第76話 お買い物はまだ続く
「今度は」
「パン屋の近く」
外に出るとやっぱり違う場所だ。
雰囲気は同じだがこっちの方が郊外というか都会でない感じだ。
俺達は広い通りを渡り、道路の反対側へ。
ここは見覚えがある。
「このパン屋は前にも来たな」
「営業時間の関係。この時間も営業していて味がまあまあ」
綾瀬はそう言って真四角な建物の並木横の入口に入る。
中は奥へ向かって細長い造りだ。
右にカウンター、左にイートインスペースがある。
幸いカウンターには誰も並んでいなかった。
綾瀬は店員に指差しでパンの種類と数を指示する。
店員があれこれ言うのに最小の言葉だけで受け答えをし、支払いだけは俺がして店を出る。
「慣れてるな」
綾瀬は頷く。
「この店はそこまで特別に美味しくはない。でもこの時間に確実に買えてここより美味しい店を知らない。だからよく買いに来る」
「なら今度、休みの日に日本の美味しいパン屋でも行ってみるか。朝10時位開店だと思うけど」
実は日本の美味しいパン店について色々と調べてある。
合宿時に綾瀬と松戸作『美味しいサンドイッチ』を食べたのがきっかけだ。
そのうちいくつかは夏休み中に実際に行って食べてみた。
ここはお勧めという店もある程度ピックアップしてみた。
八王子のあそことか、駒沢公園のあそことか。
湯河原も捨てがたい。いっそ京都もいいな。
「何なら今日か明日」
いきなり食いついてきた。
でもまあいい。
どうせ俺も暇だ。
「いいよ。俺も予定ないし」
松戸が変な特訓の予定を入れなければ大丈夫だろう。
「約束!」
綾瀬はそう言って、そして次の瞬間あたりの風景が変わった。
俺は一歩歩こうとした足を慌てて止める。
今いる場所は部屋の玄関。
レイアウト的に見覚えがある。
ここは多分学校の寮内の個室部分。
俺の部屋では無いから多分綾瀬の部屋だ。
「入って」
というので俺は靴を脱ぐ。
前に入ったことのある綾瀬の部屋と家具は同じ。
家具も飾りも最小限でシンプルだけどテキスタイル類の柄が可愛い女の子仕様だ。
綾瀬は冷蔵庫の中を見て何故か小さく頷き、そして俺の方を見る。
「頼みがある」
何だろう。
「自分の部屋に戻ってお風呂入って、1時間位待って欲しい」
多分1時間というのは夕食を作る時間だろう。
俺が部屋を片付けて綾瀬が来ても大丈夫な状態にして風呂に入っても何とかなる。
「夕食は期待していていい?」
綾瀬は頷いた。
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