第101話 問題児達の情報交換

「なら、せっかくだから観戦しながら歓談しましょう。飲み物は用意しますから」

 松戸がそう言って補助テーブルを出し、更に冷たい紅茶を6人分どこからともなく取り出す。


 放送研究会のアナウンスが整備中のグラウンドを背景に続いている。

「ところで先程の混合術式研究会の松戸選手と綾瀬選手、青井さんを始め何名かの記者等が追跡したみたいですけれど」


「お恥ずかしい話ですが、見事に撒かれてしまいました。記者陣は全滅です。これでも異空間術式や異空間移動には自信があったのですけれどね。これでも15軸次元位は移動できるし操作も出来るのですが、更に高次空間に逃げ込まれてしまいました。 高浜君の姿が無いのでひょっとしたら彼だけは追跡に成功した可能性もあります。しかし高浜君の性格を考えるとですね、まず何も教えてくれないでしょう」


「問題児でしたからね、高浜部長も」

 目の前にいる高浜先輩がばつの悪そうな顔をする。


「そうだったんですか?」

「ちょっと世界の教会や研究機関から色々なものを借りパクしてね。聖遺物とか古魔導書とかオーパーツとかさ。今は使用後ちゃんと返すようにしたけれど」


 あ、松戸が何か視線を逸らした。

 こいつも色々心当たりがあるな、絶対に。


「まさかさっき松戸が使ったアイテムに目を付けたとか」


「あれは対クトーニアン戦で大量生産された物だし、それほど価値はないですわ」

「でもそれだけなら旧支配者そのものを退けるのは無理だろう。違うかな」


 松戸は頷く。

「ええ、あれを目印に旧神の力の一部を借りたんです。呪文はセラエノ断章に載っていましたわ」


 高浜先輩が身を乗り出した。


「あれってもうミスカトニック大学にも現存していないだろ。どこにあった」


「20世紀初頭まで行ってミスカトニック大のシュリュズベリィ教授に直接借りました。ついでに解説もしていただいて。

 PDFでいいなら後で注釈入りの写しを送ります」


「ありがたい。読みたかったけどセラエノへ異空間移動する勇気が無くて読まずじまいだったんだ」


「あそこは行かない方がいいですわ。最近は星辰の位置が悪いですから、下手をすると肉体がロバ・エル・カリイエから出られなくなるみたいです」


 何か高浜先輩と松戸は共通の話題があるようだ。

 しかし話の中身に危険の香りがぷんぷんするので無視することにする。


「何ならPDF、田中に分けてやってもいいか。あいつはビアーキーと相性悪くてセラエノ行けないんだ」


「勿論いいですわ。でも田中先輩、新しい研究会を作って袂を分かったんじゃないですか」


「いや、今でも僕は心情的には田中の方の味方だよ。今のお散歩研究会は正直あまり好きじゃない。異空間移動そのものが目的化している。

 本当は異空間移動は手段であって目的じゃないんだ。その辺の考え方が違ってね。

 でも田中のあの召喚、まさか破る奴が出るとは思わなかったな。個人的には奴の単独優勝に賭けていたんだけれど」


「なら今の最有力は何処だと思われますか?」

「ここを除くとね、小吉クラブだな」


 お、高浜先輩もそっち派か。


「小吉クラブは次でお散歩クラブと対戦ですよね」

「内原は確かに強いけれどね。戦闘能力は2年生の中でもトップだろう。

 でもあいつの強さは個人としての強さなんだ。指揮能力とか作戦組み立て能力はまだまだ三郷には勝てない。今のままではね。

 今度の戦いでそれに気づいてくれれば、内原も更に一歩先に進めるんだけどな」


 高浜先輩は何故か寂しそうにそんな事を言った。


 脳裏に電子音が流れる。

 2回戦第二試合がはじまった。


 マカデミアンナッツの3人は飛行開始。

 TRICKSTERSは飛行可能な笠間先輩だけが飛行を開始。


 そして一気に身長の3倍以上の高さが霧状の物質に覆われる。

 それこそ1メートル先が見えない程だ。

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