第144話 切り札

「ん、何で勝手に2人で行っちゃうかな」

「必ずついていくし嫌でも付き添ってやる。そう言った筈」

 結局全員来てしまったようだ。

「こいつの攻撃間合い長いし当たったら存在を消されるぞ、注意しろ」

「ん、知ってる。来るまでに皆で確認したよ」

 そう言った委員長の手元に穂先が太い槍が現れる。

『お願い、まだ私も動ける状態に戻っていないの』

「ん、ありがと」

 委員長がそう言って槍を構える。

 そして綾瀬の姿がいつの間にか見えない。

 空間閉鎖されて異空間が使えない状態だから、別の方法で姿を隠しているのだろう。

 もっとも綾瀬の場合は断絶した空間であろうと移動できる。

 きっとその能力でこの閉鎖空間にも乗り込んできたんだろう。

『では、指示行くですよ』

 みらいの念話が入った。

『佐貫はちょっと待ちです。ゆっくり敵の右に回るです』

 言われた通り空中を右へと弧を描くように飛ぶ。

 委員長が槍を構え、乱数機動で神に向かうのが見えた。

『佐貫ゆっくり前進です。狙いは脚、最低でも左脚根元から狙うですよ』

 見るとミシェルも反対方向からゆっくりと前進している。

『佐貫機動開始、全速力です。左脚!訂正、左腕全速力で狙って斬ってすぐ離脱です!』

 委員長が狙われているように見えて、敵の狙いは違う。

 最大戦力のミシェルだ。

 狙いを左腕に変えて斬ると同時に速度を増して離脱する。

 クロスするように委員長とミシェルも離脱。

 綾瀬も一瞬だけ姿が見せすぐに姿を消した。

 状況はみらいの中継でわかっている。

 敵は委員長を左腕で狙っているように見せて、本命は下げたままの右腕。

 それを不意に肘から上だけ上げてミシェルを狙おうとする。

 しかし委員長を狙った左腕は俺が斬り、ミシェルを狙った右腕の肘に委員長の槍が入ったことで攻撃が失敗。

 そして全員が直ちに離脱。

 敵の背後から心臓を狙う予定だった綾瀬が時間稼ぎで敵の首筋を穿ってすぐ逃げる。

 大まかな流れはそんな感じだ。

『ごめんです。失敗したです』

『ん、でも皆被害無いし大丈夫』

『むしろ敵の反撃にすぐ対応して被害なしで済んだのは成功じゃないか』

『違うです。思った以上に敵の処理能力高いです。このままの私は対応できないのです』

 この間も敵は攻撃を仕掛けている。

 俺とミシェルで隙を伺いつつ敵を引き付けて乱数機動で躱している。

 でもそれにも限界がある。

『美久頼むです!』

 綾瀬がミシェル横に出現し、一瞬後にミシェルとともに姿を消す。

 その場所を敵の波動が薙ぎ払う。

『敵はこっちの反応に順応しつつあるです。このままでは遠からずやられるです』

『みらいやめて!』

 委員長の悲鳴。

 委員長の神眼が何かに気づいたようだ。

『秀美、左避けるです!』

 委員長が避けようとするがみらいに気を取られていたせいで一瞬遅れる。

 敵の波動が委員長に迫った。

 だが襲い掛かる寸前で委員長が何かに引っ張られる。

 何とか委員長が離脱成功。

『ユーノ、助かった!』

 だが松戸の念話こえは硬い。

『みらい、本気でやる気なの』

『このままでは勝ち目が無いのです。それよりマシなのです』

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