第109話 委員長の昔話(3)
委員長の話は続く。
「私はその後、何とかしてお兄を助けようと思った。
幸い私のいた狸の里には使えそうな物があった。
過去を見ることが出来る祠。
本当は長老等が過去に失われた知識や過去の出来事を知るために使う場所。
でもうまく使えばあの時のあの場所へ行ける。
あのときの私はそう思った。
長老の部屋にあった本を盗み読みしたりして祠の使い方を覚えた。
敵を倒すための技も覚えた。
そして事件から1年後、私は祠にある過去の扉をくぐった」
委員長はそこでちょっとだけ間をあけ、そして続ける。
「出たのはまさにお兄が敵に立ち向かっているあの現場だった。
でも違うところが一つあった。
もう一人の私がいて、もう死んでいた。
刀で袈裟懸けに切られて大量に出血して既に動かなくなっていた。
私の出現で気を取られた隙をついて、お兄が折れた剣先を飛ばして敵を倒した。
でも剣の毒でお兄も倒れて意識を失った。
私はお兄の傷口から必死に毒を吸い出した。
吸い出した毒で意識がかすれていく中、私の死体が消えていくのが見えた。
何が起こったかわからないまま、私も毒で気を失った」
委員長が言葉を止め、軽く一呼吸する。
「次に意識を取り戻した時、全ては悪い夢だったと思った。お兄が死んだところから私の死体が消えるところまでの全ては夢だったんだと思った。
でもその後すぐに私は気づいた。
里には過去の祠は無かった。
木目が見える仕上げだった筈の神社の鳥居が真っ赤だった。
他にも少しずつだけど私の記憶と世界が違っていた。
一緒に遊んでいた友達も、私が私じゃないことに何となく気づいたんだと思う。
仲間外れにされたわけじゃないけれど、少しずつ私から遠のいていった。
1歳違いで当時仲が良かった友部先輩もその一人。
あとは大人たちのうち、私の母親は気づいたかな。
それで里の皆とはなんとなく疎遠になって。
小学校でここに来たとき、里から離れて一人になれてほっとしたのを憶えている。
お兄と神立先輩は、きっと全部知っている。
神立先輩は祈祷師の訓練をしていて昔から他人の心を読めたし。
お兄は現場にいて全部見ている筈だし。
どっちも怖くて確認できないけれど。
あの2人だけはずっと同じ距離で接してくれるから。
だからオリジナルの秀美は既に死んでいる。私は別の世界からの異邦人」
松戸は頷き、そして凄く軽い感じで返す。
「うーん、それだけ?」
思わずええっ!という顔をする委員長。
松戸は苦笑する。
「だってここの面子、訳ありばっかりでしょ。私はここがいくつめの世界か既にわからない状態。自分が死んだ可能性を何度もこの目で見てきたわ。
綾瀬は人間どころか生物やめかけているし。
みらいもまあ、言わないけど色々あるでしょ。
佐貫もついでだからカミングアウトしたら?」
うっ。
俺にまで話が回ってきたか。
でもこの際だ。
思い切って言ってしまおう。
「ごめん、俺も実年齢は35超えてる。高校は2回目」
「ん、知っていたよ」
委員長の簡単な反応。
そうだったのか。
格好悪いから必死になって隠そうとしていたのに。
がっくりだ。
「そういうわけだから秀美、今後ともよろしくね」
「同意」
「よろしくですぅ」
「という訳で、夕食の準備をしましょ」
松戸の台詞で俺達はエアストリームに向かった。
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