第83話 防御だけでも手一杯

 それにしても異常な戦い方だよな、今の。

 今の模擬戦の内容を理解できたのは守谷が中継してくれたからだ。

 普通の異空間を使った戦いはどうなんだろう。

 松戸に聞いてみる。


「そうね。普通は軸の違う異空間にいる敵を完全に把握するのは無理だわ。ある程度絶対距離が近ければ気配位はわかるけれど」

 つまり基本的にはわからないと。


「それじゃあ普通はどう戦うんだ」

「自分のいる場所を中心に軸を色々変えてみて敵のいそうな空間を把握するの。みらいちゃんみたいな指揮管制能力付きがいるか、多元軸まとめて視る視界を持っていれば別だけどね」

「そうか、だから守谷を出場させる必要があるんだな」


 松戸は頷く。

「まあそれだけじゃないんだけれどね、みらいの力は。佐貫にもあの能力は取得できなかったみたいだし」

 という訳で出場枠の1人は戦闘力的に最弱な守谷の指定席になった訳だ。


「それに内原先輩や田中先輩は異空間のかなりの軸を把握できて見通す能力があるしね。だからああやって異空間の色々な軸を使った戦闘訓練はやっぱり必要かな。

 次は佐貫、やってみる?」

 俺は頷く。

「そうだな。戦闘時の異空間の使い方にも慣れないとな」


「ん、大丈夫。ユーノ連戦中でしょ」

 そうだった。

 少なくとも守谷をオーバーヒートさせ、綾瀬を全身汗まみれにして、更に委員長と一戦交えているんだった。

 それでも松戸は相変わらず涼しげな感じである。


「大丈夫よ。私の戦い方は体力がない時に覚えたやり方だから」

 俺は砂浜をちょっと歩いて松戸と5メートル位の感覚で向き合う。

 取り合えず左の剣を前向き、右の剣を軽く振りかぶった姿勢で構える。

 まずは松戸の動きを観察しながら。


 基本はあくまで防御だ。

 ただ相手は太刀1本でこっちは短剣2振。

 だからチャンスを狙えば何とかなるかもしれない。


「まずは私からいくね」

 松戸はそう言って、下段に構えた剣を一気に跳ね上げた。

 あらゆる空間を使った最短コースで俺の首元を狙う。

 速い。


 何とか後退しつつ異空間に逃げ込み松戸の隙を伺う。

 松戸は跳ね上げた太刀の勢いそのままに俺の方を薙ぎ払う。

 俺はその太刀を軽く右の剣で跳ね上げる。

 松戸の太刀は急には動きを変えられない。


 この機会に一気に松戸に接近。

 右の剣で胴を突きに行く。

 だが松戸も後退しつつ角度をつけて別の異空間に逃げ込み太刀の向きを変える。

 今度は太刀が真上から降ってくる。


 速い!回避だけでは間に合わない!

 右の剣を斜めに出して太刀筋を流しつつ、俺は体をひねるように別の軸に逃れる。

 牽制で左の剣で松戸のいた場所を薙ぎ払う。

 松戸はそれを避けて後退して間合いを取った。


「うーん。初めてなのに隙がないね」

 おいおいいきなり殺す気かい。

 今のはかなりやばかった。

 俺の現在の最速の動きだったのだが、それでも間一髪。


 回避できたのは委員長の知識にあった二天一流の知識が無意識に発動した結果。

 後は両手用の短剣を片手で振り回せる吸血鬼の腕力と守谷による敵把握能力。

 それに短剣、両手用の重さがなければ太刀筋を流すのは無理だった。

 色々な選択がギリギリで上手く行った結果だ。

 偶然ではないがあくまで紙一重。

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