第二章 冒険者なのに山菜を採る

十四、冒険者?になる



「やっと着いた!」


歩いたり休んだりすること10日間。やっとの事で街へとたどり着いた。


『ベンチュア。場所が良いのか、冒険者の街とも言われているほど多くの冒険者が集っているようだあまり大きな街とは言えないが、活気があり、毎日の活動が活発である。そのため、商人も技術者もこの街に集うことからボルベメニルでは経済面から重視されているようだ。非常に手厚い扱いを受けている。』


「あれ?よく知ってるねそんなこと。」


『私は博識である。』


「…看板がっつり見てるじゃん。」


ルクレールは背伸びをしながらぼーっと看板を眺めていた。

パッと見たところ観光案内のようなものなのだろうか?何も知らないよりはありがたい。


僕は地図から冒険者ギルドの位置を探す。


「とりあえず冒険者ギルドに行こうか。」


『いいよ。』


僕が歩き出すとルクレールは後ろをよたよたとついてくる。

そして、たまに僕の服の裾で自分の顔を拭うのだ。

僕の服はそこまで綺麗ではないため、止めていただきたい。


街並みは質素なものであるが、道はきっちりと整備されているようだ。出店など多くの人が賑わいを見せている。今の時間は特別なのだろうか?人が溢れんばかりである。


ざわざわとした喧騒や客寄せの声が身に染みる。五月蝿うるさいけれど、久しぶりに人に触れた気がした。


『ずっと私といたじゃないか。』


「僕の思考を読むのはやめてよルクレール。」


『これがなかなか楽しい。』


彼女は肩をすくめるとぱたぱたと出店の前まで行ってしまった。彼女は本当に他の人から見えていないようだった。出店の裏に回り込んでも何も言われていない…ということは僕はいつも独り言を言っているのか!?



これからは出来るだけモノローグで会話しようかな。読めるみたいだし。

僕は先に言ってるよルクレール。


『こら!待ってよ!出店も面白いものだぞ。色々な色があって目が楽しい。』


「僕は後で見るよ。今はギルドを探さないとね。」


『ちぇ〜…』


彼女は渋りながらも後ろをついてくる。僕は数日間一緒に野宿を繰り返したけれど、なんとも彼女は掴めない性格である。幼い見た目に反して堅苦しいことや頼りになることを言ったりしたと思ったら、馬鹿みたいな言動をすることもある。


僕はもっと堅苦しい精霊なのかと思っていたのだけれど…


『そこがまた愛らしいのよ。』


確かにそうだけれど。なんだかなぁ…

ルクレールは腕を組み、何故か誇らしげに微笑んでいた。




◇◇◇




冒険者ギルドは想像以上に荘厳な造りであった。流石に冒険者の活動が活発なだけはある。先ほどから多くの人々が出入りしているし、利用者も相当な数なのだろう。


僕は恐る恐る扉を開けた。その瞬間、むわっとした熱気をこれでもかと感じる。


中にいる人たちはきっと冒険者なのだろう。筋肉質な男性や女性から全身を鎧に包んだ騎士のような人まで色々な人がいる。酒を飲んだり、談笑したりと仲が良さそうだ。


受付は…奥みたいだ。僕が奥に進もうとするとなんだか視線を感じる。

どうやら他の冒険者の方々に見られているようだ。子供が珍しいのかな?



『それもあるけど…君の格好が乞食こじきみたいだからだと思う。』


「え?」


そういえば忘れていた!服はあの時のままだし、それで何度も野宿をしたのだ!

髪もぼさぼさだしこりゃあ汚い。僕でも物珍しそうに見るだろうね。

なんで教えてくれなかったのさルクレール。


『そこがまた愛らしかったからね…そ、それよりとっとと受付済ませよう!』


彼女はうんうんとうなずき、逃げるように受付へ向かった。

…僕は馬鹿にされているのだろうか?別に良いのだけれども。



「いらっしゃいませ!!お客様は見ない顔ですね!!

こちらを訪れるのは初めてでしょうか!?」


受付の金髪の女性はニコニコと笑顔を絶やさずに接してくれるようだ。

乞食にも優しいとは流石は冒険者ギルド様の受付様です。頭が上がりませんね。


「はい…そうなんですが…こちらの紹介状って使えますか?」


「お預かりいたします!!少々お待ち下さいませ!!」


彼女はすぐに手元で作業を始めた。なんとも手際が良いようだ。

それに見た目も綺麗であり、愛想も良い。きっと優秀な受付なのだろう。

下の方で二つに括られた髪が腕の動きに合わせて揺れている。


『その上…なんとも豊満な乳房をしている。あの服はここの制服なのだろうか。やや胸が強調されており、僕の情欲を駆り立てる。あぁ…なんともあの幸福の膨らみに顔を埋めたいものである。』


僕のモノローグみたいに卑猥な文章を読み上げないでルクレール。


ついつい胸を見てしまうところだったじゃないか。これ以上僕を見世物にするのは止めておくれ。見た目以外は真面目そうに取り繕ったっていいじゃないか。


ついでに言うと、ルクレールは顔がつきそうな距離で横から彼女の胸を凝視していた。


「…はい!!こちらで身分の証明は完了いたしました!!

