第147話 事情説明と事後報告

 出たのは指揮所だった。

 そしてそこで待っていた人影は5人。


 真っ先に動いたのはひときわでかい体の一人だった。

「うおーぉ秀美、良がったー!」

 柿岡先輩が委員長を抱きしめる。


「お兄、苦しい。あと恥ずかしい」


「まあそこのシスコンさんのおかげで事態を把握できたのよ。

 だから今回はあきらめなさい」

 と神立先輩。


 他にいるのは高浜先輩と牛久先生。

 あと見覚えのないごつい先輩1人。


「私が状況を説明するね」

 と神立先輩が口を開く。


「まずそこのでかいのが慧眼で事態に気づいた。

 でも空間が封鎖されて手が出ないので高浜君を呼んだ。

 でも高浜君でも事態が打開できそうにないとでかいのが慧眼で気づいた。


 パニック状態になりつつも慧眼で学校内をかたっぱしから調べる。

 誰が適任かわかったでかいのは、何も考えず三郷さんの現在地に異空間移動。

 新義足調整中だった三郷さんと後台君の前にいきなり現れていきなり土下座して、訳が分からない後台君と険悪な状態になりかける。


 そこに高浜君が私を連れて乱入。

 情報処理能力で事態を知った三郷さんと一緒に後台君を納得させてここで待機。

 ついでだから当座の責任者を押し付けるために牛久先生を呼んだ。

 そんな状況よ」


「あんな状態の時にいきなり現れて『頼む、三郷君を貸してくれ!』って土下座された時はどうしようかと思いましたよ。こっちの状況も状況だったし」

 という事はこのごつい彼が後台先輩だろう。

 状況が状況というのも大体想像がつく。

 義足調整中という事はきっと三郷先輩があられもない恰好をしていたのだろう。


「僕が神立を呼んだ理由は簡単だ。

 柿岡このバカはある弱点を突かれると簡単にパニックになる。そのままじっとしていれば対処が楽なんだが、なまじ慧眼持ちだからパニック状態のまま的確な行動をとろうとする。でもパニック状態だから誰も理解してくれない」


「それで私と高浜君とで付いて回って、周囲に理解を求めつつ、このでかいのをなだめるの。まあいつもの行動パターンよね。前回は神聖騎士団の攻撃の時だったっけ」


「そうそう、周りの空間の被害を顧みず閉鎖空間をこじ開けようとする柿岡このバカをなだめるのが大変だった」


「で、なだめきれずに別の異空間を作って無理矢理隔離したんだよね、あの時は」


「秀美ちゃん絡みだと簡単にパニックになるからな。それ以外は大丈夫なんだが」


 なるほど。

 まあシスコンなのはこっちも了解済みだ。

 何せ新入生にいきなり菓子折り持って妹分のことを頼む位だし。


「言っておくが、今回異常だったのは僕だけじゃないからな!」

 あ、シスコンお兄が反撃。


「高浜も松戸さんがメンバーでいる事を知った途端、真面目に閉鎖空間への移動路を検討しだした癖に。まあおかげで助かったが」


「松戸さんの知識をここで消すのは損失だからね。僕の行動に問題はない」

 しれっと高浜先輩はそう言ってのける。


 うん、高浜先輩の方が役者は上だな。

 というか柿岡先輩がわかりやすすぎるのか。

 慧眼持ちの癖に。


「あと春に言った佐貫君の警報の件、取り敢えずこれでいったん解除だな」

 お、それは有り難い。

 これで妙な特訓をしないで済む訳だ。


「まあ事象なんて力に寄ってくるものだしね。だから今後何も無いとは思えないわ」

 あ、神立先輩に微妙な事を言われてしまった。


 さて。

 俺は戦闘時に気になった事を思い出した。


「そう言えばどうやってあの閉鎖空間に侵入できたんですか。神すら閉じ込める事が出来る状態だった筈です」

 高浜先輩がにやりとして答える。


「敵を閉じ込めるための封鎖だろ。ならば敵が出入出来ないルートなら開いている可能性が高い。例えば敵を倒した未来。そこには敵は生きたまま到達できないだろう。

 そんな訳でそこから時間を遡って侵入させてもらった。多少のパラドックスが起こっても因果関係さえしっかりしていればそう問題は起きないのさ」


「何せ色々問題を起こして実証しているもんね」

 うん、きっと色々あったんだな。

 高浜先輩も問題児らしいし。


 何か収集つかない言い合いを始めたところで、牛久先生の咳払いが場を鎮めた。


「さて、俺は不幸にもこの事案について報告書を書かなければいけない立場にある。だから取り合えず三郷、事情聴取するからこの場に残れ。他の者は解散。あと1年生組と三郷は本日の授業は出席扱いで休んでいい」


「ええ、3年組はもう出席とらないからいいですけれど、俺は」


「お前は三郷が心配だから勝手にここにいただけだろう」

 あ、図星らしい。

 後台先輩が黙ってしまう。

 見かけはごついのに何か笑える。


「ごめんねヒサシゲ。その代わり日曜ディズニーOKですから」

「お、おう」

 更に後台先輩の様子を見て俺は確信。

 この人、少なくとも三郷先輩に対してはちょろい系だ。

 きっと。

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