第146話 最後のカード

『ちょっと待ったです!』

 第三者の念話が割り込んだ。


『ユーノちゃん中止です!別方法で勝ちに行くですよ!』

 黒色の小さい機動ポッドの出現がみらいから中継される。

 聞こえていた松戸の声が止む。 


『三郷先輩、どうして……』

『話は後です!みらい、コマンド079リンク開始。相手モデルCバージョン26』


『え、何で三郷先輩それを知っているです……え!』

 みらいの驚いた気配。


『解答と解説は後ですよ』

 その言葉とともに矢継ぎ早に情報が送られる。


 俺の敵を捉える視覚に注釈や方向線が加わる。

 敵の弱点と動きの癖、そして直近の行動予測だ。


 行動予測に従い、俺は回避運動を取る。

 今までの余裕が無い回避と乱数機動よりも随分と楽になった。

 送られてくる映像からミシェルや委員長、綾瀬がこの空間に復帰したのも見える。

 そして改めて長太刀を構えなおす松戸の姿も。


 全員が動き出し、配置につく。

『面倒だから一撃で仕留めるですよ』

 聞こえる念話こえが三郷先輩かみらいか判別がつかない。

 でも俺への指示ははっきりとわかる。


 今まで以上に単純な移動経路と攻撃方法。

 俺達は与えられた指示にただ従うだけ。


 指示された通りに飛ぶ。

 曲がる。

 そして迂回して刀を振りかぶり、振り下ろす。

 手ごたえを感じる。

 でもそれを確認せず俺は指示に従い下方へ脱出。

 そのまま後退。


 そして。

 上空から落ちて来て頽れる影。

 影は次第に闇の色を濃くすると同時に形を失う。

 そしてついには跡形もなく姿を消した。


 敵を倒したのだ。


 今の攻撃の全容を説明できる言葉は俺には無い。

 敵の今までの行動を蓄積して分析したみらいか三郷先輩かが。

 敵の行動パターンの裏をかいた動きで俺達を動かして攻撃を集中。

 予備も含めた全てのコアを破壊され、敵は頽れた。

 それが全てだ。

 

 俺は集まりつつある仲間の元へと向かう。

 その中心にある黒色機動ポッドのキャノピーが開いている。

 中の人物にみらいが抱き着いて泣いていた。

 三郷先輩はそんなみらいの背中を優しく撫でている。


「うえーんお姉ちゃんです逢いたかったです逢いたかったですう……」

 何がどうなってどうしているんだろう。

 状況がつかめない。

 それにこの空間、閉鎖されていて綾瀬以外は侵入できない筈じゃなかったのか。


 聞きたいことは山程ある。

 でもその前に言うべきことが多分ある。


「まずは、勝利おめでとう!なのですよ」

 先に三郷先輩に言われてしまった。


「積もる話もあるですけれど、まずはお祝いなのです!」

 三郷先輩はみらいを撫でつつそう宣言する。

 え、そう来るの?


「学校側は既に説明済みなのです。後は私が報告入れれば今日は出席扱いで休めるです。今日は金曜日なので寝て起きた明日土曜日朝9時からパーティなのです。場所はあのキャンピングカー内でメンバーはこのメンバーなのです。

 そこのイケメンさんは参加どうですか」


「うーん、僕は色々ほっぽってここに来ちゃったからね。急いで戻らないとまずいし予定もあるから残念だけど不参加かな」


「残念なのです。しょうがないから今度もっと楽しい機会にまた会おうなのです」


「そうだね。じゃあまた!」

 ミシェルが姿を消した。


「あああイケメンさんと仲良くなれるチャンスだったのに残念です」

「三郷先輩には後台先輩がいるでしょう」

「ヒサシゲは主食なのです。イケメンさんはおやつなのです」


「その台詞後台先輩に密告しますよ」

「それくらいで揺らぐヒサシゲではないのです。色々餌もやっていますし鍛えているのです」

 後台先輩、不幸な人だ。

 まあ、この不幸を甘受して楽しんでいる可能性も高いが。


「さて、学校へ帰るですよ。皆待っているです」

 皆?

 そこに疑問を持ちつつ三郷先輩の座標にあわせて俺達も移動する。

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