第141話 壁
「殺ったか」
「相談する時間を稼いだだけよ。合流する」
既にミシェルもこっちに気づいている。
「やっぱり来たね。でも今のうちに逃げた方がいいかもしれない。予想以上に強い」
それから松戸の方を見て尋ねる。
「今のは?」
「単なる時間稼ぎです。次はおそらく効かない」
ミシェルも頷いた。
「だろうね。術では向こうの方が遥かに上だ。一度見せたら次は対応されてしまう」
『時間節約のために
『うーん、確かに神聖騎士団の召喚した存在なんだけどね。ある意味神より神らしい存在かもしれない』
ミシェルが肩をすくめる気配。
『神聖騎士団を僕を
『力だけの存在?』
ミシェルが頷いた気配。
『本来神は人間と全く違う道理と常識の世界の存在。道徳も人格もない。人間社会への理解なんてものもない。人間がアリを見てアリ社会を理解してアリの道徳や人格で行動する事がないのと同じさ。アリにとっても同様で人間の社会や行動原理なんて理解できない。神と人間なんて元来そんなものだ』
『この世界で信じられたり語られたりする神は、
ミシェルと松戸が俺に説明してくれる。
『神とは本質的に人間には理解できない存在だ。今僕が戦っていた存在もまさにそんな存在。強いて言えば目的は自存在以外の不都合な存在の殲滅。交渉の余地は無い』
『最悪ね』
松戸はそう言って、自分の長刀をミシェルに渡す。
『私が使うよりあなたが使った方が良さそうだから』
『確かに戦力になるけど大丈夫かい、自分のは』
『他にやる事がありそうだから』
『他に?』
松戸が頷いた気配。
『ここの土着の神に援助を依頼してみる。少しくらいなら協力してくれると思う』
『大丈夫かい』
『そっちの方が慣れた作業だしね。そろそろまた出てくるよ。戦闘準備はいい』
俺も刀を取り出して構える。
「来るぞ!」
目の前の空間が歪んで敵が現れた。
即座にミシェルが斬りかかる。
惚れ惚れするような太刀筋だ。
日本刀の文化圏とは違う育ちの筈なのに。
長刀の軌跡は間違いなく敵の肩から右腕を切断した。
だが敵はそれを意に介せず左腕をミシェルに向ける。
すかさずその腕を俺の刀が切断した。
念のためすぐにその場を離脱。
その寸後、さっきまで俺がいた場所を何かの波動が薙ぎ払った。
見ると敵はミシェルが斬った筈の右腕を俺がいた場所に向けている。
見る間に左腕も復活する。
何だこれは。
『多少のダメージはすぐ復元される。攻撃が通ってもすぐに離脱したほうがいい。あとあの攻撃は受けるな。当たると存在が希薄になり消滅する』
『あんなのどうやって倒すんだ』
『奴は他の世界からエネルギーを送られて活動や復元をしている。でもそれにも限界がある。エネルギー切れか
『しばらくって?』
『数百年程度』
つまり心臓を壊すか、斬って斬って斬りまくれという事か。
かなり厳しい戦いになりそうだ。
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