第126話 猛獣先輩は容赦無く
気が付くとあれだけあったパンがほとんど残っていない。
俺はまだ正味4個分も食べていないのだけれども。
その分俺の隣りの見かけだけか弱そうな先輩が豪快に他人から奪って食べていたような気がする。
まさかそこまで管制能力使って?
「ふふふふふ、幸せ反応出ていて隙がある奴のパンをひたすら奪って食べてみたです。美味かったですご馳走様なのです」
やっぱり自分の能力を無駄に使っていやがった。
「眠いのでひと眠りするです。魚をみらいと色々釣ってみたので次の食事は刺身盛り合わせを希望するです。では失礼するです」
ちょっと移動して通路の広い所で小型流線形ボディに変形してそのままベッドルーム方向へ消えていく。
そのままひと眠りするつもりらしい。
なんともやりたい放題で遠慮が無い先輩だ。
まあパンを並べただけなので片付けは簡単。
テーブル拭いてドリンクのタンブラーを集めて洗う位だ。
「そう言えばみらい、どんな魚釣ってきたの」
みらいがプルプルと首を横に振る。
「……三郷先輩凄いのです。松戸家の魚専用冷蔵庫に入りきらなかったので頭と尾はもったいないですけれど残念ながら捨てたですが。現場映像を中継するです」
俺達の脳に直接松戸家の魚専用冷蔵庫内を俯瞰する映像が映し出される。
新聞紙とビニル袋にくるまれた巨大な物体が、小さい商店のアイス陳列ケース位はある冷蔵庫の幅と高さを目いっぱい使ってやっと入っている。
他に立派な赤い鯛だとかこの前と同じ巨大アジの姿も見えるが、そいつらが妙に小さく見えてしまう。
「何これ!」
松戸が驚く姿を見せるのは珍しいのだが、三郷先輩がいるとそれも珍しくなくなっている。
「先輩ミナミマグロと言っていたです。頭と尾が無い今の状態でも60キロ超すです。能力使って明らかに狙って釣っていたです」
「……美久、これ捌ける?」
綾瀬も力なく首を横に振る。
「さすがに自信ない。ここの台所では無理」
それはそうだ。載せられる場所すらトレーラー内にはない。
「寮の台所でも辛そうだし、うちの家の台所借りてがんばろうか。腕力も要りそうだし秀美も手伝ってもらっていい。あとみらいも」
総力戦で挑むつもりらしい。
「ん、面白そう」
「お魚さん捌くのはじめてです!」
女性陣の次の予定は決まってしまったようだ。
しかし豪快と言うか型破りすぎるだろう、三郷先輩。
いままで充分に凶悪だと感じていた4人すらおとなしく感じてしまう。
こんな猛獣、他ではどうやって扱っているんだろう。
それとも学校等ではおとなしいのだろうか。
うーん、2年の他の先輩に後でこっそり聞いてみたい。
◇◇◇
女性陣が全員松戸家へ魚を捌きに行ってしまったので、俺は一人でのんびりと過ごすことにする。
実際昨夜から今朝までは学校だったから寝ていないし。
ベッドではなく寝慣れたいつもの長椅子で横になる。
いつの間にか意識が落ちていた。
気が付くと4時間以上過ぎている。
料理に行った連中が帰ってくる気配はない。
外は大分影が伸びてきている。
夕暮れも近い。
出て行った連中は大丈夫だろうか。
学校に出ていた時間を合わせて20時間以上は寝ていない計算になるが。
そう思ったとたん空間が歪んだ。
眼にクマつけた4人の帰還だ。
その様子を見て俺はテーブルを外しベッドの準備をする。
「ん、悪い佐貫。眠いから御飯起きてから」
「一応マグロも捌いてサクにまではしておいた。ちょっとそろそろ限界。ごめん」
綾瀬とみらいはしゃべる気力もなさそうだ。
合宿時と同じ割り振りで、松戸と綾瀬は固定ベッドの方へ。
委員長とみらいは俺が大急ぎでセットしたリビング変形のベッドにそれでも一応シーツしいて。
ばたり、という感じで倒れるように横になりそのまま寝入る。
松戸家では相当疲れるような活動をしていたのだろうか。
それとも単に起きている時間の限界だったのだろうか。
機動ポッドは全く動く気配はない。
三郷先輩はまだまだ睡眠中のようだ。
俺はやることないし若干お腹もすいてきた。
よし、自分用だけの軽い買い出しに出かけるか。
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