第116話 松戸の決意

「神聖騎士団の原罪なき者と同じ、でも犠牲にした人の数が段違いの代物だわ」

 松戸が小さくつぶやく。


「えっ、それはどういう事かしら」

 馬橋先生が松戸のつぶやきに反応する。


「あの敵です。技術としては原罪なき者と同じ、でも圧倒的に大勢の犠牲者の命を内包しています。おそらく南米で起こった昼の地震、それはあの敵を生み出すためのものだったのでしょう」


「ちょっと待って……確認したわ。間違いない」

 他に何人もの先生や生徒が色々反応している。

 松戸の台詞をそれぞれが現状把握能力で確認したらしい。


「そうすると万人単位の人々を屠る威力の武器を使わないと倒せない訳か」

「さもなくば機関銃のような武器で削っていくか」

「さっきの銃撃部隊1のように反撃くらったら終わりだぞ」

 様々に巻き起こる議論。

 そして。


 不意に辺りが静まりかえった。

 議論を始めた先生も生徒も机にもたれかかっている。

 俺は辺りを見回す。

 起きているように見えるのは俺、松戸。


 そして。

「馬橋先生、ありがとうございます」

 松戸が立ち上がり一礼する。

「教員としては出来ない方法で相手をするつもりなのね」

「ええ」

 松戸は頷き、そして俺に説明。


「三郷先輩に相談して、指揮能力が及ぶ全員に強制睡眠をかけてもらった。さすがに校長や教頭、あと3年生の何人かはしぶとかったけれど、馬橋先生が協力してくれたから」


「超法規的措置、って奴ですね」

 三郷先輩がそんな事を言って、続ける。


「さて、残り時間は1時間無いですよ。それに私と馬橋先生の力でもここをこのままにしておくのは20分が限度だと思うのです」


「有り難うございます」

 松戸はもう一度、今度は三郷先輩に礼をして俺の方を向く。


「さて佐貫、行くわよ。神退治に」

 そして俺は何も説明されないまま、いきなり異空間移動させられた。


 ◇◇◇


 出たのは小高い丘の上だ。

 3人程うちの教員が倒れている。

 死んでいるのでは無く眠っているようだ。

 これも三郷先輩なり馬橋先生なりの能力でなのだろう。


「説明するわ。

 あの存在は内部に人間数万人分の命を内包している。

 つまりそのレベルのダメージを与えなければ倒せない」


 数万人レベルって、それだと……


「核兵器でも使わなければ無理、って事か」

「まあそうね。核兵器なら威力次第で倒せるかもしれないわ。もちろん通常空間側にも甚大な被害が出るし、学校も多分使えなくなるでしょうけれどね」


 おいおい。


「まさかそんなモノ、本気で使うんじゃ……」

「さすがに私でもそこまで無茶はしないわ。今回使うのはこの刀」


 古そうな黄土色の鞘に納められた日本刀が現れる。

 長さはそれほど長くない。

 竹刀や木刀の方と比べるとやや短いかな、という感じだ。


「この刀は」

「布都御魂剣。石上神宮から無断で借りた本物よ。あと刃がついている方が下だから。間違えて逆刃刀とか言って逆に使わないでね。国宝を折っちゃうとあとで誤魔化せなくなるから」

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