第86話 抽選結果はそれなりに

「さて抽選会の開始です。各選手が昨年の戦績順にくじを引いていきます」

 舞台上の生徒が整列。

 くじの入った箱を持った生徒会会長がゆっくりと歩き始めた。

 守谷の順番は一番最後だ。

 何せうちは出来たばかりの研究会。

 大会での戦績が無いからしょうがない。


 守谷がくじの入った箱を片手を思い切り突っ込んで必死に漁っている。

 くじの最後の1枚がなかなか取れないらしい。

 首が箱に付くくらいに腕を入れて、やっと最後の1枚を取り出す。

 全員がくじを引いたのを確認してか、全員で番号が書かれたくじの紙を開いて見せる。

 守谷の引いたくじの番号は、2番。

 いきなり第一試合だ。

 相手は、肉体言語研究会とある。


「さてトーナメント表が発表になりました。どう思われますか、六町さん」

「全体的に強豪がバラけた結果になりましたね……」


 放送を聞き流しながら委員長に尋ねる。

「相手の肉体言語研究会ってどんな研究会だ」

「ん、名前の通りだよ。武術や体術等も駆使する近接格闘戦の研究会。ただ術式や能力系の技はあまり使わない。無論使うところを見せていない可能性もあるけれど」

 委員長の感じから言ってあまり心配は必要無さそうだ。


 ただ順当に行くと2回戦で暗黒魔術研究会、3回戦でTRICKSTERS。

 結構しんどいかもしれない。

 でも委員長が真っ先にあげた内原先輩率いるお散歩クラブとは別ブロック。

 決勝までは当たらない。

 まあ、どの相手だろうと楽という事は無いんだろうな。

 そんな事を思いながら俺は舞台の方を見る。


 放送は相変わらず続いている。

「さてトーナメント表も発表になった訳ですが、ここで六町さんの注目チームを」


「私の注目しているのは2チームですね。まずは小吉クラブ」


「これはなかなか意外な名前が出てきましたね。解説の方をお願いします」


「小吉クラブは基本的には戦闘力の無い小妖怪中心の互助会的なサークルです。今回エントリーリストに名前がある5人の中にも失礼ですがそれほど強い選手はおりません。ただしその5人の中にクラブ員ではない1名が入っています。指揮所の2枚看板の1人、三郷選手です」


 お、三郷先輩の話題になっているぞ。

 注目しているのは狐先輩と狸先輩だけじゃないという訳か。


「三郷選手はご存じの方も多いと思いますが戦闘能力はありません。今回も補助歩行具を使用しての参加になります。また補助腕も使用していますが、それでも格闘戦等ではほぼ戦力にならないと思われます」


 うんうん、みらいが言う通りだな。


「それでは何故六町さんが注目されているか、御説明をお願いします」


「はい。一般的にはこの大会程度の状況ですと、三郷選手のような大隊指揮能力と小隊指揮能力の差は無いと言われています。

 ただし我々は三郷選手の本当の指揮能力を知りません。大隊規模でもあれだけ的確な現状把握と指揮が可能な三郷選手。それが小隊規模以下の限定領域戦闘で本気を出すとどれくらいの事が出来るのか。


 また三郷選手の指揮能力以外の能力も明らかではありません。それなりの支援能力があるようですが、今まで見せた事はありません。

 更に三郷選手が戦力的には明らかに劣る小吉クラブと組んで出てきた。それが何を意味するのか。それぞれ非常に興味があります」


「なるほど、小吉クラブの評価は三郷選手次第という事ですね」

 つまり詳細は不明だという事か。


「それでは注目しているもうひとつのチームはどこでしょうか」

「これは全てのチームが気にしていると思います。今回唯一の一年生チーム、混合術式研究会です」


 えっ!

 うちの名前が出てきてしまった。


「どんなチームか知らない方のために解説お願いします」


「混合術式研究会は学校移転と同時に新設された1年生5人だけの研究会です。

 主力と思われるのは柏選手。昨年TRICKSTERSを優勝に導いた柿岡選手と同じ格闘・術式どちらにも秀でたバランス型の選手です。特化型の多い今の2年生には少ないタイプで、この選手が中軸に入ればどんな戦闘にも対応できるのではないでしょうか。


 あとデータがあるのは守谷選手。皆さんお馴染み指揮所の2枚看板の1人、みらいちゃんです。この選手に自衛能力も含め戦闘能力があるのかは皆様大変疑問だとは思います。しかし目撃情報等からすると飛行能力と異空間使用能力があるのは確実です。また三郷選手に準ずる大隊指揮能力はそれだけで驚異に値します。


 他の3名、綾瀬選手、佐貫選手、松戸選手は転入生でデータはありません。ただし学校引っ越し時に輸送協力部隊で活躍しましたので異空間能力持ちなのは確実です。

 またこの研究会の出場は昨年のお散歩クラブの際と同様、教員会議による強制との情報もあります。もしそれならこの1年生5名のチームが今回の台風の目になるかもしれません」


「昨年のお散歩クラブと同様にですね。六町さん、ありがとうございました」


 俺は小声で委員長に話しかける。

「おいおいまずくないか。これじゃ思い切りマークされかねない」

「ん、でもうち転入生主体だからマークしようが無いよ」


「でも委員長と守谷はデータあるだろ」

「秀美は完全なオールラウンダーだから付け焼刃の対策は取れないでしょうし、今のみらいなら既に予想の範囲超えているでしょ」


 松戸の台詞は説得力がある。

 確かにそうだ。

 委員長は元々術式格闘技双方を得意としている。

 更に今では飛行や異空間移動も使えて弱点が全くない。


 そして守谷は増えた能力と追加した戦闘知識とほぼ毎日の特訓の成果でとんでもない事になっている。

 多分戦闘能力のチート加減が一番凶悪なのが守谷だ。

 底力をまるで見せていない松戸の隠された能力を抜きにしてだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る