第91話 ニュースになってしまったぞ
「青井さん、現場はどうでしょうか」
映像で映っているのは試合会場の校庭だが、何やら放送内容は別のようだ。
「はい、こちらは青井です。只今混合術式研究会の部室消失現場に来ております」
何ですと!
「状況を再度繰り返します。本日21時40分過ぎ、混合術式研究会の使用しているキャンピングトレーラーが消失するという事案が発生しました」
なんとニュースになってしまった。
松戸がばつの悪そうな顔をしている。
「いきなり脱走はまずかったかなあ」
「なお記者によりますと、取材の為トレーラーの扉をノックして学校新聞である旨告げたところ、『もう日経と読売とヘラルド取っているんで大丈夫です!』という返答とともにトレーラーが消失したという事です」
「青井さんは事態をどう見られますか」
「はい、事案そのものはトレーラーごとの異世界移動に間違いないですね。移動の痕跡もしっかり残っています。
つまり混合術式研究会側が、学校新聞の取材に応じたくない何らかの理由があって、トレーラーごと逃走したものと見られます」
「逃走先は判明しませんか。青井さんも異空間能力者ですよね」
「異空間移動の痕跡ははっきり残っているのですが、あからさまに妨害術式がかかっています。追跡はしない方が賢明と判断しました」
「わかりました。なおこの件について、混合術式研究会側の顧問をしております牛久先生のコメントが入っております。『日経と読売とヘラルドなんてブルジョワだ、取るなら東スポかSUNにしておけ』との事です。
この件につきましては、現在学校新聞と放送研究会の記者により合同調査を実施中です。新たな情報が入り次第お伝えします」
おいおいおい。
大事になっていないか。
「私より牛久先生の方がセンスがいいかなあ。次は人民日報とニューヨークポストにしようかしら」
松戸が変なところで共感している。
「ん、牛久先生がああ言っているって事は大丈夫だね」
本当か委員長。
「食料は大丈夫。美味しいのを買い溜めしてある」
「合宿決定ですう!」
いいのか本当に。
「まあ問題を一つ二つ起こしたところで今更でしょ、私達」
問題を自発的に起こしているのは松戸だろう!
「さて第3試合。TRICKSTERS対修験道クラブ。実況及び解説は青井さんが現場の為、いつもの六町一人でお送りします。
さてこの試合は、TRICKSTERSは友部選手を始め近接格闘戦に秀でた選手の層が厚くて有利……っと、今回は友部選手が一人で戦うようだ。大丈夫でしょうか。友部選手は異空間操作をほとんど使えない筈です。
一方修験道研究会は異空間操作を含む機動力ある選手が多く在籍しています。今回出場の名取選手、太子堂選手、長町選手3名とも異空間移動を使える選手です。
さあまもなく試合開始です」
電子音が鳴る。
同時に修験道研究会3人の姿が消えた。
「修験道研究会3名の姿が消えました。どうも異空間からの攻撃を企図している模様です。一方友部選手は動かない。拳を構えた姿勢のまま目を閉じて動かない」
映像は不気味な静けさに襲われる。
「委員長、友部先輩って知っているか」
「ん、勿論知っているよ」
当然のように委員長は答える。
「本当に異空間とか術とか使わないのか。狸系だろ」
「ん、そうだけど友部先輩が術を使うところは見たことが無いな。まあ使う必要もあまり無かったんだろうけれど」
「どういうこと?」
松戸が食い付く。
「ん、見ていればわかるよ。あの人に術が必要ない理由」
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