第108話 委員長の昔話(2)
「みらい、何故知っているの」
「友部っちは指揮所の常連さんなのです。私のガードをしていた事もあるです」
狭い学校、色々な人間関係があるようだ。
委員長は軽くため息をつく。
「みらい、どこまで知っているのかな」
「友部先輩は、『秀美は確かに本物の秀美だけれど、私の幼馴染の秀美じゃない』
そう言っていたです」
ふと松戸が体を一瞬震わす。
彼女はその言葉だけで何かに気づいたようだ。
俺には全く見当がつかない。
「ん、ひょっとしてユーノも、ひょっとしたら美久も気づいた?」
「私も同類だからね」
「私の友達は今の秀美」
あれ、気づいていないのは俺だけか?
ひょっとしたら神眼を使えばわかるのかもしれない。
そのつもりは無いけど。
今の流れのまま、委員長の言葉を待つ。
「ん、しょうがないね。本当は春のユーノの事件の時に言っておくのが良かったんだろうけれどね、何か言い出しにくくて」
そう言って委員長はため息を一つつき、続ける。
「長い話になるけれど、いい」
俺達は無言で頷く。
「お兄がお茶会の時、自分だけマグカップを使っていた理由。あれば別にがぶ飲みするからじゃ無い。
昔のお兄は取っ手が細いティーカップを持ちにくかったから。つい最近まで左手しか使えなかったから。慧眼を使うようになって右手も動かせるようになったけれどね。そして右手を失ったのは私のせい」
いきなり強烈な告白が始まった。
「まだ私が4歳でお兄が6歳の時、住んでいた里が襲われた。私とお兄は小屋の中の隠し部屋に隠れた。でも最初の襲撃は陽動で本命は里の奥に空間移動で出現した部隊だったらしい。この事は後で聞いたんだけれども」
既に話の不穏感はMAXだが、委員長は淡々と続ける。
「突然隠し部屋の入口が開かれて、男が現れた。男は私を見つけると嫌らしい笑いを浮かべて刀を振りかぶった。振り下ろす瞬間まで見えた。私は動けなかった。
その時私はちょっと記憶を失ったらしい。
気が付いた時にはお兄に抱きかかえられていた。
さっきの男はやっつけたからもう心配ないし隠し部屋の入口も家具を移動させて塞いだからもう大丈夫だよというお兄の言葉に安心してそのまま眠ってしまった。
お兄が何故か右手を使っていなかったことの意味に気づかなかった。
まもなく襲撃は撃退して隠し部屋から私たちは助け出された。部屋の中には私達の他に折れた剣と、その折れた剣先が喉に刺さった状態で倒れている敵の死体があったと聞いた。剣には毒が塗ってあったとも。
私は無傷で助かった。
お兄はその後3日毒の後遺症で高熱で寝込んだ。
次に会った時は右肩から先が無かった。
それが今での、里におけるあの襲撃事件の公式見解。
でも私が経験した襲撃事件は、実は違うの」
そう言って委員長はいったん息をつく。
「そう、今話したのはきっとこの世界では正しい。
けれど私の体験としては正確じゃない。
私が最初にこの襲撃を経験した時にはね、お兄は死んだの。私をかばって必死になって敵に立ち向かっていって、それこそ全身ボロクズのようになって」
そこで委員長はちょっと間をあける。
俺達は何も言わない。
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