第100話 最強の追跡者

 試合終了後。

 すぐに帰ってくると思っていた綾瀬と松戸がなかなか帰ってこない。

 誰も心配はしていないけれど。

 どうせまた海外で買い物をしているのだろう。

 そう思っていたのだが。


 ドンドン!

 エアストリームのドアをノックする音がする。


「入っています」


「ごめん、私」

 松戸の妙に疲れた声がする。


「ごめん、私と美久の全力をもってしても振り切れなかった」

 何事かと委員長がドアを開けた先にいたのは、松戸、綾瀬の他に男子生徒1名。


「いや悪いね。ちょっと本気で後をつけさせて貰ったよ」

 この声は指揮所で聞いた。

 お散歩クラブ元部長にして校内最強の異空間能力者、3年生の高浜先輩だ。


「ごめんね。私の能力不足で」

「ユーノは悪くない。私の技量不足」


 委員長も肩をすくめる


「ん、高浜先輩の本気じゃ振り切るのは無理かもね。最初に目視できる距離にいれば追いかける方が絶対的に有利だし」


「でもなかなかの逃げっぷりだったよ。20軸以上を使ったのは久しぶりだ」

 見かけは好青年という感じだが何か微妙に怪しい雰囲気。

 前に委員長が俺と似ていると言っていたが確かに吸血鬼系の血は感じる。

 でも全体的にはどちらかというと俺より松戸系だ。


「ん、折角だからどうぞ」

 委員長が招き入れて高浜先輩を含む全員がエアストリーム内に入る。


「うーん、いい部屋だね。これじゃ研究会棟の部屋を使わないのも道理かな」


「ん、一応空いている部屋はあるとは言われているんですけどね。ここの方が便利ですから」

 委員長がよそ行きモードで応対している。


「さて、次の試合、ここで観戦できるかな」


「みらい、お願いしてもいい」

「了解であります」

 変な語調で守谷が了解して中継を開始する。


「さて次の試合はTRICKSTERS対マカデミアンナッツ。TRICKSTERSは今度は友部選手、笠間選手、稲田選手の3人だ」


「これは現在のTRICKSTERSでは最強の布陣ですね。いずれも近接格闘戦に秀でた選手で、笠間選手は妖術と飛行術を、稲田選手は欺瞞術と異空間移動術をそれぞれ使用可能です。また友部選手については既に1回戦でおわかりの通りです」


「さて、マカデミアンナッツの方はどうでしょう」

「瓜連選手、静選手、千住選手ですね。全員飛行可能で高速格闘戦に秀でた選手です。また格闘戦の他に及び投げナイフによる投擲攻撃もあります。

 なおチーム名は学年ごとに変化していて、本来の研究会名は高速戦闘愛好会です。ちなみに昨年はカーニバルナイツという名称でした」


「それではこの試合、六町さんはどう見るでしょうか」


「TRICKESTERSの圧勝だね」

 高浜先輩はそうあっさり言ってのける。


「高速戦闘愛好会も弱くはない。でも今年のTRICKSTERSの最強メンバーに仕掛けるには全方面において能力が足りない。すぐに結果が出るだろう。

 それにしても凄い中継能力だね。これも守谷さんの指揮管制能力かな」


「戦力を探りに来ても答えませんです」

 高浜先輩は苦笑する。


「僕は大会のスパイに来た訳じゃないよ。あれはあくまで後輩達の戦いで僕が介入する必要は無いし介入してはいけない。彼らのためにならないからね」


「ん、事実ね。高浜先輩は嘘を言っていないよ」

 委員長がそう言うという事は事実だろう。

 俺の神眼よりも委員長の神眼の方がオリジナルだけあってより高度な能力を持つ。

 そして俺の神眼でも高浜先輩に嘘は見えない。

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