第132話 猛獣先輩へ注意事項

 とりあえずこの前のような自力移動不可能な状態にはならなかった。

 被害は左肩と右腿の2箇所。

 なお痛覚遮断済み。


 犯人は肩が委員長、腿が松戸。

 内出血に筋肉損傷で骨にひびが入っているが、この程度なら急速治療が可能だ。

 少なくとも今の俺なら。


 という訳で1時間治療に専念して無事復活。

 昼食の時間になった。


 今日の昼食は海鮮丼勝手盛りだそうだ。

 以前からの5合炊き炊飯器の他に俺の3合炊き炊飯器も持って来て準備は万端。

 丼の在庫が無いので四角い大きい平皿に分厚く御飯を盛り付け各自テーブルへ。


 刺身は自分で取って盛り付ける方式。

 大トロを始めとするまぐろ各部、漬けにしたまぐろ赤身、みらいが試食しながらスプーンでかき取ってネギと混ぜたというネギトロ。

 更にアジの刺身とタイの刺身も並んでいる。

 量的にはネットで見た10人前舟盛りの軽く倍以上。


「刺身は在庫が大量にある。足りなければ切って出す」

 と料理長の綾瀬。

 これに御飯が8合。


 今度こそ。

 のんびり食べても俺が食い負けて腹6分目位で我慢する必要は無いだろう。

 そう信じたい。

 何せ大トロすらドーン!という感じで大胆に並んでいる。


 いただきますの唱和の後、大トロ上空で箸と箸による空中戦が始まった。

 俺はそれには参加せず、まずは大量にあるまぐろ赤身から頂く。

 途中で漬けになっている赤身も試食する。

 うん、まだ新鮮だからか身が硬いが悪くない。

 多分もうちょっと熟成した方が旨みは出るんだろうけれど。


 最後に残った大トロを何とか1枚キープ。

 というかトロだけでも十数枚あった身が既に全滅している。

 早すぎるぞお前ら。

 食事はもっとゆっくり楽しむものだろう!


「それにしても凄い量だな、この刺身の量」

 と何となく感想を言ったら即座に反撃された。


「こんなものじゃない」

「大変だったのです!」

 そして委員長が間を置いて言う。


「ん、佐貫。頭と尻尾が無くてヒレも切って血抜きも済んだ状態のマグロ60キロ以上から、どれくらい身が取れるか想像して。その60キロのマグロを捌く苦労も」


「ユーノの家の広い台所とダイニングを占拠して全員でやった。あれくらい広い部屋とキッチンが無いと無理」


「骨まで刃が通る長い包丁すらないからね。仕方ないから某所から脇差借りてきて熱湯消毒して秀美と二人がかりで何とか5枚に下したんだよ」


「ん、テーブルの上に持ち上げるだけでも大変だったな、重すぎて」


「内臓や血合いなんかの加工を主にやっていた。それだけで精いっぱいだった」


「私はひたすら骨や皮からスプーンで身を取っていたです。あの後しばらく右腕のプルプルが止まらなかったです」


「それで結果的に40キロ以上の刺身に出来るサクと、ネギトロ含めて鍋4つ分位の加工品になったの。まあ半分以上はおすそ分けしたし冷凍した分もあるけれど」


 昨日の苦労を晴らすかのように、一斉に説明が飛ぶ。

 思った以上に大事だったようだ。


「うーんちょっと調子に乗り過ぎたです。これでも群れの中では小さめのを狙ったつもりだったですが」

 流石の三郷先輩も少し反省しているようだ。


「ん、先輩は悪くないですよ。私でも見つけたら調子に乗って釣っちゃうな」

「でももう合宿中はあの糸とたも網で釣りあげられる以上の大きさの魚を捕るのは禁止ね。もう配れるところは美久の実家や牛久、取手両先生、柿岡先輩や神立先輩まで配っちゃったし、正直魚の解体だけであそこまで苦労するのも避けたいしね」

 委員長が軽く流そうとするが松戸はもう勘弁してくれという感じでそう宣言。


 そんなに強烈な量なのか……

 俺は自分の想像力の無さをちょっと恥じた。

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