登録の際は特殊な冒険証を配布いたします!!」


特殊?招待状の特権なのだろうか?


「…それってどんな利点があるんですか?」


「そうですね…当ギルドでの素材の買取や報酬の受け渡しの際、多少ですが金額に色をつけさせて頂きます!!微々なるものですが何度も利用して頂くことでなんともお得にご利用頂けるでしょう!!」


ちょっと多くお金が貰えるってことかな。無一文の身からするとありがたいものだ…


「それでは…こちらに注意事項の確認と必要事項の記入をお願い致します!!」


その用紙にはギルドの取り扱いや等級に関する基本的なことから禁止事項や脱退時の手続きなど事細かに記載されていた。ざっと目を通したけれど、特に気にとめる内容はないだろう。ただ山菜や薬草の買取をしてもらえれば良いのだから。



僕は…必要事項を記入しようとして手を止めた。



記入欄には名前と年齢の項目がある。

名前はセン…だけでいいかな。でも、僕は何歳なんだ???


僕が悩んでいると受付の女性も困ってしまったようだ。

教えてルクレール!僕の年齢は何歳でしょうか。


『見た目は…11とか12とか13とかそのくらい。』


じゃあ間をとって12歳にしておこう。持つべきものはルクレールである。

本人はまだ受付の女性を観察しているようだったので心の中で感謝しておこう。


「はい!!ありがとうございます!!では、こちらの水晶に手を翳していただけますか!

冒険証の作成に移らせて頂きます!!」


「これは何でしょうか?」


「魔法適性の確認、及び冒険者の登録を行うための魔法道具ですね!!

これによって読み取った情報を元に冒険証を作成いたします!!」


僕は言われるままに水晶に手をかざす。水晶が光ったと思ったら、ぼんやりと白く濁ってしまった。


「はい!!完了いたしました!!少々お待ち下さいませ!!」


彼女はあっという間に奥の方に消えてしまった。ルクレールはそれを追いかけて行ってしまった。何をしているんだか…僕は1人取り残されてしまった。ちょっと心細い。



「おいおいっ!何で子供がこんなところにいるんでちゅか〜」


「へっへっへ…子供はママのところに帰りなちゃい!ガハハハッッ!!」


突然、後ろから赤ちゃん言葉で声をかけられた。大柄の男性と細身の男性の二人組だ。

大柄の男性は筋肉質な上半身を見せつけるかのように裸である。

また細身の男性も独特な服装をしている。


僕と同じくらい恥ずかしい格好をしている人がいるじゃないか!親近感を覚えずにはいられない。しかし、僕はあまり人と関わらないようにしようと決めたのだ。また面倒ごとが起きないようにね。


「あ、はい…そうですね。」


「あらら〜!?ビビっちゃてるよこいつ!!」


「怖いでちゅね〜ゲラゲラ」



これぞカルメン・ロロット話法である。伝家の宝刀だ。



彼らは周りの人々を煽るように笑い始める。やめて…これ以上この乞食めを目立たせるのは止めていただきたい…でも、僕が何を言っても火に油を注ぐだけだろうと思ったので黙っていることにした。


あれこれと話しかけてくる彼らの言葉に適当に相槌をうつ。

その度に周りに笑いが起きる。何だか僕が人気者みたいじゃないか。思ったほど悪くない。



「お待たせいたしました!!!」


駆け足で受付の女性が戻ってくると、僕に話しかけてきた2人はそそくさと立ち去っていった。何だか少しギルドの力関係がわかった気がする。彼女には媚びを売っておこう。


「こちら冒険証となります!!」


僕は彼女から渡された小さな金属の首飾りを受け取った。銅で出来ているのだろうか、鈍い色をしている。表には名前と年齢、冒険者としての等級が小さく記載されていた。僕は一番下であるG級だ。


「魔法適性の測定値とそれから推測された適職が記載されております!!

冒険に役立てて頂きければ幸いです!!」


僕は裏を見ると案の定、何も書いていなかった。魔法適性はどれも0。

どうやら適性がないのは本当だったらしい。少し期待していた分、悲しい。



「これにて冒険者としての登録は以上です!!仲間を募集されたい場合は右手の掲示板を!!

依頼を受注されたい場合は左手の掲示板をご確認下さい!!」


そう言い終えると彼女はぺこりとお辞儀をした。ニコニコと笑顔は絶やしていない。


その後ろでルクレールはギルドのお偉いさんかの如く、偉そうな顔をしながら腕を組んで真っ直ぐと立っていた。ふざけてないで宿を探しに行くよルクレール。置いていっちゃうぞ。


僕がギルドの扉に手をかけると、後ろから冷ややかな笑い声が聞こえてきた。


『何かやらかしたの?』


「いや…特になにも。」



なんとも怪しい滑り出しである。

もしかして対応を間違ってしまっただろうか?




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