第97話 いよいようちの2回戦
「まず現況ですが、あのトレーラーは今現在も消失したまま姿を見せていません。
選手2名は異空間移動で第八試合直前に到着、試合を観戦していた模様です。
なおトレーラーについては電気水道等接続されたままの状態である事から、異空間か別の場所で稼働中であると思われます。
トレーラーハウスは今までの目撃情報からエアストリーム社製のエアストリームインターナショナル28フィート、2000年頃の欧州用狭幅モデルとのことです。
なお、牛久先生以外に関係するであろう先生方のコメントも取ってあります。読み上げましょうか」
「お願いします」
「まずは1年生の担任取手先生のコメント。
『これくらいで騒いだらあいつらの担任なんてやっていられない。ただ試合に遅刻したり棄権した場合は出席日数に反映するので憶えておけ』
との事です。
また、校長にもコメントをいただきました。
『話は牛久先生から聞いているよね。どっちの結果になっても楽しみにしている』
との事です。
話とはどんな話かについては、回答をいただけませんでしたが、おそらく昨年のお散歩クラブと同様、戦績次第では設立を認めないという事だと思われます。
以上です」
「成程、基本的に教師陣は黙認の方針という事ですね」
「その通りです。詳細は明日午前0時発行の学校新聞号外に掲載の予定です。一部50円ですのでよろしくとの事です」
「新聞研究会も兼部の青井さん、宣伝ありがとうございました」
俺は半ばほっとする。
トレーラー逃走の件は黙認してくれるらしい。
とすると後は戦績だ。
そしてまずは今回の試合。
「さて、暗黒魔術研究会の方ですが、登録が1名のみなので今回も田中選手1名出場です。なお、今回の試合に関し、暗黒魔術研究会名で声明が出ています」
「どんな声明でしょうか六町さん」
「それでは読み上げます。
『第二回戦以降の試合においては、禁断の呪文を幾つか開放する用意があります。精神防護に自信のない方は観戦をお控えください。また危険だと感じた場合は直ちに視線を会場内から逸らすとともに五感を遮断することをお勧めします』
との事です」
松戸が言っていた『それ以上の者の召喚』の事だろうか。
「その声明を聞きますと、昨年のSAN値直葬事案の事が思い出されますね」
「青井さんは異空間や邪神等にも詳しいでしょうから、一般の方にもわかるように説明いただけますか」
「わかりました。
昨年の武闘大会の決勝戦。
当時お散歩クラブに在籍していた田中選手は異空間で手に入れたアイテムと知識を利用した大召喚を行いました。
その結果観客や審判の先生方を含む96名が失神、15名が発狂。
田中選手は直ちに召喚した邪神を召還。
直後に馬橋先生が特大治癒魔法を発動して治療を開始した結果、幸いにも事後治療を合わせ全員が回復しました。
その後の調査で、犠牲者は皆、正気を疑うような恐怖を刻み込まれていた事が判明しています。
いわゆる良識とか常識、健全さと言った価値観が悉くすり減っていることから、英語のSANITYの頭3文字を取って、SAN値直葬事案と呼ばれています」
「そこで何が起きたのでしょうか」
「田中選手の当時の言動やその後の活動から見て、強力な邪神を召喚したのは明らかです。
しかし召喚した神の名や種類等等は明らかにするべきでは無いとされています。
この世界には知ってはならない知識が存在し、それに触れるべきではないとされているのです」
「では先程の声明は、その事案に準じた犠牲者が出る可能性があるという事ですね」
「はい。SAN値直葬事案の時は幸い全員が回復しましたが、今回も無事回復できるとは限りません。精神力に自信がない方や魔眼、神眼等の現実解析能力を持つ方は第一会場を離れて避難することをお勧めします」
「以上、お散歩クラブ副部長も兼任していた青井さんの解説でした。
なお、本実況側は私六町が現実認識解析能力を持っておりますが、私が実況不能になった場合でも青井さん以下精神抗力の高い在籍者により中継は続行する予定です」
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