第140話 現場到着

 松戸の言い方で俺は気づく。


「一人で行くつもりだったな」

 松戸は頷く。


「うん。本当は佐貫にもそれとなく挨拶をするだけのつもりだったんだけどね」

 それが何故俺に事情を説明する羽目になったかは簡単だ。

 いつにない松戸の行動。

 それに何となく危機感を感じた俺は神眼を発動した。

 神眼は俺に伝えた。

『後悔したくなければ全力で行動を阻止しろ!』


 だからその事をそのまま松戸に伝えて事情を聴いた。

 そして今に至る。

 今でも俺は松戸が一人で行かないように、神眼を発動して監視している。

 そういう意味では松戸は信用が無い。


「神眼で、私と佐貫が例の存在に勝てるか判断できる?」

 やってみる。


「俺の神眼じゃ無理。ほとんど慧眼クラスの委員長ならわかるかもしれないけれど」


 ふと神眼が何かに反応した。

 視界の端、タブレットパソコンに表示されている某国の地図。

 そのある場所を神眼が示している。

 イメージとしては地図上にビックリマークが点滅している感じ。

 こんな神眼のメッセージは初めてだ。


 神眼でも解析不能な事態がこの場所で発生した。

 しかもその事態が俺にも関連している可能性が高い。


「松戸、この場所に何か感じるか」

 俺は神眼が今もビックリマークを点滅させている場所を指で示す。


「もう少し細かく場所を特定できない」

 地図をより詳細なモードに切り替えて松戸に示す。

 松戸の異空間能力は俺より高い。

 場所が特定できれば気づかれないよう情報を探る事も出来る筈だ。


 松戸はちょっとの間目を閉じて、目を開き急に立ち上がる。


「佐貫急いで、チャンスかもしれない」

「何が見えた」

「何かが戦っている。その片方はおそらく例の存在」


 松戸はどこかに手を伸ばし、刀を取り出し俺に渡す。

 俺が刀を手に取った瞬間、いつもの浮遊感を感じた。

 そして出たのは巨大な平原の一角。


 戦っているのは近傍の異空間。

 でも通常空間側にも影響は出ていた。

 余りに強大な力の余波が響いているのだ。

 緑のあちこちが削られ砂埃をあげる。

 付近に人家が無いのは幸いだ。


 俺と松戸はそのまま戦いの行われている異空間へ突入。

 戦っているのは2人。


 うち一人は見覚えがある。

 今は人であり名前もある存在、ミシェルだ。

 もう一人は30代位の男性。

 肩まで垂れた長髪、面長な輪郭、二重瞼にこけた頬と顎鬚。

 どこぞの肖像画によくある顔だ。


 戦況はミシェルが大分不利。

 明らかに押されている。

 慌てて加勢しようとした俺を松戸が止めた。


「ちょっと時間を稼ぐわ」

 そう言って例の長剣を取り出し、何かを唱え始めた。

 長剣の切っ先を敵の方に向ける。


「!」

 敵は一瞬松戸の方を見て、そして姿を消した。

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