第61話 移動基地設置計画(2)

「エアストリーム、多分2000年代のインターナショナル、ヨーロッパ仕様か何かのナローボディ、28フィートあたりです。発電機やらシャワーやらフルオプション付きで」


「何だその無駄に超豪華なキャンパーは」

 柿岡先輩はエアストリームを知っていたらしい。


「ん、お兄に夏合宿に行った話したでしょ。あの時使ったのがそれ」

「うう、何とうらやましもったいない」

「あ、それは俺も同感です」


 委員長や松戸が不審がる。

「何で私でも知らないのにそんなに詳しいのかしら」

「エアストリームは一部のアウトドア屋にとって永遠のロマンなの!」


 でもこの手のキャンパーを使ったライフスタイルが流行ったのは大分前。

 中年ニートの俺がかろうじて知っている位だ。

 だから柿岡先輩の世代で知っているとは思わなかった。


「うちの親父もそんな事言っていたけどね、買ってから泊まった日数は多分1月分も無いと思うわ」

 何かキャンピングカー談議になっている。


「ならジャッキアップの事も考えて舗装済みの場所で電源に近くて他の邪魔にならないところがいいな。出来れば水場と下水マンホール近くで……と」

 柿岡先輩は何もない空間から一枚の図面を取り出す。

「うーん、この辺りかな」

 委員長がのぞき込む。


「ん、お兄何それ」

「新学校の図面」

 おいおいおい。


「何それ秘密じゃないの」

「この世界に秘密など無い」

 確かに慧眼通持ちで空間操作可能なら秘密など意味無いだろう。

 でもそれは能力乱用じゃね。


「場所の交渉は僕が責任を持ってやっておく」

 柿岡先輩はそう断言する。

 いいのか、本当に。


「随分と乗り気ね。何からしくない」

「子供の頃絵本で見てずっと憧れだったんだ」

 そうですか。なるほど。

 まあ俺達には都合はいいのだけれど。


 ◇◇◇

 

 学校との交渉事その他は柿岡先輩に任せることにした。

 だいたい学校移転の話すら一般生徒にはまだ知らされていないのだ。


 次の日柿岡先輩が言ったとおり学校移転が発表。

 2週間で今住んでいる部屋も移動する事になった。

 勿論授業は授業として普通に行われ、引っ越し作業は放課後以降となる。

 新旧校舎間は仮設空間ゲートで無理やり通行可能にされている。

 そこを放課後台車やら何やらで頑張って荷物を運ぶ。


 ただ寮の自室が学校から遠い生徒も多い。

 その場合は期限を決めて荷物をまとめさせ、空間操作や瞬間移動の能力者が一気に移動させる。

 綾瀬や松戸は勿論、俺まで色々手伝わされた。

 俺がこの能力を身につけたのはつい最近なのだが、馬橋先生の目は誤魔化せなかったようだ。

 さすが校内最長老(噂)。


 その中で柿岡先輩はしっかり暗躍していたらしい。

 持ち主の松戸家とも個別に連絡を取っていたようだ。

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