第69話 俺はそれが綺麗だと思った

「ひとつ聞いていいか」

 俺は松戸に尋ねる。

 ふと疑問に思った事があったのだ。


「松戸、お前いつからその事を知っている。そしてその事に対して動いている?」

 彼女は頷き、口を開く。


「そうね。

 知っているのは最初から。つまり佐貫が転入してきた時点から。

 動いているのは私が失敗した時。あの日自分の部屋のベッドで目覚めた時からよ。

 綾瀬と仲良くなったのも、みらいをこの仲間に引き入れたのも最初から計算ずく。

 どう、これで私が嫌いになれた」


 いや、何か違和感がある。

 松戸が言っているのは事実だ。

 それは俺の能力でわかる。

 でも俺は松戸が嫌いにはなれない。

 それが何故かはうまく言葉には出せないけれど。


「あともう1点。

 他の子と違って、佐貫は私と能力をやりとりする必要は実は無い。

 私自身は能力なんて何も無いただの出来損ないの人形だから。

 だから無視しようと、逆に他の子に対する分を私にぶつけても構わない。

 私の正体を見せてあげる。

 それできっと納得できると思うから」


 松戸はそう言うと立ち上がり、おもむろにいつもの白衣を脱ぐ。

 そして白衣だけでなく、仲に着ていた水色のキャミソールと濃紺のやや丈が短く太いパンツ、更にその先まで脱ごうとする。


「おいおい何を」

「いいからその目でよく見て、私の本当の姿を」

 天眼通で見ろという事か、と気づく。

 そして松戸は全部脱いでこっちを向いた。


「隠蔽も解いたしこれで見えるでしょ、この醜い姿こそ私の本質よ」

 全裸の松戸がこっちを見る。

 一見すると美しい彼女の姿。

 長身と豊かな胸、細身、長い脚という普通に見ても恵まれた彼女の姿。


 でも天眼通で見るとそれとは違う痛々しいまでの姿が明らかになる。

 右目、右耳は機能していない。

 左手は使える筋肉がごっそり減っている。

 内臓はかなりの部分が機能不全を起こしているか欠損している。

 術式で何とか代用している状態。


 心臓すらまともに機能していない。

 単なる逆流防止機能付き血管程度の機能しか動いていない。

 血液循環は何らかの術式に頼っているようだ。

 何故か腸すら短い。

 長く美しい左脚も何かの魔術的な影響かほとんどの部分が生物的に死んでいて、様々な術式で外見を保ち動かしている状態。


 でも。

 何故だろう。

 そんなに酷い姿なのに、俺にはそれが綺麗だなと思えた。

 美しいでも可愛いでもなく、綺麗だと。


 そして気づく。

 綺麗なのはきっと松戸という人間の在り方そのものだ。

 目的の為人以上の力を求めて戦い続けた松戸という意志の在り方だ。

 戦い続けたが故に彼女の姿は傷ついてボロボロ。

 でもそれはきっと彼女の苛烈なまでに綺麗な意志の現れ。

 だからその意志がある限りきっと彼女は綺麗なんだ。

 きっと。

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