第15話 交流
瞬間移動サポートツールの開発が一段落した。
ここからはコア部分をサーバにアップして、Web上からサービスとして利用できるように、簡単な調整を施していく。
自分と崇しか利用しないであろうから個人認証は無しにして、スマホ用のアプリとして登録する。
これでノートパソコンを持ち歩かなくても手軽に瞬間移動できる。
動作確認をしようとスマホを持ち上げた瞬間に電話の着信。発信者は崇だ、出張するって言っていたが何の用だろう?
「はい小崎です」
「シュウ、俺だ。ちょっと頼みたいことが出来たんだが、そっちは今何時ごろだ?」
「ん? 妙な事を聞くなあ、昼過ぎだけど……15時10分前ってところだね」
「そうか。実は重要な書類を自宅に忘れてきてしまってな、悪いんだがお前の能力で持ってきて貰えないかな?」
「別に構わないけども、肝心の書類がどこにあるか、俺には判らんよ?」
「母に電話で伝えてあるから、俺の家に寄って受け取ってきてくれれば良いよ」
「まあその様子だと急ぐんだろう? 早速準備するからお前は何処に居るの? GPS座標を教えてくれ」
「ノルウェーのオスロ。北緯59度、東経10度付近だ。ちょっと人目に付かない空き地に移動して座標取得する」
「え!? 海外かよ!! 俺、パスポート失効してからかなり経つんだけど!?」
「通常の手段では間に合わないから、お前に頼んでいるんだ。旅券とか変な心配するな。お前の能力には、出国手続きはないだろう?」
「そう言われればそうだけども、これって思いっきり密入国だよね? 闇診療は拒否するのに旅券法違反は良いのかよ!?」
「一つ良いことを教えてやろう。犯罪は、バレなければ罪に問われない。更に、観測されない事象は、無いのと一緒だ」
「くそっ! まあ良い。
「もう連絡済みだ。10分以内にお前が荷物を取りに来ると伝えてある。悪いな、こっちで飯でも奢るから、急いでくれ」
通話が切れると即座にメールが届く、小数点第5位まであるGPS座標が記載されている。
用意周到な奴にしては珍しい失態だが、相棒のピンチを
ナースステーションに寄って外出する旨を伝え、早速トイレから大道邸へと移動する。
玄関前に人影がある、
「こんにちは、小崎です。崇の荷物を預かりにきました」
「あ! 小崎くん? ごめんなさいね、うちの崇がご迷惑をおかけして。大事な契約書の一部分をコピー機に置いたままにしていたのよ、あの子ったら……」
「なるほど契約書だったんですか。どうも急いでいるみたいだったので、僕はこれで失礼しますね。では!」
「ごめんなさいね。またお時間があるときに寄って頂戴ね、そうそう、頂いたケーキ美味しかったわ。ありがとう」
肘を抱えるようにして上品に手を振る彼女に軽く会釈をすると、裏手にあるガレージに向かう。
合鍵のある場所は崇から聞いているので、鍵を開けると再び合鍵を元の場所に隠し、ガレージ内に入り内側から施錠した。
確実に人目がないことを確認したあと2Fに上がり、自分の位置座標を設定しながら、例のグミを窓から放り投げた。
能力を発動した瞬間、猛烈な勢いで前方に引っ張られる。抵抗も出来ずにゴロゴロと地面を転がり、軽く30メートル近くも転がった上に、何かにぶつかって止まる。
凄まじい吐き気と背中を
「大丈夫か!? 何しているんだお前は!! どんな移動をしたら、そんなに勢いがつくんだよ!」
「っつーー……崇か? 静止状態で移動したはずなんだが、妙だな。とりあえず預かったブリーフケースは……無事だな。よし! これを受け取れ」
「すまんな、母から聞いているかも知れないが中身は契約書でな。これが無いと何をしにきたのか判らなくなるんだ。後で診てやるからそこで安静にしててくれ、1時間ほどで戻る」
そう言いおいて崇は急ぎ足で立ち去った。うーむ肘を擦り剥いたのか血が滲んでいるし、お気に入りのチノパンは薄汚れって……
あ!! 尻のところが裂けている!! まあ全身草の汁塗れで茶色だか緑色だかの、まだら模様に染まっているし今更か。
俺を受け止めてくれた石壁にもたれ掛かり空を見上げて、何が原因で吹っ飛んだのか考える。
鈴鹿の例もあるし、何か長距離移動に伴う見落としがあったのかも知れない。世界地図で見てもかなりの距離があるんだ……。
「あ!! 緯度だ!! 日本は北緯35度、ここノルウェーは北緯59度。回転半径が違うから角速度が変わるんだ!!」
慣性系に居ると自分が移動している認識は無いが、地球の半径を6000キロメートルとして一日24時間で概算を求める。角速度は日本で時速1300キロメートル、ここオスロでは時速800キロメートルぐらいか。
速度差500キロメートルで放り出された割には軽傷で済んでいると言うべきか、相変わらず使い勝手の悪い能力に嘆くべきか……。
完成したと思っていた瞬間移動サポートツールにも、緯度に対する慣性速度補正値を計算して表示するように、アップグレードする必要があるな。
異国の地で早朝特有の肌寒い空気を感じながら、小石を掴み上げ慣性に関する項目を設定して放り投げて反映させる。小石は予想通りの速度で飛翔し、予想外に急角度の放物線を描くと、地面にめり込んでしまった。
本当に何から何まで思うようにならない。ここまで来ると逆に面白くなってきた。
よし! 地球上の何処へでも安全に移動できるソフトを組み上げてやる! そう決意した。
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