第138話 冬合宿の終わりに

 まあ色々あったけれど、順調に訓練を続けて今日は30日。


 松戸と綾瀬は明日自宅に帰って正月は家族と過ごすらしい。

 三郷先輩は後台先輩の実家に行くとの事。

 俺と委員長とみらいは寮居残り予定だけれども。


 だから合宿は今日が最終日。

 今回の合宿は割と真っ当に訓練が充実した合宿になった。

 まあ食べ過ぎ騒動とかはあったけれど。

 俺もすぐ治せないような怪我もなかった。


 平和だ。

 平和過ぎて怖い。

 平和だと不安になるというのも変だけど。


 夕食はまぐろ尽くしだった。

 刺身、漬け、カルパッチョ、サラダ、かつと色々。

 トロとかネギトロ等の長持ちしにくい部位はもう残っていない。

 でも赤身だけでもこうやって色々調理方法を変えると飽きない。

 結果として美味しく食べられてしまう訳だ。


 それでもまだ残っている冷凍赤身は寮に残る3人で消費する予定。

 あの日以来動けない程食べ過ぎる事も無くなった。

 皆それなりに注意しているらしい。


 今は食後の一服中。

 海岸で焚火を囲んでいる。

 三郷先輩が、

「最後の夜はやっぱりキャンプファイアーだよね」

と言ったからだ。

 でも大きい流木が見つからなかったので焚火になった。


 ただこれもなかなか風情があっていい。

 気温が高いのであまり火に近づくと暑いけれど。

 これで帰ると冬だなんて信じられない位だ。


「今回はまっとうな合宿だったな」

「ん、それも今日で終わりだね」

 三郷先輩がぶっ飛んだ感じだったからどうなるかと思っていたのだが。

 チームとしての戦力は勿論俺個人の戦闘力も大分上がったのを感じる。

 まだ正直こいつらを巻き込みたくはないんだけれど。


 強いて言えば松戸あたりは一緒にいれば神と戦うなんて場合でも色々知識が役に立つだろう。

 でもそうやって一人認めれば他の面々の参戦も認めざるを得なくなるし。

 悩みは尽きない。


 と、そこで松戸が何か言おうとする。

「さて、今宵は合宿最後の夜です。ここでそろそろ恒例の……」


 やばい、これは!

 俺はとっさに異空間移動をかけた。


 幸い今回は近隣の異空間に妨害は無い。

 俺の異空間移動速度は松戸や綾瀬と比べてもそれ程遜色はない。

 あとは綾瀬の不規則移動に気をつければ時間切れで逃げ切れる。

 そう俺は思ったのだが。


 移動先に夜の色の小型機動ポッドが先回りしてきた。

 慌てて進路を変えても更に進路上へと先回りして邪魔をする。

 結果進路を大きく変えた分俺の異空間移動速度が大幅に落ちる。

 速度が落ちれば追っ手に捕まりやすくなる。

 そして追っ手が元々異空間移動の得意な松戸や綾瀬だったりしたら。


 ちーん。

 捕り物終了。


「三郷先輩ご協力すみません」

 背後から俺を確保した松戸が三郷先輩に礼を言う。


「今ので実戦的な異空間機動能力がテスト出来たです。これなら高浜先輩と異空間追いかけっこしてもいい勝負できるです」

 松戸と三郷先輩の台詞からしてこれは既に計画的犯行。

 となると予想される事態は一つ。


「それでは合宿最終夜恒例、水着開放タイムを開始します!」

 松戸が俺を背後から両手で確保しつつ高らかに宣誓。


「という訳で裏切者は許しません。覚悟しましょう」

 夏合宿その1と同じ悪夢が襲ってきた。

 ちなみに実際に襲ってくるのは悪夢なんて抽象的なものではない。

 綾瀬とみらいの両手だ。


「うへへへへ、恥ずいのは最初だけですよ」

「人生諦めが肝心」

「ん、学習しないね佐貫も」


 今回も俺に味方はいないらしい。

 三郷先輩に至ってはキャノピー開けて携帯カメラを俺の方に構えて動画撮影中。

 おい先輩やめてくれ。

 そんなの流出したら学校で問題になる。


 あとみらい頼む。

 その手を放してくれ。

 やめてお願い。


 せめて自分で脱がせて。

 後生だから……

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