第135話 答は見えない

 大体は綾瀬が料理担当。

 でもたまに他の面子が料理を作ったりするので傾向はわかっている。


 一番わかりやすいのが松戸。

 こいつはレパートリー豊富で腕もあるのだが繊細さがない。

 切り方が大雑把、分量が多め、熱通し過ぎ。

 味付けも和風なら市販そばつゆ多用、洋風ならコンソメかブイヨンで基本OK。

 何かにかけるソースも基本的に市販品そのまま、ケチャップやマヨネーズ、市販ドレッシングかたまにオリーブオイルと岩塩という感じ。


 繊細なようでどこかいい加減な委員長。

 例えば味噌汁の出汁の量が違ったり。

 あと味が基本的に薄味。


 みらいは教科書通りの作り方だが材料も教科書通りで応用がきかない。

 袋入りインスタントラーメンすら裏の説明通りに作る。


 という訳で作るところを見ていなくても、大体誰が作ったか位はわかるのた。

 今日の海鮮丼の仕上げは間違いなく綾瀬。


『そう言ってくれると嬉しい。作り甲斐がある』

『まあ今日は調子に乗って食べ過ぎたけどな』


『だから夕食は遅めに作って、さっぱり食べられるものにしようと思う。後で買い出しに行く。付き合ってくれると助かる』


『いいよ。どうせ他の連中は動け無さそうだし。何処へ行く』

『日本の安いスーパーがいい。生麺とキュウリとトマトが買えれば充分』


 スーパー玉出じゃまずいよな。

 業務スーパーか千歳屋か西友あたりかな。

 どうしても前に学校があった多間センター付近の店が思い浮かぶ。

 そろそろ別の場所も開拓したいところだ。


『どの店がいいかな』

『今日はそれほど買い物しない。どこでも大丈夫』

 まあいいや、行く時に考えよう。


『ところで昨日の夜、少しだけ話が聞こえた』

 唐突に話題が変わる。


『昨日の夜って、三郷先輩の惚気話』

『それもある』


 色々聞こえていたようだ。

 ちょっと昨日の話の内容を思い出してみる。

 大丈夫、綾瀬に聞かれて困る話は無い筈だ。


『だからあえて佐貫に言いたい。1人で勝手に何処かに行ってしまうって事、絶対にしないで欲しい』


 俺の返事を待たずに綾瀬は続ける。

『この前の侵攻の時もそうだ。だからこの場で答えて欲しい。1人で勝手に何処かへ行ってしまうという事はないと言って欲しい』


 ちょっと考える。

 この場でそう言うのは簡単。

 でもそうするのを正直躊躇っている俺がいる。

 今、対策で訓練している癖に、未だこいつらを連れて行きたくない俺自身がいる。

 巻き込みたくないと思う俺自身がいる。


 もうすでに巻き込んでいるのにそれでもまだ躊躇している。

 その癖簡単な嘘さえつけずに固まっている。

 どう答えるのが正解か。

 今の俺には見えない。

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