第78話 危険な時間はやってくる

 急いで布団のシーツを予備と替えてまたたたみ直して押入れに仕舞い、ついでに埃っぽくなった部屋の空気を入れ替えて。


 一通り落ち着いた頃、綾瀬が出現した。

 ピンクの首回りが大きく開いているTシャツとグレーの柔らかそうな布地のショートパンツ姿だ。


「布団借りていい?」

 そう言われてしまったので、俺は押入れから布団を出す。

 いつものエアストリームのベッドよりは狭い。

 でも綾瀬は小柄だから2人でも何とかなるだろう。


「あと掛け布団も」

 というので押入れから出す。

 こっちもカバー換装済。やっておいてよかった。


 綾瀬がどこからともなく長い枕を出してセットする。

「この枕は?」

「これなら2人で使える。いつもは抱き枕」

 おいいつもは綾瀬が抱いている枕かよ。

 そう思って気づく。


 今俺はクラスメイトの女の子を自分の部屋にあげて、自分の布団に一緒入ろうとしている。

 このシチュエーションってかなりエロくないか。


 そんな事を思っている俺に綾瀬は、

「一緒に入ろ」

 と布団をめくって中に入り、俺の方を開けて待っていたりする。

 おい、止まれ俺の妄想!


 何とか布団に入り、綾瀬の隣りに同じ枕で横になる。

 動きがきっとロボットダンスだっただろうけれど。


 ふと、綾瀬が布団に頭まで潜って見せた。

「佐貫の匂いがする。落ち着く」

 その台詞は完全にアウト。

 当然俺は落ち着くどころではない状態。


 綾瀬が今度は俺の方に向きを変える。

 横目で見る顔がすぐ横。

「お願い。能力をもらう前にひとつだけ」

「何」

「このままこっちを向いて」


 体を綾瀬の方に向ける。

 すぐ近くに綾瀬の顔。

 息すら感じるくらい。

 そして綾瀬は次の瞬間、腕と足を絡めて俺に抱きついた。

 くっついた身体の熱さと柔らかさ。

 お風呂上がりのシャンプーと石鹸の匂いと自分とは違う動きの感触。

 おいおい危険通り越すぞそろそろ。

 既に俺のやばい部分が布越しに綾瀬の身体に触れちゃっているし。


「これでいい。これで私を食べて。そして佐貫をちょうだい」

 本能が余分な事をしでかす前に、俺は綾瀬の首筋に口をつける。


 ◇◇◇

 

 目が覚めると違和感を感じた。

 暖かい感触。自分と違う誰かの匂い。

 綾瀬が俺を抱きしめた状態で眠っていた。

 幸せそうな笑顔で寝ている。


 つい顔先で寝息を感じる。

 こうやって一緒に寝ていて感じる思った以上に小さい綾瀬の体。

 触れている部分の柔らかさと熱さ。

 何か幸せな感じがして俺も軽く綾瀬の小さな体を抱きしめる。


 最もその後で本能が現実を認識してしまった。

 目覚ましが鳴り綾瀬が起きるまで。

 俺は悶々としつつ本能と必死に戦う羽目になってしまった。

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