第104話 三郷先輩の実力(2)

「さあ試合は膠着状態だ。このまま時間切れだとお散歩クラブの負け。さあ、内原選手はどう攻めるか」


「おっ、小吉クラブうまい!内原選手が連続ナイフ投げを行ったのですが無傷で躱しました。これもおそらくは三郷選手の指示でしょう。

 あれ、どうした。内原選手と木下選手、一気に通常空間から離れた」


「これは珍しい。三郷選手が何か使ったようですね」


「ジャミング、発動しているのです」

 みらいがそう説明する。


「俺達にはというか、みらいには見えているよな」

「対象を最小限に絞って、内原先輩と木下先輩だけにかけているのです。

 かなり省エネモードなのです。木下先輩はともかく、神眼持ちの内原先輩なら完全な情報遮断にはなっていないのです」



「どんな術がかかっているのか、六町さんの神眼で見えますか」

「ええ。認識阻害系の術です。一時的に五感全てを使用不能にするものと思われます。ですが内原選手は神眼持ちです。この程度の認識阻害なら完全に情報を神眼から遮断出来ないと思われます。

 さてこのまま終わってしまうのか。試合時間はまだまだ残っています」



「ん、誘いだね。あえて神眼だけ残して誘っている」


「そうね。でも省エネモードと言ってもジャミングはそれなりに力を使うのでしょ。どれくらい持つのかしら」


「うーん、私なら今の状況なら10分程度は持つのです。でも三郷先輩の体力だと8分程度だと思うのです」


「ん、その情報も含めての誘い。勝負はジャミングがきれた瞬間に決まる。あと木下先輩は詰みだね」


 見ると木下先輩の位置は大きく動いている。

 通常空間にかなり近いところまで。


「そうね、普通は異空間でも視覚等で自分の位置を判断している。その判断をする感覚を奪われているから、同じ場所にいるつもりでも位置が少しずつ動いてしまうのね。もうすぐ通常空間からの攻撃圏内に入るわ」


 三郷先輩をはじめ小吉クラブ3人が動き出した。

 通常空間に木下先輩が出現した瞬間、2人の槍が決まる。



「さあ、残るは内原選手だけ」

「しかし内原選手、単独でもかなり強いですよ。通常の戦いですと3対1でもまだ内原選手の方が強い」


「あ、認識阻害の術が消えていきます。そして内原選手、異空間で本来の武器、長剣を構えた」



「ここからの小吉クラブの動き、よく見てね」

 松戸がそう注意する。


 内原先輩が高速で軸を移動する。

 幾つもの軸を束ねた上では直線になる軌道で、剣が安食先輩の身体の3箇所を同時に狙った。

 それぞれ通常空間なら右から、上から、左からとなる動き。

 それを幾つもの軸を使って同時に。

 しかし安食先輩は今までの動きとは違う速度でそれを避けきった。


 それでも内原先輩の猛攻は続く。

 更に数十次元の軸を使って小林先輩を狙う。

 しかし小林先輩も不自然かつ素早い動きで通常空間だけを使って避けている。

 速いし、異常な動き。

 

 そして次の瞬間。

 三郷先輩が軽くジャンプする。

 義足が高速で変化。背負っていた補助腕や補助外骨格と組み合わさり一気に変形。

 人が乗っていると思えないような小型の飛行機械に姿を変えた。


 次の瞬間、飛行機械は幾つもの空間軸を跨いで内原先輩の横方向から衝突。

 内原先輩がとっさに攻撃を仕掛ける。

 しかしダメージメーターが半分を超えないところで試合終了の電子音が鳴った。



「今のはどうなったのでしょうか」

「場外判定ですね。内原選手と三郷選手が場外に出たため、残り2対0で小吉クラブの勝利です」

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