第121話 食べ物の恨みは

 エアストリームに戻ってみると3人が先に戻っていた。


「やっぱり抜け駆けした」

「ん、予想はしていたけれどね」

「ずるいです」

 という3人に状況を説明。


「うー、ミシェルさんが味方で良かったのです」


「ん、確かに。あの存在は変数だったから」

 委員長が妙な事を言う。


「変数って何だ」

「味方か敵か確定していない存在だった、って事ね」

 何故か松戸がそう答えた。


 この2人は俺の神眼よりちょっと進んだ現状把握能力を持っているからな。

 綾瀬も似たような能力はあるらしいし。

 そしてみらいは3人の誰かから随時色々聞いているようだ。

 つまり俺が一番情報に疎い。

 まあしょうがないんだけれどさ。

 何か悔しい。


「ところで表彰式はどうなったの」

「ん、明日の5限で3位決定戦をヤって表彰式だってさ」

「明日の学校は0時からなのです。給食食べて3限4限やって大会の残りなのです」

 そうか、確かに3位決定戦をやっている暇はなかったな。

 それに今回の襲撃の件で職員会議等もあるんだろう。

 先生方も大変だな。


 あ、そう言えば。

「今回のミシェルの件、馬橋先生辺りには言っておいた方がいいよな」

「念話で大体は伝えたわ。あとは先生方が自分で調査するなり向こうの類似組織に連絡を取るなりして調べるでしょ。ただ……」


 あ、珍しい。

 松戸が何か言い淀んでいる。


「ユーノどうしたの」

「馬橋先生経由で取手先生と牛久先生からの伝言が来たの。

 明日の表彰式、当事者の佐貫と私は必ず出席しろって」

 うーん。

 それはなかなか面倒な気がする。


「あ、表彰式は是非私も出るので……」

 あ、みらいが途中で台詞を止めた。


「あ、いいのですいいのです。ユーノと佐貫に表彰式は任せるのです」

 委員長か綾瀬が何か念話でみらいに言ったようだ。

 何となくいやな予感がした。


 ◇◇◇


 翌日5限。

 3位決定戦の方はあっさりとTRICKSTERSが勝利した。

 相手がお散歩クラブならいい勝負だったのだろう。

 でも神仙協会だとやはり力の差がかなりあるようだ。

 友部先輩1人でも勝てそうだったし。


 そんな訳で表彰式。

 仕方ないので俺と松戸は優勝チーム代表として壇上に上がる。

 優勝旗と賞状、副賞を松戸と一緒に受け取って。

 何とか無事に表彰と閉会式を終える。


 そしてさて帰ろうかと思った時だ。

 不意に俺の前に立ちふさがる人影が数名。


「学校新聞の青井です。優勝のコメントとインタビューを行いたいので……」

「あと襲撃者の撃退の件についてもお伺いしたいのですが」

 放送部の実況中継で聞き覚えのある声だ。

 ふと横を見る。

 さっきまでそこにいた松戸はとっくに逃亡済。


 とっさに俺は異空間移動をかける。

 場所は取り合えず寮の俺の自室。

 部屋には直接追ってはこない。

 なかなか紳士的だなと思いつつ、優勝旗や賞状、副賞を部屋に置く。

 直後、部屋のドアがノックされた。


「どうも、学校新聞の青井です」

 紳士的と感じたのは気のせいのようだ。

 しつこいぞ先輩。

 俺は財布と着替えを持って異空間移動。


 その後旧学校跡地、ロスの公園、万博記念公園、サンシャイン60屋上と様々に場所をかえて異空間追いかけっこは続く。

 流石にお散歩クラブ副部長も兼任していただけある。

 無茶苦茶にしぶどい。


 それならばと、俺は空間状態が危険なところを狙って逃走する。

 世界の果ての部屋、きさらぎ駅、犬鳴峠、バーンガル砦、グラストンベリー、ポヴェーリア島。

 更に大阪新世界、崑崙大陸、螺湮城、無名都市と逃げて。

 ようやく青井先輩を振り切った時は日本時刻既に午前7時。

 空間の危険な場所ばかり跳んでいたのでいい加減くたびれた。


 でも俺は行かなければならない場所がある。

 移動中、念話で連絡が入ったのだ。


「いつもの場所で優勝記念パーティをやるですよ。豪華料理買いだし中ですよ」

 そういうみらいの脳天気な伝言が。

 やっとの思いで南の島のエアストリームに辿り着く。


 しかし、だ。

 綾瀬と守谷が用意した優勝記念豪華晩餐会の豪華な食事。

 それは残念ながら飢えた女どもにあらかた食い尽くされていた。

 一応綾瀬が小皿にある程度は取り分けてくれていた。

 でもそれすら守谷のつまみ食いによって半減している状態。


「みらい。お前なあ」

「遅い方が悪いのですよ。ユーノはちゃんと時間通り帰ってきたです」

 まあ確かにそうなんだけどさ。


 うーん。

 コノウラミハラサデオクベキカ……

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