第145話 切り札(2)

 何が起こりつつあるのか俺も神眼で見てみたい。

 でもそんな余裕はない。

 何せミシェルが離脱した今、敵は俺の方を向いている。

 避けながら隙を伺うだけで精いっぱいだ。


 俺が止まるわけにはいかない。

 矛先が他の仲間に向ってしまう。


 だから俺はこの場から逃げられない。

 離れられない。


 何が起こっているのか気になる。

 見ることは出来ない。

 ただ念話が聞こえてくるだけ。


『みらい、本当にそうするつもりなら私も使いなさい。意味わかるよね』

 松戸の念話こえがいつになく低くて硬い。


『勝率は上がるです。でも本気ですか』

『本気なのはあなたと同じよ、その理由も』

 何かまずい事が起ころうとしている。

 介入したいがそんな余裕何処にもない。

 委員長は、綾瀬は何をしているんだ。

 そしてミシェル、あの後どうなったんだ。


『あのイケメン君は美久の作った別空間。秀美による回復術実施中です。力を使い過ぎて消耗酷いので秀美に頼んだです。今はいないです』

 みらいが状況を説明してくれる。


『お前たちはどうする気だ。無茶する気じゃないよな』 

『無茶ではないです。私の本来の使用方法なのです』

 みらいの念話の先で松戸の声が聞こえるようなする。

 先程中断したのとおなじ何か呪文か祝詞を唱えているような声。


『私は指揮管制用の兵器として人工的に作られたです。運よく助けられて人間扱いしてもらって学校にも通えたです。ここ半年は特に楽しかったです。だから感謝しているですよ。でも今のままでは能力足りないのです。だから人格や思い出を消去して兵器に戻るです』


『同時に私の奥の手も使わせてもらうわ。神人憑依術、私の身体を憑代にして戦闘に秀でた神をおこす。あの敵とも互角に戦える筈よ。ただ召喚が切れた後の私は保証外扱いだけどね』


『いいのかよそれで。松戸もみらいも!』

『私もユーノも、そうしたいと自分で思ったからそうするだけですよ』


 俺は止めたい。

 何としても止めたい。

 でも俺にその余裕は無い。

 一瞬でも気を抜けば俺がやられると同時に全滅の危機が訪れる。

 俺はこの場から逃げられない。

 必死に綾瀬や委員長、ミシェルに呼び掛けているが応答もない。


『美久の能力でこの閉鎖空間外に出てるです。呼びかけは効かないですよ』

『やめてくれ!』

『往生際が悪いです。この前ひん剥いた時を思い出すです』

 そんな事こんな時に思い出すな!


『それではそろそろお別れなのです。ユーノともども忘れないで欲しいです』

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