第12話 課題
「うーん……これはサスがいっちゃってますねえ。交換するしかないと思いますが、何をしたんです?
多少の段差や衝撃吸収程度じゃ、シリンダーはともかくスプリングは損傷しないんですけどね……」
首を捻りながら質問する整備士の台詞に、ばつの悪い顔を浮かべる俺。昨日の成功に気を良くして、鈴鹿までスープラに乗り込んで転移したのだ。
しかし、地面は一見平面に見えているが、実は曲率半径約6000キロメートルの曲面となっている。
この事を一切考慮せずに転移したため、俺と崇を乗せたスープラは、地上から4メートル近くも高い位置に出現した。
異常に気が付く前に落下が始まり、一瞬で着地と共に轟音がして、車のサスペンションは衝撃を殺しきれずに破損した。
通常のサスペンションなら耐えきれた可能性もあった。しかし、この車のサスペンションはレース用に換装されており、通常走行では発生しないような衝撃を吸収することに特化した高い性能を誇る反面、想定以上の衝撃が掛かると縮んだスプリングが戻らなくなってしまったのだ。
「取りあえず車は預かります。衝撃でフレームに歪みが出ている可能性もあるので、検査や元々予定していた部品取り付けも込みで2週間ほどになります。何かあれば随時連絡しますのが、代車は必要ですか?」
「いや代車は必要ありません。こいつが移動手段を持っているので、それで帰ります。よろしくお願いしますね」
崇が整備士の渡してきた書類にサインし、事務所で手続きを行っている間に、ノートパソコンを開き表計算ソフトのアイコンをダブルクリックする。
出発点の緯度、経度を入力し、目標地点の緯度、経度を入力すると発生する高低差を求めるよう計算式を埋め込む。
今回はたまたま移動距離が50キロメートルと少しだったため軽い衝撃で済んだが、これが500キロメートルともなると笑えない落差になる。
更に土地自体の海抜高度による違いも問題になる。海抜5メートルの地点から海抜0メートルの地点へ平行移動しても、5メートルの落差が発生するからだ。
おかしい。漫画やアニメ、小説なんかに出てくる瞬間移動能力というのは、もっと便利なはずだ。
登録地点に瞬時に移動できて、当然高さも勝手に補正される仕様がメジャーである。なぜ俺の能力はこうも痒い所に手が届かない、残念仕様なのか……。
取りあえず国土地理院が販売している地図データと、基盤地図情報を購入した。GPSソフトと連動させて、2点間の高低差を求めるプログラムを、アドインとして作り込もうとしているところに崇が戻ってきた。
ノートパソコンをスリープ状態にして、画面を閉じて立ち上がり、一緒に整備工場を出る。
「ふう……一応簡単な検査の結果では、フレームが歪む程の異常は出ていないみたいだ。超短時間輸送の対価としては悪くないだろう」
「すまんな、野球部の寮に荷物を動かしたときに気づくべきだった。今思えば箱の中の荷物が妙に散乱していたのは、落下したからだったんだろうな」
「どんな事にも初期は不具合が出るものさ。お前のことだ早速何らかの対処はしてくれているんだろう?」
「うん。取りあえずGPSソフトとの連動が出来るようになれば、日本国内でGPSが届く場所なら問題ない範囲の誤差に収まると思う」
「どのぐらい掛かりそうだ? 病院に持ち帰りたいなら、機器の持ち込み申請を書かないといけないんだが」
「ちょっと検証に時間が掛かると思う。だから、悪いけど申請書をお願いするよ。あとネットに接続したいから、携帯持ち込みと一緒の申請で良いんだっけ?」
「そうだな、まあ両方とも俺の方で出しておくよ。対応できたら教えてくれ、しかしSEやっていて病んだのに、今でも開発する必要があるというのも因果な話だな」
「まあ納期が
「お前が作るものは信用しているよ。大学時代に俺の親父から依頼されて作ってくれた、野球部の情報支援ソフトはバージョンアップを繰り返して未だに現役だからな」
「
「湿っぽくなったな、またお袋も誘って命日に墓参りでも行こうや。よし! 取りあえず鰻食って帰るぞ!」
慌ただしい二日間だったが、概ねやることの方向性と課題点は洗い出せた。後は病院に戻ってじっくりとやれば良い。
この近所には美味い天然鰻のうな重を、食わせてくれるお店があるので、病院の粗食に戻る前に豪華な晩餐と洒落むことにした。
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