第93話 レスキューミッション
ミッションブリーフィングは瞬間移動で機材とドクを森都に運び、借りた空き家で行われた。
PDAを持たないアリエルさん達にもわかるように、映像をプロジェクターで投影しようとしたのだが住居内に適した平面が無かったため、プロジェクタスクリーンを展開して表示している。
聞き取った情報を元に図式化された概要図が表示される。俺はそれを見てアリエルさんにそれぞれの図が何を示しているかを説明し、アリエルさんから各森妖精に伝えて貰うという面倒な手法を取っている。
「さて状況を整理しよう。ミッションの目的は孤立した森妖精達の救助。要救助者は『魔術師』を含め5名。最後に確認した時点では敵性生物は『
要救助者は負傷者を逃がすと大樹の樹上へと退避した。流石にあの重量の化け物が木登り出来るとは思わんが、どうも獲物に執着するタイプらしく、大樹の下に陣取って降りてくるのを待っているか、もしくは大樹を倒そうとしているのだろう。
咄嗟に大樹の樹上へと退避した判断は良かったのだが、問題はそこが『
スクリーンには模式化された樹木のシルエット上に、5人の人型アイコンが配置され、その根元にはアルマジロのアイコンが表示されていた。
鎧に似た外殻を持ち、ボールのように丸くなるという共通点以外は似ても似つかない凶悪なモンスターだが、画面上ではユーモラスに見えている。
「まずはシンプルに敵性体が1体のみだと仮定して対処を考えてみよう。以前に俺とシュウが倒した時は奴がシュウに執着し、追いかけてきたところをシュウの能力で撃退している。
今回は森の奥地という事もあり、バイクで逃げるのが難しいため一か八かになるこの方法は取り辛い。前回はどうやって倒したのか説明してくれるか、シュウ?」
「判りました。前回はアベルがバイクを運転し、直進状態になった時に後部座席で振り向いた俺が、背後の化け物を銃撃しました。
至近距離だったため7.62ミリ弾を9発纏めた合体弾を通常の4倍以上の速度で撃ちこみ外殻を剥がし、連撃指定していた『ラプラス』に同じく4倍速の弾丸を1発、露出した内臓に撃ちこませて仕留めました」
カルロスが銃弾に設定した加速度を聞いてきたため、詳細に答えると難しい顔をして黙り込んだ。カルロスが使用する対物ライフルの口径は12.7ミリであり、使用する弾丸も12.7ミリNATO弾になる。
7.62ミリ弾と比べて圧倒的な破壊力を誇るが、前述の4倍速合体弾という非常識な存在ほどの威力は無い。丸まっていない状態で頭部を狙撃すれば頭ごと消し飛ばすことは出来るのだが、こればかりは相手次第であり、運の要素が絡んでくる。
「どうだドク、目標は補足できそうか?」
「大型動物の熱源を捉えた、もうしばらくすれば映像を回せる。お! BINGO! これが最新映像だな」
アベルの声にドクが応えて、ドローンで空撮している映像をスクリーンに映し出す。
アリエルさんの押し殺した悲鳴が漏れる。なんと『岩石喰らい』は大樹をよじ登ろうとしているようで、何本もの真新しい爪痕が幹に刻み込まれていた。
丸まり状態を解除し、樹皮に爪を立てて重量級の体を持ち上げている化け物に向かって紫電が走った。音声は拾えていないためよく判らなかったが、極小の落雷があったかのような一瞬の閃光が『岩石喰らい』を貫いた。
『岩石喰らい』は地面に落ちたが、装甲を纏って丸まっただけで、大きなダメージを受けた様子はなかった。しかし魔術を行使したであろう森妖精がふらつき、仲間に支えられているのが見える。
持久戦に持ち込まれると分が悪そうだ。今の攻撃が出来るのもあと1発撃てるかどうか怪しいところだ。
「相対位置関係は把握できたわけだが、シュウが彼らを回収してくるのが一番早くて安全なんだがな」
「それをしたいのはやまやまですが、瞬間移動に同意して貰う必要があるので当面の危機を排除しないと会話にならないと思います」
「私が説得します!」
