第84話 実は綾瀬も強かった

「とすると、やっぱり最優先で鍛えなければならないのは」

 皆の視線が海辺でへたっている少女に注がれる。

「え……私もともと非戦闘要員です」

 本人、かなり焦った様子だ。


「取り合えず異空間を使った逃げ方だけでも練習しようか。敵の位置は完全に把握できているんだから敵と軸をずらして後退する。それが出来るようになれば大分楽よ。攻撃は他の4人で何とかするから」

 松戸が言い聞かせるように言う。

 結果、守谷は松戸に捕まりいやいや練習開始。

 それを横目で見ながら俺は委員長に尋ねる。


「そう言えば綾瀬はどうなんだ。実力としては」

 委員長は頷いた。

「ん、美久は充分強いよ。ユーノみたいなカウンターと一撃離脱中心のタイプとは相性あんまりよくない。でも逆に私みたいな連続攻撃型には天敵かな。やってみたら」

 綾瀬が頷いて見せたのでやってみることにする。

 まさか松戸並みに恐い思いをする事は無いだろうと思いつつ。


 まずは距離5メートルから。

「いい」

 綾瀬が頷いたので軽く剣を振って、そして全力でダッシュする。

 使える全ての軸を使って最短コースで綾瀬に切りかかる。

 だが寸前で綾瀬の姿が消えた。

 異空間に後退したというのではなく、全ての軸で綾瀬の動きが消えた。


 見えない。

 とっさの判断で軸と角度を変えて異空間に逃げ込む。

 誰もいなかったはずの空間から俺がいた場所に短剣が一振りかざされ、消えた。


 成程。

 俺は綾瀬の特異性に気づいた。

 他の人間の異空間を使った移動はあくまで『移動』。


 だが綾瀬のは根本的には『移動』ではない。

 普通の異空間を使った瞬間移動も、離れた場所にいきなり移動するように見える。

 でも実際は存在が消えて別の場所に現れるわけではない。

 様々な異空間を使って移動しているだけ。

 存在そのものには連続性がある。


 でも綾瀬の場合は違う。

 存在の連続性がない。

 本当に消えて、現れるだけ。

 これでは居場所を認識するのが困難だ。


 ならば、だ。

 俺は全方位に向って構えるような姿勢を取る。

 だがこの姿勢、左後ろ斜めに死角がある。

 つまり誘い受けの構えだ。


 一瞬後、予想通りその左斜め後ろから迫ってきた短剣。

 俺は右方向の異空間へ体をずらすことでそれを回避し。

 左短剣で軽く俺の後ろの空間を薙ぐ。

 綾瀬がもう片方の短剣で俺の短剣を受け止めた。


「成程、守谷の能力を使ってもこれは避けにくい攻撃だな」

 委員長が言った意味がよくわかった。

「でも佐貫、さすが」


「いや、今回のはただの誘い受け。松戸の知識にあったのを使っただけだ。普通はよけきれないな、あれは」

 存在の連続性が無いから位置が予測不能。

 それでいきなり攻撃が襲って来るなんて恐ろしすぎる。

 俺達は守谷の能力があるから異空間でも敵の所在を捉え続けていられるけれど、守谷の能力なしで異空間で戦えばこんなものかもしれない。


 そうすると鍵になるのはやっぱり守谷。

 でもどういう種族や遺伝情報があればこんな指揮管制特化なんてとんでもない能力が出るんだろう。謎だ。

 そう思ったので委員長に聞いてみる。


「ん、サトリとか妖狐とか色々な妖怪の能力が混ざってああなったみたいだよ。三郷先輩もほぼ同じ能力。でも特異すぎるから他には見た事が無いな。小隊程度の指揮能力なら天使系や堕天使系が持っていたりするけれどね」

とのことだ。

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