第81話 ホード(大群)04

 邪妖精たちの拠点というか巣は山肌に大きく口を開けた洞窟だった。

 頻繁に邪妖精の集団が出入りしており、中の構造を調査することが難しい。そこでアルフガルドに滞在している地妖精の職人に協力を依頼し、山肌に潜った状態を維持して貰い『ラプラス』で中を探ることにした。

 通路に明かりが灯されていないため、捜索が難航したが篝火で照らされた大広間のような場所を突き止めた。周囲より一段高い玉座が設けられ、そこに大柄というか肥満気味の邪妖精が気だるげに座していた。

 こいつが邪妖精の王と言うか指導者だと見て間違いないだろう。それ以外には付近に尻肉を抉られた指揮官がうつ伏せになって寝かせられていた。王太子的なポジションだったのだろうか、前線に出すぎだろう。


 巣の中を探索していて気になったのが、性別の比率だ。巣の中で生活しているのは七割程度が雌と子供であり、成人した雄は指揮官に連れられて頻繁に外へ出ていく。

 さらに巣の構造を粗方探査し終えた結果判明したのは、生息数に比較して著しく食料備蓄が少ないという事だ。

 略奪してきた物資や、狩猟してきた獲物などが溜め込まれてはいるのだが、到底大人数を養えるだけの量には見えない。

 エネルギー効率が良いのか、それとも摂食以外にエネルギー補給の方法があるのか、体色が緑色であることから葉緑体を持っており、光合成でエネルギーを得ている可能性すらある。


 しかし巣の中に大半の雌を囲い込む習性はありがたい。明らかに有性生殖をする種族であり、ここで雌と子供を殺し尽くせば少なくとも近辺から邪妖精はいなくなる。

 雄だけが生き残ってもいずれ寿命で朽ち果てる。散発的に攻めてくる程度ならいくらでも迎撃可能だ。

 ここまでの観測データをまとめ、PDAに立体データとして保存すると協力してくれた地妖精と共にアルフガルドへと戻った。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて恒例となったブリーフィングを始めるぞ。シュウが調査したデータを元に巣の構造を表示してある。出入り口は二か所が確認されている。総床面積は概算で160エーカー(約1平方キロメートル)、この範囲に二千匹近くの邪妖精が生活している。

 特殊な生態をしているようで、巣の中にはほとんど雌と子供しかいない。王らしき邪妖精を中心に集団を形成しているようだ。

 食料貯蔵施設を確認する限り、主食は蛾の幼虫らしきものだ。雑食性なのか木の実や獣肉が貯蔵されているほか、鶏のような飛べない鳥を飼育しているようだ。

 人口に対して備蓄してある食料が少ないため、異常なエネルギー効率を持っている可能性がある。兵糧攻めは効果が薄いかも知れない。

 可能ならば雄たちも戻ってきている状態で封じ込め、一網打尽にしたいところだが現時点では出入りが激しく、取りあえず夜を待つ方針だ。


 巣の内部は入口から入って大広間、居住区に食料貯蔵区、家畜飼育区画に分かれている。高低差もあり、攻め入った場合は大広間で戦闘になるだろう。

 そうすると四方八方から攻撃されることになり、著しく不利な戦闘を強いられる。火力では勝っているが兵力に於いて劣っている現状、正攻法で挑むのは愚策でしかない。今回も搦め手を用いることになるだろう。


 現在有力なプランは出入り口が二か所であることに注目し、これを爆破して崩落させ閉じ込める。崩落個所を外から余剰コンクリートで固めてしまえば、餓死もしくは窒息死で全滅だ。

 難点は確実性に欠けるのが一点、別の出口を作って脱出される可能性があるのが一点だ。何か案があれば誰でも構わん、申し出て欲しい」


 ドクが珍しく手を挙げて意見を述べる。


「前回シュウがやったように、今回も入り口を塞いで注水すりゃいいだろ? 内臓を見る限りは肺呼吸なんだ、溺れ死ぬさ」


「それは真っ先に考えたんだが、ここを見てくれ。食料貯蔵区画と居住区にある山肌との厚みが薄い部分だ。ヴィクトルが爆破を検討する際に計算した結果、水圧に耐えられず外部に向かって崩壊し、そこから水が抜けてしまう。

 地下区画に居る邪妖精どもは溺死するだろうが、大広間や居住区に居る邪妖精が生き残る確率が高いため見合わせた」


「やはり私が最初に提案したプランで進めるべきです。確実に巣の内部に居る邪妖精を駆逐できます!」


 ヴィクトルが鼻息を荒くして計画書を持ち出してくる。アベルは使用爆薬量を見て頭を振った。


「この巣を吹き飛ばすだけに220ポンド(約100キロ)もの爆薬の使用は許可できない。他に策が無い場合に取る最終プランとしよう」


 一つ思いついたことがあるので提案してみることにした。


「アベル、出入り口を塞いだ上で空気よりも重い気体を流し込んだらどうだろう? 一酸化炭素なんか良いんじゃないだろうか?」


「ん? シュウ、一酸化炭素は空気より軽いぞ。蓋をして流し込み続ければ、いつかは充満するだろうがよ」


 ドクがさらりと間違いを指摘してくれる。


「え!? そうなのか…… なんだか二酸化炭素のイメージで空気より重いもんだと思い込んでた…… 巣全体を覆うのは難しいですよねえ……」


「巣が広すぎるな、しかし手段としては有望だ、気体の種類を変える必要がありそうだがな。奴らの光源は原始的な松明や篝火だ。酸素を消費し尽せば自滅する」


「あ! あれはどうかな? 火山性の有毒ガス。硫化水素とかだと空気より重いし毒性も強いだろう?」


 ヴィクトルがすかさず賛意を示す。


「名案です、シュウ! ここは山岳部であり硫黄や硫化化合物は何処にでもある。硫酸もこれだけ材料があればドクならば作り放題でしょう」


 その後も検討を続けたが、これ以上に効果的な案は見つからなかった。引き続きプランは模索するものの、取りあえず準備に掛かるべく皆が動き始めた。

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