俺とアベルの会話にアリエルさんが割り込んだ。確かに彼女を伴って転移し、彼らを説得すれば安全かつ速やかに撤収できるだろう。
アリエルさん以外の森妖精は難しい表情をしていたが、さりとて代案があるわけでもない。誰かが危険を冒さなければ誰一人助けることは叶わない。
「よし! 時間も無いことだしそれでいこう。手順はこうだ。まずはシュウ、君がカルロス、ウィルマ、アリエルを伴って瞬間移動で近くまで移動する。
カルロスは300メートル以内ならば奴の頭を吹っ飛ばせるな? その条件に適した樹木をドクが探す。そこで奴が頭を出せば狙撃してくれ、ウィルマはカルロスのサポートを頼む。
シュウはアリエルと一緒に要救助者の居る枝付近に転移して、彼らを説得し転移条件を満たせば即座にカルロス達の許まで撤収だ、そして全員でここに帰還する」
アベルが全員を見渡す、皆がそれぞれの役目を把握していた。俺は最後の手段として
更に少しでも敵から発見を遅らせるため
腰に下げた弾薬ポーチに合体弾を仕舞い、準備を完了する。カルロス達も準備が出来たようだ、『Barrett M95』
アリエルさんの様子を見ると、ここに残る森妖精に何事かを伝えたあと、こちらを向いて頷いた。さあ作戦決行だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
俺たちは大森林の奥地へと転移した。ドクが条件に適合する狙撃ポイントとして割り出した樹上に出現し、要救助者の様子を確認する。ドシンと言う重量物がぶつかるような音がした方向を見ると、丸まった状態の『岩石喰らい』が大樹に体当たりをしていた。
これは転移のタイミングが重要になる。運動神経の鈍い俺では体当たりの瞬間に樹上へ転移すれば、衝撃で落下して真っ先に『岩石喰らい』の餌になってしまうだろう。
カルロスとウィルマは狙撃体勢を整え、奴が頭を出すのを窺っている。俺はアリエルさんに合図すると、『岩石喰らい』が勢いを付けるべく大樹から距離を取ったのに合わせてカウントダウンを開始する。
巨岩となった『岩石喰らい』が衝突し、揺れが収まったところを見計らって転移した。
視界が切り替わった瞬間に枝を走って幹に固定具を撃ちこむ、すかさず落下防止ハーネスを接続して長さを調節する。アリエルさんにもハーネスを投げて固定させると、彼女が要救助者に向かって叫んだ。
「あなたたち大丈夫? 私です、アリエルです!」
彼らは突然樹上に現れた闖入者に驚き目を見開いていた。ぼけっとしていては次の攻撃がやってくる、その前に警告を叫ぶ。
「体当たりがくるぞ! 何かに掴まれ!」
俺の大声に我に返り、彼らは慌てて枝にしがみつく。そして次の衝撃が我々を襲う。遠くから見ていた限りではまだまだ持ちこたえられそうに思えたが、激突の度にミリミリという嫌な音が耳に入る。
揺れが収まったのに合わせてアリエルさんが森妖精達に語り掛ける。
「ゆっくり話をする時間がありません。手短に言います。こちらの方は来訪者です、一瞬で長距離を移動する魔術を行使されます。しかしその術には移動される側の同意が必要になるのです。私が保証します、彼を信じて下さい!」
逡巡は一瞬、皆が決意し俺を見据えて頷いた。『
揺れが収まったと同時に彼らを転移し、俺とアリエルさんはハーネスのロックを外して自由になった状態で、彼らを追いかけて転移した。
カルロス達が待機している樹上へと転移すると、『岩石喰らい』が装甲から頭を出したところだった。匂いで獲物を把握しているのか、突然消えた匂いを訝しみ頭を出したのだろう。
雷鳴にも似た轟音が響き渡る。排莢の音とボルトを操作し再装填するガシャリと言う音が妙に響く。「ヒット」淡々としたウィルマの声が命中を告げた。
結局第二射は撃たれることもなく、撤収準備を整えるとその場にビーコンを設置して森都へと転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます