守っている。


 文房具を武器に戦う日常に、終わりはくるのだろうか。



塩)「よし、やっと学校が終わったね」


ウ)「こいつは丹代(タシロ)塩。私の仲間だ。今のところ」


塩)「今もこれからも味方の丹代塩だ。ところで誰と喋っているの?」


ウ)「リスナーの皆様だよ。さて、一時休戦か」


カ)「終わった?今日も全員無事だね」


ウ)「カナモリ。近くにいたのか? 気づかなかった」


塩)「さすがかくれんぼのプロだね」


カ)「戦闘のサポートを塩くんに任せ、生活のサポートに専念しているカナモリです。さて、夕飯は何がいい?」


塩)「久しぶりにシチューが食べたい」


ウ)「勝手に食っていろ。ワタシは寝る」


塩)「早くない? まだ明るいよ?」


ウ)「だから寝るんだよ。暗い場所で寝られるほど、私の精神は安定していない。じゃあ、また明日」


塩)「うずらちゃん……。あとでご飯食べにきなよ」


カ)「塩くん、そっとしておいてあげて」


塩)「……俺が憎いのかな?」


カ)「心の整理がつかないだけだよ。うずらちゃんのお気に入りのボールペンが塩くんに適合しちゃたからね」


塩)「適合……」


カ)「適性が合わない文房具は扱えないから、あのボールペンの所有者は塩くんなんだよ」


塩)「そんな。うずらちゃんの筆箱に入ってるのに、本人が使えないなんて……」








ウ)「コックリさんコックリさん、来てください」


神)「コックリさんなんか呼んで、遠回しに不幸になりたいのか?」


ウ)「文房具の神様! あなたに相談したくて降霊術を行っていたのです」


神)「ケーキを供えよ」


ウ)「はっ、ここに」


神)「うむ。で、どうした」


ウ)「文房具が気に入られないと、その文具の所有者になれないシステムが嫌です」


神)「お前は何の適合者だ?」


ウ)「消しゴム、ふせん、定規」


神)「三つは多い方じゃ。人によっては自分の文房具なのに一つも適合しないこともある」


ウ)「でも……」


神)「なんだ。適合した文房具を武器化して戦う設定が気に食わんのか。カッコいいじゃん」



ウ)「いいえ。敵の攻撃を打ち消す爆弾(けしゴム)や漢字の効力を発揮する呪符(ふせん)や自分の意思で距離を調節できるはかり(定規)はとてもワタシを助けてくれます。でも……」



神)「そんなものに好かれても、肝心のボールペンの適合者になれないから怒っているのか」


ウ)「すずらん柄のボールペン、好きだったんです」


神)「自分が好きだからといって、相手も自分が好きと思うのは間違いだよな?」


ウ)「それは……分かってます。わかってるから、正論を言わないでください」


神)「分かっていればそんなに落ち込むものか」


ウ)「ワタシを好きな奴なんて、いるわけがない」


神)「だから好き嫌いの分別をしない物に執着していた」


ウ)「……」


神)「でも、好かれていなかった」


ウ)「そうか、だからワタシは寂しいのか」



神)「よいかうずらウツ。お前が好きなものだけを見るな。自分が関わらなければならない周りを見渡せ。自分が進む道をよく見ろ」


ウ)「え……」



神)「自分が何をしたいのか分からないのであれば、自分がどう動けば平穏に済むのか考えてみろ」



ウ)「ワタシは……ありがとう神様。うん、やっと諦めがついたよ」


神)「お礼に三万くれ」



ウ)「ワオ」











ウ)「では次の方。学籍番号、名前、希望する筆記具を教えてください」


友)「はい。●番の■■です。所望の文具はあの可愛いボールペンです」


ウ)「■■さん。現在塩くんが所有していますが、その気があればお譲りします。ただ、あなたはこのボールペンを大切に使うと誓えますか?」


友)「もちろん!」


ウ)「嘘をつくな!」


友)「え」


ウ)「これが就活だったらお前は書類審査で落とされていたぞ」


友)「え、あの」


ウ)「はいここに■■さんの筆箱がありまーす」


塩)「持ち物検査しまーす。筆箱を逆さまにして中身をぶちまけまーす」


友)「もっと丁寧にあつかって!」


塩)「シャープペンシル15本。赤ペン5本。未開封の消しゴム1個」


ウ)「多くね⁉︎ 使わない文房具を売った金で新しいボールペン買ったほうがよくね⁉︎」


友)「違うの、これは…観賞用だから」


ウ)「鑑賞用を家に保存して使用用を学校に持ってこい」


塩)「結局ボールペンをもらっても、使わずじまいになりそうだな」


ウ)「ガキはシャーペンかペンシルだろ」


塩)「赤ペンならまだしも黒のボールペンを使う機会なんてあんまないだろ」


ウ)「ワタシがボールペンを引き渡す条件は大切に扱うことだ」


塩)「鑑賞用にするのならお引き取りください」


友)「そんな、ひどいわウツちゃ―」


 チュドーン!

 (バズーカ発砲!)


