第120話 今は人の名前がある彼
「俺達の前に誰かが襲撃した」
「そんな感じね。それも私達より遙かに強い存在が」
神眼で見る限り戦闘での人間の犠牲者はいなかったようだ。
とすると、戦闘に乗じて騎士団は逃げ出すことが出来たのだろうか。
ならばまた犠牲者を集めてあの敵を作り出す可能性もあるのだろうか。
「大丈夫、その心配は無い。関係者は全て記憶を抹消したからね」
聞き覚えのある声がした。
忘れもしない。
そう。
確かに彼ならあの敵でもあっさり打ち砕く事が出来るだろう。
俺達は声のした方を見る。
上下ジーンズ姿のくすんだ金髪の少年が、そこだけ残った柱の上に腰掛けていた。
「久しぶりだね兄弟。思ったより早かったね」
間違うはずも無い。
夏の終わりに多間のビル屋上で会った彼だ。
「これをやったのは?」
答は既に出ているがあえて聞いてみる。
「僕さ」
彼は事も無げにそれを認めた。
「君のところへ1体行っただろう。あれで気づいたんだ。
この段階ならまだ大した事はないけれどね。これ以上段階が進むと厄介なので始末した。死傷者は出していないよ。主に記憶操作で対応したからね。だからあの存在を生み出した際の犠牲者だけかな、被害者は。
もう少し待って、君達が来ないなら様子を見に行こうと思ったんだけどね。
案の定無事あれを始末した訳だ。前に会った時より大分強くなったようで何より」
「あなたは誰ですか」
松戸が尋ねる。
あの敵ですら止めた視線で。
彼はその視線をごくごく自然に受け止めた。
「僕は僕さ。そこにいる君の彼と同じ。
今では名前もある。ミシェル、ミシェル・メイヤーだ。
まあアメリカ読みでマイケルやマイキーでもいい」
松戸がふっと息を抜く気配。
今の彼の台詞で納得したようだ。
ふと俺は気づく。
前に会った時のような威圧感が無くなっていた。
「前に会った時より何か人間っぽくなっているな」
「僕は人間さ。君と同じにね」
雰囲気も随分と柔らかくなっている。
そう。
まるで普通の人間であるかのように。
そして彼は随分と人間くさい、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だけれどもまだ兄弟ほど人生をエンジョイしていないな。ステディもいないし。
兄弟のように異性4人を侍らせて学校生活を謳歌するにはまだ経験が必要かな」
おい、何という事を言うんだ。
人聞きが悪い。
「まあこれで用件は済んだな。それじゃあ僕は行くよ」
彼はそう言って立ち上がる。
「ではまたな。本当は会わない方がいいんだろうけれど」
彼は姿を消した。
あたりに再び静寂が戻ってきた。
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