第88話 みらいちゃん無双
右側の男が刀を落とされ胴を払われる。
単に刀を打ち落としてそのまま胴を横に払っただけ。
しかし速度の暴力で凄まじい威力になっている。
一撃でダメージ判定が規定値を超えて1名が戦列外。
だがその隙にもう1人が間合いに入って守谷めがけて太刀を振り下ろす。
いい攻撃だ。
相手が普通の人間ならば。
守谷は払った短剣を上げて振り下ろした太刀を後方へ払い高速で前方へと逃げる。
追撃をかけようとした男が太刀を振りかぶりなおした。
守谷はその隙に圧倒的な速度差で反撃し逆胴を決めてそのまま右前方へ抜ける。
今のダメージ判定も規定値越えだ。
一方、残った一人は委員長を相手に連続技で攻めているが有効打が全く出ない。
委員長の動きは守谷と違い速くはない。
むしろゆっくりとした動きに見える。
でも時に避けて時に警棒で払って、結果として一撃も受けていない。
そんな委員長に向って2人を倒し終えた守谷が声を掛けた。
「秀美、もういいですよ」
その言葉と同時に委員長の動く速度が一気に上がった。
委員長は後退しつつ特殊警棒の先を手元に戻し特殊警棒を縮める。
「ん、今回の私の役目はここまでかな」
そう言うと同時に姿を消す。
一瞬後、守谷の横に委員長が出現した。
「お、柏選手も異空間を使いました」
「これは今までのデータにありませんね。中学部の大会で異空間使いの石下さん相手でも使いませんでした」
「とすると守谷選手と同様、最近使えるようになったという事でしょうか。異空間移動は術としてはかなりの高難易度の筈なのですが」
「もしそうなら混合術式研究会そのものにその秘密があるのかもしれませんね。さて、ここからは守谷選手が相手をするようです」
守谷が前に出る。
「岩間先輩は手ごわいわよ、充分注意して」
「了解です」
すれ違いざまに小さな声でそう交わしたのが俺には聞こえた。
最後に残った男こと岩間先輩は正眼に刀を構えている。
先程まで激しい連続攻撃を繰り出していたのが嘘のように静かな構えだ。
守谷はそれに対し短剣を脇下に下げて軽く膝を曲げる。
そしてバネで弾かれたように一気に加速した。
そのまま全てを圧する速度で胴を突こうとする。
だが岩間先輩は刀を持ち替えて柄の部分で守谷の剣先を軽く外へ弾いた。
そのまま軽く後退して剣を無造作に振り下ろす。
その先はがら空きの守谷の頭。
当たったかと思った瞬間に守谷の姿が消えた。
「うー危なかったのです強いのです今までと違うのです」
委員長の横に出現した守谷がそうぼやく。
「ん、岩間先輩、接近戦の腕は学内有数よ。実戦経験も豊富だし」
「わかったのです。仕方ないから本来の戦い方に切り替えるのです。恰好良くないけど仕方無いのです」
そう言うと、再び守谷の姿が消える。
不意に岩間先輩が左前方に飛びのく。下げた剣に打突音。
更に岩間先輩は横に飛びのき刀を立てる。打突音。
「凄い。見えないのに避けてる」
「異空間認識が出来なくても気配を察して、自分の隙を認識していれば反応できる。見事だけどどこまで続くかな」
俺の横で綾瀬と松戸が傍観者よろしくそんな感想を言っている。
守谷は軸と位相が異なる異空間に体を潜め、短剣の先だけで攻撃をしている。
体が異空間にあっても守谷の能力で岩間先輩の挙動は全て把握されている。
その上で岩間先輩の一番隙がある部分を短剣の先で攻撃しているのだ。
絶対に自分が攻撃を受けず体勢を崩すこともない。
完全無欠でとっても卑怯な攻撃だ。
岩間先輩はよく反応している。
だが物事には限度がある。
連続攻撃十数回目に守谷の剣が岩間先輩の胴を薙ぐ。
刀を持つ手を落として岩間先輩はそれを受けたが刀の手元近くで受けたので次への対応が一瞬遅れる。
その隙に守谷の剣が岩間先輩の右肩に振り下ろされた。
ダメージ判定が規定値を超えた。
試合終了の甲高い電子音が鳴る。
終わってみれば2対0。試合時間4分32秒。
結果的には圧勝だ。
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