ウ)「きやすく名前を呼ぶなあ‼︎」


塩)「キレるとこそこかよ」


ウ)「まったく、どいつもこいつも狂ってやがる。せっかくボールペンを譲る機会を作っているのに……」


塩)「ねえ、うずらちゃん。この状況はなに?」


ウ)「面接だ。厳しい審査に合格すればあのボールペン貰える面接だ」


塩)「合格したら渡すつもり? うずらちゃんの好きなボールペンなのに? 友達に脅されたのか?」


ウ)「ワタシの意思だよ。しかし最終的に決めるのはボールペンだけど」


塩)「俺以外にボールペンの適合者が現れたら渡すの?」


ウ)「嫉妬かよ。塩くんも欲しいなら面接しなよ」


塩)「いらない」


ウ)「ハッキリ言ったな。うらやましい。じゃあ次の人を呼ぶよ」


塩)「待って」


ウ)「なんだ?」


塩)「うずらちゃんはそれでいいの? 適合者じゃなかったとしても、このボールペンの所有者はうずらちゃんなのに」



ウ)「ワタシが持っていてもボールペンに悪いからね。ボールペンが使ってほしい人に渡すことが、正しいんだよ」


塩)「……」


ウ)「塩くんなら、ワタシに賛成してくれるよね」


塩)「……俺、他の適合者に渡したくない」


ウ)「なんだと」


塩)「そうだよ。俺がずっと持っていれば誰にも奪われない! いい案じゃないか」


ウ)「塩くん……それは残酷だ」


塩)「どこが!」



ウ)「ボールペンの立場を考えれば、ワタシが所有していることは可哀想だ。それに、やっと諦めがついたのに決意を否定する言葉は悲しくなる」



塩)「諦めるなよ!」



ウ)「諦めさせてよ! いつまでもハラハラしながら逃げているのは精神的に辛いんだ。悪いことをしていないのに、なんで罪悪感を感じているんだ!」



塩)「堂々としていいのに!」



ウ)「分かる人にしか分からない感情を説明するのは無駄だ! 反対するのならボールペンを持って筆箱から出ていけ。きっとそうすれば、ボールペンを狙う友達も来なくなって大団円だ!」



塩)「そんな悲しいハッピーエンドなんざあるか! 声が届く範囲に味方がいるのに、自分の頭の中で勝手に決めるなんて間違っているからな!」



ウ)「近くにいる人が敵か味方かどうかはワタシが決める。偉そうに説得を試みてもムダだからな! ワタシは自分が傷つかないことに関しては頑固だからな!」


塩)「偉そうにムキになるんじゃあない!」




カ)「二人とも⁉︎ どうして喧嘩しているの⁉︎」



ウ)「カナモリ……昼間なのに表に出ていいのか?」


カ)「ヤバイ状況なんだよ! 喧嘩しないで、あのモンスターを倒さないと!」


ウ)「も、モンスター? いつもはクラスメイトが訪れるのに」


塩)「うずらちゃんあれ! ゴジラみたいな形の巨大なぬいぐるみが迫ってきている!」


ウ)「ぬいぐるみ? いや、ペン持てないじゃん」


カ)「違うようずらちゃん。あれは、この空間を消したがっている誰かの感情から作られた怪物だよ」


塩)「なんだって! 面接におちた奴らが強行突破してきたのか!」


カ)「うーん、この場合、うずらちゃんの自暴自棄が原因とも考えられるね」


ウ)「逃げろ! あいつの足がここに着くぞ!」


カ)「え、待って……ああぁぁぁー!」


塩)「鈍足なうえに平地で躓いたカナモリが踏みつぶされた。ねえうずらちゃん。カナモリが適合した文房具は何?」


ウ)「良い匂いする消しゴム。消しにくいから要らなかったんだよ」


塩)「じゃあカナモリがいなくなっても問題ないね」


ウ)「よかったよかった」


塩)「そんなことよりうずらちゃん。俺たちは選ばなければならない。逃げるか、戦うか」


ウ)「楽な方がいいな」


塩)「楽な方を選べばいずれ損をするぞ」


ウ)「選ぶのは苦手だ。ワタシの性格は、どうしたって選ばなかった方を後悔する」


塩)「前方に必ず絶望が待ち受けていると思うな。生きてる以上、進むしかないんだよ。余計に苦しむなよ」


ウ)「今のうちに諦める努力をしなくちゃ……。そんなことよりもさ、塩くん、お腹空いていない?」


塩)「え? こんな状況で?」


ウ)「ワタシは、無性にラーメンが食べたくなってきたんだ。あんな巨大なバケモノに太刀打ちできないよ。いずれ崩壊するなら、逃げようよ」



塩)「うずらちゃん」


ウ)「ワタシは、身近な筆箱だけに自分の居場所を作っていた。だからここを壊されてワタシは一人ぼっちだ」



塩)「……お供するよ」


ウ)「ありがとう。とにかく今は『ラーメンを食べたい』ってことだけを考える。じゃないと自分を保てない」


塩)「今度はどんなところがいい?」


ウ)「誰も侵入してこない安全な檻がいいな」













 【ありもしない次回予告】

 こんにちは。うずらウツです。

 ラーメン屋さんに行く途中で塩くんがナルトにされてしまった。

 唯一の仲間を取り戻すためにワタシはラーメンの魔法使いに究極のラーメン作り対決を挑むのだが……。


 次回ラーメンラジオ。友情の劇薬塩ラーメン。


 待ってて塩くん。

 童話のヘンゼルとグレーテル的なカンジで助けてみせるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る