第75話 今日は綾瀬とお買い物

 そしてまた来る放課後。

 ただ今日はいつもと流れが違った。


 教室の時点で

「今日は佐貫と美久は別行動ね」

と松戸が宣言する。

 綾瀬は頷く。

 つまり例によって俺以外には打ち合わせ済み事項らしい。


「ん、じゃあね佐貫」

「また今夜です」

 と3人がエアストリームの方向へと消えていく。

 仕方ないので残った綾瀬に聞く。


「今日の予定は」

「私と買物」

 多分例によって遠方へお買い物だろう。


「待ち合わせは」

「私は何時でも」

 綾瀬が持っていた教科書入りディパックが、買い物用エコバッグに変わっている。

 確かに部屋に荷物を置くためだけに帰る必要も無いか。

 俺も綾瀬の真似をして部屋に授業用ショルダーバッグを置き、代わりに空のディパックを持ち出して腕を通す。


「こっちも準備OKだ」

「じゃあ行く」

 綾瀬がそう告げるとともに風景が変わる。

 下がきれいな芝生のいかにも街中の公園、って感じの場所。

 木や塀で陰になる部分に出たので目撃者もいないようだ。

 ちなみにもちろん日本国内ではない。

 車が右側通行で表示が全部英語だ。


「ここは」

「スーパー近くの公園」

 綾瀬はそう言ってとことこ歩き始めるので俺も一緒に並んで歩く。

 特徴的なオレンジ色の時計塔がある公園の入口を出て、交差点を対角線方向にわたり、歩道を歩いて行く。


「前に行った店と違う店?」

「同じ市内の同じチェーンだけど違う店。こっちの方が品揃えが好き」

 つまりアメリカはロサンゼルスの何処かという事か。

 交差点から20メートルも歩くと見覚えのある赤い楕円形の看板が目に入る。

 俺と綾瀬はそのスーパーの中へ入っていく。

 綾瀬は慣れた様子でカートを持ち出し、色々と選んでは入れ始めた。


「今日買う物は決まっているの?」

「今日の朝食と夕食。2人分と3人分」

 つまり俺と綾瀬分、委員長と松戸と守谷分だろう。

 カートを見ると入っているのは野菜類、チーズ、牛乳、ハム類等だ。


「メニューはサンドイッチ?」

「夕食はその予定」

 つまり朝食は別という事だ。

 しかし朝食のメインと思われる食材が見当たらない。

 学校期間中は夕食より朝食の方ががっちり食べる事が多いのだが。


 その事を聞こうかちょっと迷ったが、聞かない事になる。

 綾瀬のことだ。

 それなりにプランはあるに違いない。


 レジで俺のカードで支払い買った物をエコバッグに詰めてもらって、俺達はまた歩き始める。

 今度は公園に向かわず地下鉄への階段を下りる。

 踊り場のところでふっと風景が変わった。

 代わったここも階段の踊り場。

 俺は綾瀬の歩く通り、今度は階段を上がっていく。

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