第93話 やっとありつけた飯が美味い

 昨日の夜食も今日の朝食も美味しかったようだ。

 なぜ推定かというと、俺は食べなかったからだ。

 食べられる状態じゃなかった。

 委員長と松戸にボコボコにされたからだ。


 委員長は薙刀の有段者。

 松戸は憑依やリーディングで過去の剣術の達人の動きをマスター済み。

 こいつらが異空間で数十次元もの方向から打ち込んでくるのだ。

 しかも俺は攻撃不可。

 防御すら不可。

 ひたすら避け続けろというとんでもない訓練。


「ん、流石吸血鬼の反射神経。2人掛かりでもなかなか有効打出ないね」

「私も本気で打ち込んでいるんだけどね。なかなかしぶどいなあ」

 そんな事を言いながら1年生最強の2人が本気で打ちかかってくるのだ。


「私も明日の試合があるからこれくらいにしようかな」

 と松戸が言う頃には全身の皮膚が内出血バリバリ状態になっていた。

 飛行能力で体を支えないと立つことすら出来ない。

 痛いのがわかっているから痛覚遮断をしているけれど。


 歩けないので飛行能力でエアストリームの長椅子までたどり着き、倒れる。

 哀れに思ったのか綾瀬が料理を持って来て食べさせてくれようとしたのだが、料理が喉を通る状態ですらなかった。


 ちなみに夜食はサンドイッチ、朝食はスパゲティとアクアパッツア。

 特に朝食はすごく美味そうだった。バジリコペースト入りスパゲティもアクアパッツアも食べたかった。

 でも身体が拒否していた。

 残念だ。


 結局昨日の夜から今日の陽が暮れる今までずっと俺は長椅子の上で寝ていた。

 何とももったいない。

 他の面々は俺の特訓が終了した後は水着に着替えて遊んでいた。

 こいつらの水着姿はいいかげん見慣れてしまったので別にどうでもいい。

 でも俺だけ遊べないのは癪に障る。

 かと言って寮の部屋に帰ると新聞部の猛攻を受けそうだ。

 だから冷房をガンガンにかけた車内でひたすら動かず回復を待つしかなかった。

 それで眠って起きたら今という訳だ。


 痛覚遮断を解除してみる。

 少しあちこちが痛むがほぼ内出血その他は治ったようだ。

 綾瀬が俺のすぐ向かいで夕食の準備をしている。

 俺が目を覚ましたのもベーコンを焼くいい香りがしたからだ。

 食欲も感じる。

 今度は食べるぞ!

 そう思って俺は起き上がる。


「あ、佐貫、復活ですぅー!」

「さすが佐貫ね。あれだけの怪我からもう動けるようになったんだ」

「ん、頑丈なのと自己回復が早いのは確認済みだから心配はしてなかったけどね」

 昨日の犯人2名には全く罪の意識はない模様だ。

 まあ昨日の訓練で何か掴めたような気もするのは事実だけれど。


 松戸が立ち上がり、綾瀬の手元から皿を持って来て並べ始める。

 夕食は分厚いベーコンエッグ、サラダ、スープ、パンというメニューのようだ。

「活動開始っぽいメニューにしてみた」

 と綾瀬。

 なかなか美味しそうだ。

 いただきますを言って食べ始める。

 うーん、厚切りベーコン最高。


「そう言えば学校新聞の件どうなった」

「そうね、次の試合の時に号外でも出ていたら貰ってくるね」

 つまり何も対策せずという事か。

 まあいいけど。

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