第79話 お買い物の途中に

 さて。

 朝9時30分の目覚ましで何とか綾瀬が起きてくれて。


 一度綾瀬は部屋に戻り、お互い歯磨きとかして午前10時ちょうどに再合流。

 ちなみにその間にダッシュで色々処理したのは内緒だ。


 さて、靴を履いて外に出て綾瀬に尋ねる。

「行く場所や順番は俺が決めていいか」

「佐貫に任せる。楽しみ」


 との事なのでまずは八王子の街中の路地に移動。

 駐車場の陰になる部分に出現し、ちょっと歩くと真っ赤と真っ青の壁があるパン屋に辿り着く。

 開店後まだそれほど時間が経っていない筈なのにもう結構客がいる。


「お勧めは」

「ブランとフリュイ。あとは任せた」

「承知!」

 トングと籠を持って綾瀬が探検の旅に出たので、俺はイートインに近い方の人が少なめの場所で待機する。

 まもなく一通り漁り終わったようで綾瀬がレジに並んだので合流する。


「次の店の会計は払うからここはお願い」

 本当は次の店の方が会計が高くなる可能性が高い。

 でも面倒なので綾瀬にそう告げ綾瀬が頷いたのを確認して店の外へ出て待つ。

 わりとすんなり会計が済んだようですぐに綾瀬が出てきた。


「どうだった」

 綾瀬は大きく頷く。

 その手にはわんさかパンが詰まった袋。


「まだあと1軒は回っても大丈夫だよな」

 もう一回大きく頷くのを確認して俺は時計を見る。

 現在の時間は10時35分。


「次の店の開店が11時だからまだ20分以上あるけど、寮に一回帰る?」

 綾瀬は首を横に振る。

「ちょっと行きたい処、ある」

「いいよ」


 風景が変わった。

 前は砂浜の海。

 堤防から扇状に広がって砂浜に降りる階段の上にいる。

 左側にキャンプファイアー用の場所や炊事場のような建物が見える。

 音が聞こえないところから見ると、普通の世界とちょっとずれた空間なんだろう。

 でも波が打ち寄せているのは見える。


「ここ、何処……」

 そう聞こうとして俺は声を引っ込めた。

 綾瀬の様子がおかしい。

 妙に真剣に周りを見まわしている。

 何かを確認するかのように。


 そして、ふっと息をついた。

「やっぱり、もう大丈夫」

 何だろう。

 綾瀬はもう一度海を睨みつけるように見て、そして小さく頷いた。


「ここは、私が今の私になったきっかけの場所」

 綾瀬は呟くような小さな声で語りだす。


「小学校高学年の時、ここで体験学習で地引網をやった。網の中に正体不明な魚のひれみたいなものが入っていた。地引網担当の漁師はそれを捨てたけど、男子の一人がそれを拾って調理する魚の中に入れていた。そこの調理場で児童で分担した料理の中にそのひれが紛れていた。それを口にして私は今の体質になった」

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