第82話 教訓:この2人は強すぎる

 選択肢は色々。

 俺は一通り全部を構えて振ってみる。


 俺の筋力は増強されているから武器の重さは問題ない。

 ただ俺自身、長物を振り回すイメージがついていない。

 異空間使用ありの武闘会では長さが不利になる事の方が多そうだ。

 特に長物に慣れていない今の俺の状態では。


 結局俺が選んだのは両手用の短剣2本だった。

 短剣と言っても刃の長さは40センチ、刃幅も5センチ強ある。

 柄だけをやや細身の片手用と取り替えて、練習用に防具一式とともに借りる。


「ん、防御重視の無難な選択だね。間違いじゃないよ」

 とは委員長の評価。

 そのまま委員長と一気に移動していつもの南の島へ。

 俺と委員長以外はここで特訓している筈だ。

 

 見覚えのある砂浜に、半ば海水に浸りながら倒れている少女が目に入った。

「どうした、守谷」

「オーバーヒートなのですユーノ強すぎです厳しいのです」

 大分松戸が派手に鍛えたらしい。


「みらいが安心して出れば試合が楽になるしね」

 松戸と綾瀬が現れた。

 松戸は汗一つかいていないが、綾瀬は肩で息をしている。

「ユーノ強すぎる。防御がやっと」

「でも美久は充分強いと思うよ。後は異空間でも常に敵の死角を意識出来れば」


 そう言えばもともと松戸は強かった。

 ボロボロ体力の状態で、しかも授業用に異空間移動を使わない条件ですら。

 授業の模擬戦で何回か仕掛けているが勝てた事は一度も無い。

 それが吸血鬼に準ずる体力を手に入れたのだ。

 まさに鬼に金棒、洒落にならない。


 なお授業で何回も仕掛けた理由は簡単。

 松戸が強すぎて皆が相手を嫌がるからだ。

 相手をするのは委員長か俺、恐いもの知らずの虎男勝田君くらいのものである。

 勝田も俺と同じで異常に打たれ強いし自然治癒能力が高い。

 そして何より恐いもの知らずで忘れっぽくて女好きだ。

 おかげで毎回酷い目に遭っているのに懲りるという事がない。

 さて。


「ん、それなら次は私の番だね」

 委員長は早くも松戸相手にやる気満々。

「そうね。秀美相手なら私の練習にもなるし」

 松戸の方も敵に不足は無いという感じだ。

「ん、佐貫はまずは見取り稽古だね。みらいの能力を借りて戦い方をよく見ていて」

 委員長がそう言って、そして2人は5メートル程の間合いで構える。


「中継するのです」

 守谷の台詞とともに、脳内に2画面が映し出される。

 それぞれ委員長と松戸の背後から少し離れたところからの画像だ。

 委員長は薙刀を八相の構えで、松戸は太刀を下段に構えている。


「行くよ」

 委員長がそう言った直後、2人の姿が消えた。

 でも守谷の中継画像は異空間の2人を追いかける。

 委員長は松戸の真横にあたる空間に移動し、この空間に対して斜め方向から刃中心だけこの空間に併せて胴を薙ぎ払う。

 松戸も同時に動き空間をずらして薙刀の描く面を躱す。姿勢はそのままだ。


 委員長は更に払った勢いのまま薙刀を回転させ、さらなる別空間に移動しながら薙刀で松戸を切り結ぼうとする。

 松戸は更に方向を変えつつ別空間へ移動し薙刀の軌道を回避する。

 委員長は下向きに加速した薙刀の移動ベクトルを空間操作で捻じ曲げ。手元にもどそうとする。

 その瞬間を隙と見た松戸が見た目にも鮮やかな動きで太刀を振り上げた。

 太刀が委員長を襲おうとする寸前で委員長が薙刀の柄を戻して太刀の軌道を軽くはじく。

 そのまま2人は間合いを置いて静止し、通常空間に戻ってくる。


「やっぱり秀美、強いよね。異空間移動を覚えたのはこの前なのにもう戦闘で使いこなしている。やっぱり元々武術使えると違うね」

「でもユーノの剣術はやっぱり怖い。ちょっと隙を見せると必ず襲って来る。今は予測していたから止められたけど、あの速度で攻撃されると普通は防げないかな」


 うん、理解した。

 どう見ても武術初心者の俺に届くレベルではない。

 取り敢えずこの2人とやる時はまずは防御に徹しよう。

 そう心に誓った俺であった。

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