第98話 邪神、召喚
「ん、大丈夫かな、美久もユーノも」
「松戸が予想済みの展開だし、大丈夫だとは思うけどな」
松戸はアイテムその他で対処するつもりのようだった。
しかし邪神と言えども神と名がつくもの相手に何とかなるのだろうか。
無理をしていなければいいが。
それでも対処は松戸の知識に頼るしかない。
松戸が大丈夫だと言うからには信頼するしかない。
「あ、ユーノから言われているのですが、まずいと思ったら実況をユーノ自身からの中継に変えるからよろしくなのです」
「松戸に中継能力ってあるのか」
「ユーノは小隊指揮能力もあるです。なのでユーノの目で見ているそのままを映像として、聞いているそのままを音声として中継するです。本人了解済みの本人による指示です」
松戸というフィルターを通さないと実況すら危険だという事か。
「さて、今大会おそらく最少人数での戦いになると思われます。混合術式研究会対暗黒魔術研究会。混合術式研究会は綾瀬選手と松戸選手。綾瀬選手は今春、松戸選手は昨冬の転入生でデータがありません。
一方暗黒魔術研究会は禁断の呪文を開放する可能性がある田中選手。これは田中選手の暗黒召喚に混合術式研究会がどう対応するかが勝負の鍵となると思われます。
注目の一戦、いよいよ開始です」
電子音が鳴る。
田中先輩を中心に前回と同様の邪神の使い、松戸言うところのレッサー・オールド・ワンが数十体出現した。
この前と同じ展開だ。
綾瀬が動こうとするのを松戸が目で制して、胸元から紙片を十数枚投げつける。
この動きは憶えている。
世界消失をかけて戦った時松戸が取ったのと同じ戦法だ。
紙片はたちまち邪神の使いと同数以上の白い人型となり戦いを挑む。
数と速度に圧倒された邪神の使いは程なく白い人型に駆逐され、姿を消した。
残った白い人型は田中先輩に向けて進撃を開始する。
「おっと、松戸選手は式神使いか。一回戦と同様に邪神の使いを召喚した田中選手に対し更に多数の式神で応戦、邪神の使いを圧倒しました」
「まだお互い様子見ですね。田中選手、笑ってますよ」
白い人型に、空中から蝙蝠の羽と長い尻尾を持つ黒い顔のない生物が4体現れた。
田中先輩を護るように顔のない生物は白い人型と対峙、戦いを始める。
数に勝る人型ともほぼ互角に戦える程度の強さだ。
「さあ田中選手は別の魔物を召喚した。青井さんあれは何でしょうか」
「ナイトゴーントですね。ただあれは時間稼ぎです。おそらく次に出すモノが勝負を決めると思いますよ。
混合術式研究会の方もそれをわかっているようです。だから今の時点でこれ以上の攻撃に出ない。
六町さん。そろそろ五感を遮断した方がいいですよ」
「了解しました。それではこの後の解説は青井さんにお任せして、私は五感を遮断したいと思います。精神力に自信がない方や魔眼、神眼等の現実解析能力を持つ方は第一会場を離れて避難してください。では」
画面が切り替わる。視界の中心に田中先輩。
綾瀬は松戸のすぐ背後にいるようだ。
アナウンスの声が今までより遠く聞こえる。
「さあ、田中選手が呪文を読み終え、空間がきしみ始めました。かなり大物の召喚の模様です。
自信のない方は目を閉じて五感を遮断してください。退避はもう間に合いません」
松戸の視界の中心に捉えられていた暗黒の塊が急速に形を成す。
それはぬらぬらした質感の緑色のうろこ状の物質に覆われた巨体。
蛸のような頭部と蝙蝠のような細い翼を持った禍々しい姿。
黒い顔のない生物も白い式神もそれの顕現とともに地に倒れ消滅する。
観客席からも悲鳴とも嗚咽ともつかない声があちこちで響いているのがわかる。
意識を逸らそうとしてもそれを許さない。
異形の宇宙が生み出した決して理解できない恐怖。
それが松戸の目というフィルターを通してさえ感じられる。
これはヤバい。
そう感じるのもおこがましい。
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