第92話 学年最強格闘家の実力

 画面上の友部先輩は武器も持っていない。

 ただよく見るとダメージカウンタ付き手甲やブーツ、膝あてや肘あてを装備中。

 つまり徒手空拳ステゴロタイプの格闘家という訳か。


 不意に友部先輩が軽く体をひねり、肘で何かを突くと共に右足で何か蹴り上げる。

 明らかな打撃音が響いて、また静寂に戻る。

 表示板にダメージ判定の状況が映し出される。

 友部先輩のダメージ値が少し増えているが、修験道研究会のうち2名のダメージ値が既定の半分以上まで達している。


「凄いわね。異空間からの2人同時攻撃を異空間術式等無しで迎撃している」

「ん、友部先輩ならそれくらいは出来るよ。相手が同じレベルなら別かもしれないけれど」


 今度は友部先輩が大きく空に舞った。

 軽く回転しながら両手と足とが同時多発的に攻撃を迎撃している。

 更に両手で何かを掴み、投げる動作をした。

 何もない空間から男子生徒2名がいきなり現れ、後方に飛ばされる。

 2人とも既にダメージが規定以上。

 残る1人もダメージの残りは4分の1程度だ。

 

 また静かな画面に戻る。

 友部先輩は今度は両腕を大きく広げたポーズを取り、そして動かない。

「ん、勝負は見えたかな」

 委員長がそう呟くと同時に、一気に画面が動いた。


 一見、突然太刀が後ろに飛んで前に倒れた男が出現したように見える。

 だが守谷の高精度な情報収集能力が捉えたのは、高速かつ繊細な防御と反撃。

 異空間から軸を変えて突きに来た太刀の切っ先を太刀の背を軽く叩くことで軌道を逸らせ、次の瞬間に手元を下から蹴りあげて太刀を飛ばし更に前のめりになった敵の下に入り込んで投げ飛ばす。

 異空間からの見えない筈の攻撃があっさりと破られた。


「あんなの反則です。見えていない攻撃に反撃するなんて非常識です」

 守谷の台詞に今回だけは俺も同意する。


「ん、完全に見えない訳じゃないよ。異空間でも接近されれば気配は感じるし、攻撃の意思が強ければ殺気なり何なり感じるしね。

 だから近いレベルで格闘が出来る人が異空間を充分に使いこなせればそれなりの勝機はあるよ。まあ準決勝まで戦うことは無いけど出て来たら私が相手する。多分今のも私宛のメッセージだろうし」


「委員長宛て?」

 委員長は頷く。


「ん、1年しか年が離れていないし色々あるのよ。仲が悪い訳じゃないけれど」

 そう言われれば思い当たる節が無い訳でも無い。


 旧校舎の時、TRICKSTERS部室の後ろ部分、柿岡先輩と神立先輩の方にTRICKSTERSの他の誰かが来るのを見たことが無いし、逆に委員長が部室の前の方に行ったのも見たことが無い。

 それに委員長。

 狸の里出身という生え抜きなのにあえてTRICKSTERSに所属していない。

 今までは単に思考を読み取られるのが嫌とかそんな思いに遠慮してとかだけと思っていた。

 でも他にも色々理由があるのかもしれない。


「さて、このレベルが続くならうちの主戦力も鍛えておきましょうか。明日の第七試合まで注目カードも無いし。秀美、力を貸してくれる」

 えっ、うちの主戦力は松戸と委員長だろ。

 非常に嫌な予感が……


「ん、いいよ。全速で佐貫の相手をすればいいのかな」

 委員長の言葉からすると、やっぱり対象は俺?


「そう。私と2人でね。私達2人で異空間制御フルに使って攻撃するのを防げれば、どんな相手でも対処できるでしょ。

 佐貫なら大怪我しても治るしね。みらいは管制お願い。美久はご飯よろしくね」


「えーっ、釣りや探検はどうなるのですか」

「佐貫が動けなくなったら遊びの時間ね」

 おい、俺を殺す気か。

「ん、どうせ殺しても死なないでしょ」

 委員長それはないだろう。

 おい、頼む。

 誰か助けてくれ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る