第64話 武闘大会出場決定(強制で)
「はいどうぞ」
俺の代わりに松戸がよそ行きの声で応答。
「入るぞ」
この空間に初めてお馴染みのメンバー以外が入室だ。
誰かというと3年組の担任で物理と数学を担当する牛久先生。
委員長や柿岡先輩の出身狸の里の先輩。
その縁でこの名称不明な研究会の顧問に名前を貸してくれたありがたい存在だ。
手には書類入れを持っている。
「入るのは初めてだがとんでもなく豪華だな、ここは」
牛久先生は入るなりまわりを見回す。
「牛久先生、わざわざここへいらっしゃるとは、何かあったのでしょうか?」
委員長もよそ行きの声と言葉使いだ。
「今職員会議が終わってな」
ふっ、と空気が固まる。
嫌な予感。
「ある特定の生徒達に対する議論があった。原因は色々あるから、まずは問題を引き起こした事案を時間順に話そうか」
何となく嫌な展開を予想してしまう。
「まずは1学期の初めころの話だ。未来改変を伴う何らかの事案が発生した。
それまで多様に観察されていて行き来も可能であった未来の可能性への道が急速に閉じ、どの未来の可能性も観測不可能な事態が約1時間継続した。
どんな事案が発生して如何にして収束したのかは未だに不明だ。
ただ、現状認識能力を持つ教員何名かで調査した結果、この事案に関わっていると思われる者を4名絞り込む事が出来た」
何の話かは先輩2人以外はわかっている。
松戸が世界を消滅させようとした事案だ。
つまり4名とは俺、松戸、委員長、綾瀬。
ちなみに守谷もこの件は話を聞いて知っている。
「その次の事案は神聖騎士団襲撃の件だ。
最初の襲撃終了後、ある生徒達が潜伏していた敵部隊を発見した。
その2名と原罪なき者7体及び術者1名は戦闘に突入。
結果2名は敵全員を撃破した。
戦力的に明らかに不利だったその2名がどうやって敵を倒したかは不明。
なおその2名は気絶こそしていたものの、ほぼ無傷の状態で発見回収された」
これはまさに俺と委員長が遭遇した事案だ。
「そして夏休みも終わりの頃、今までに観察された事がない強大な不明存在がこの空間に飛来した。それはこの中にいる1名と会話した後、姿を消した。神聖騎士団の支部一つを壊滅させたことを告げて」
これは夏の終わりの時の話だ。
「そしてそれらの疑惑の関係者と思われる生徒達が特異な能力を持つ指揮担当の生徒と組んで研究会を結成しようとしている。
これは何かあるのではないかという話になった。
そこで、だ」
牛久先生は持っていた書類入れから2枚の紙を出す。
「1枚はこの研究会の結成届だ。早急に名前を決めて私に提出しろ」
それはまあ既定事項だ。
みらい相手に若干揉めるかもしれないが。
「そしてもう1枚はこれだ。結成届と同じ名前を記入して同じく私に提出しろ」
その1枚が問題だ。
表題が『高校部研究会対抗武闘大会出場申込書』とある。
これはまさに、先生が来るまでに話していたあの武闘大会の、それも申込書……
「なるほど、昨年の高浜の件と同じ解決策ですね」
柿岡先輩がそんな事を言って頷く。
先生もその言葉に頷いた。
「柿岡と神立がいるなら話は早いな。
お散歩クラブは準優勝して見事研究会として成立した。
そういう訳だ」
先生はそう言って立ち上がる。
「期限は明日の放課後だ。ではまたな」
そう言って歩いて、扉を開けて去って行った。
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